広島湾を襲う“ごみのボス”打倒へ―新開発の「高耐久フロート」をカキ生産者が試験導入
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「海洋ごみゼロ」に立ちはだかる課題
瀬戸内海のプラスチックごみを削減するため、広島、岡山、愛媛、香川の4県と日本財団(東京都)は2020年12月に「瀬戸内オーシャンズX推進協議会」を発足。4県海域では年間388トンのごみが発生し、その内302トンは公的機関が処理しているが、オーシャンズXでは残り86トンを回収すると同時に、ごみの発生を抑制する仕組みの構築を目指す。
7月5日には「瀬戸内4県 一斉清掃大作戦!」を実施。漁業関係者や市民ボランティアを中心に千人が参加し、海岸や河川敷で約26トンのごみを回収した。

広島県での清掃作業の様子。ごみ袋に収まらない大きなフロートが目立つ(日本財団提供)
広島会場の荒代海岸(江田島市)では、養殖イカダの浮きに用いる発泡スチロール製フロートが数多く漂着していた。
県は「2050年までに新たに瀬戸内海に流出するプラスチックごみをゼロにする」とゴールを設定しているが、海岸漂着ごみの重量で半分近くを占めるフロートが大きな障壁となっている。広島湾は日本一のカキ生産地であり、イカダ養殖において国内最多の30万個以上を使用。フロート本体や劣化して砕けた破片が散乱し、回収困難な断崖の岸などに蓄積するケースが後を絶たない。

広島市・宇品海岸に流れ着いたフロートごみ。マイクロプラスチック化すると生態系への影響は甚大に
海洋ごみを発生させない養殖業への転換
人海戦術での回収には限度があるため、流出を抑制するのが最善策だ。そこでオーシャンズXは耐久性を高めたフロートとカバーを開発した。

右2つが新開発カバー入り高密度フロート、中央の白色が本体、その間が従来品。左手前は漂着ごみになったもの
従来品のフロートは水圧によって縮み、イカダに固定するバンドから外れてしまうことが多い。新たな強化フロートは同じサイズだが、1.2倍に高密度化して水中で収縮しにくい構造。一方、紫外線による劣化などを防ぐ保護カバーは、主流の簡易型製品と比べて3倍も破れにくい。合わせて使うことで、耐用期間を従来の3年から5~8年まで延ばせると見込む。

フロートが水面に浮いている灯浮標のイカダ。養殖イカダではカキの重さでフロートが沈み込み、水圧により収縮しやすくなる
さらに、ICタグの情報を電波で読み取る「RFID」を活用した個体管理システムも導入。フロートに金属のタグを打ち込んでおくことで、リーダーをかざすだけで瞬時に複数同時に情報を把握でき、持ち主やごみの発生原因の特定、寿命を越える使用や放置の抑制が期待できる。

ICタグを差し込んだフロートに専用リーダーをかざすと端末に情報が表示される
7月からは、県内のカキ養殖業者の協力で実証事業がスタート。30基のイカダに新型フロート千個を順次取り付け、耐久性などをモニタリングし、1年後の実用化を目指すという。
15日には報道陣を集め、広島湾のカキ養殖場で新型フロートの取り付け作業を公開した。広島県漁業協同組合連合会の米田輝隆会長は「われわれ漁業者の意識が変わらないと消費者に認めてもらえない。瀬戸内海のおいしいカキを次世代に引き継ぐためにも、一生懸命に取り組んでいく」と意気込む。日本財団の海野光行常務理事は「海洋ごみ問題は世界的な関心事。本プロジェクトを成功させて、同じ課題で苦しむ地域にも広げたい」と展望を語った。

新型フロートへの交換作業。イカダ1基につき30個強を使用するという
瀬戸内海を荒らす“ごみのボス”の打倒なるか。この施策が、養殖をなりわいとする国内外各地のロールモデルとなることを期待したい。

フロートごみ削減に「使命として取り組む」と誓う漁連・米田会長(右)
取材・文・撮影=ニッポンドットコム編集部
【資料】
- 広島県「海岸漂着物実態調査報告書」令和6(2024)年度
バナー写真:カキ養殖場でのフロート交換=7月15日、広島市

