「桜の戦士」喜び爆発、台風被災者にさらなる健闘誓う:日本、ラグビーW杯ベスト8初進出

スポーツ

「新たな日本ラグビーの歴史だ!」

6万7666人のサポーターで埋まった横浜国際総合競技場の観客席から地響きのような歓声、そしてニッポンコールが降り注ぐ。前回2015年ワールドカップ(W杯)の雪辱を果たし、ノーサイドの笛とともに歓喜の拳を突き上げる「桜の戦士」たち――。

地元開催の19年W杯1次リーグのスコットランド戦でリーチ・マイケル主将(31歳、東芝)を中心に総力を挙げ激闘を制してベスト8に初進出、日本ラグビー界の新たな歴史を切り開いた男たちは試合後、インタビューやツイッター、インスタグラムで喜びを爆発させるとともに、台風19号で被災した人たちの励みになろうと、さらなる健闘を誓った。

ラグビーW杯1次リーグ・日本-スコットランド。ベスト8進出を決め、記念撮影する日本代表ら=2019年10月13日、横浜国際総合競技場(時事)
ラグビーW杯1次リーグ・日本-スコットランド。ベスト8進出を決め、記念撮影する日本代表ら=2019年10月13日、横浜国際総合競技場(時事)

勝利の余韻に浸る間もなく、テレビの“ヒーローインタビュー”に立ったのは、今大会初先発で2トライを決め、最優秀選手に選ばれたウイング・福岡堅樹選手(27歳、パナソニック)。

ジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチの期待に見事応え、「チームに勢いを与えるプレーを目標にしていたので、それができて本当に良かった。因縁の相手に最後勝ってベスト8を決め、自分たちの歴史を作ることが目標だったので最高です。(準々決勝の南アフリカ戦でも)自分たちがやってきたことをすべて出し切り、日本のラグビーの歴史をさらに塗り替えたい」と胸を張った。

そしてツイッターに自らのトライの写真を載せて「これが新たな日本ラグビーの歴史だ! 本当にたくさんの応援ありがとうございました!!」とファンに感謝した。

「台風で被害に遭った日本を元気にしようぜ」

福岡選手が語るように、スコットランドは日本代表にとって“鬼門”だった。過去のW杯では3戦全敗。前回大会では、優勝候補の南アフリカから金星を挙げるなど3勝しながら、スコットランドに完敗(10対45)を喫し、決勝トーナメント進出を阻まれている。それゆえ、スコットランドに勝ってのベスト8進出は、チーム全員にとって悲願だった。

スコットランドの激しいタックルを受けながらも、猛練習で磨いた「オフロードパス」で次々とボールをつなぐ。「ONE TEAM(ワンチーム)」のスローガン通り、チーム一丸となった展開ラグビーを象徴していたのが、前半25分のプロップ・稲垣啓太選手(29歳、パナソニック)の勝ち越しトライだ。

実に代表在籍7年目での初トライ。「笑わない男」の異名をとる男は、ヒーローインタビューでも笑みを見せずに「みんながつないでくれて、一番いい舞台で一番いいトライをさせてもらった。台風で被災された方々に、ラグビーで元気を取り戻していただきたい、そういう気持ちを持って今日は試合に取り組みました」と答えると、「歴史を作った。ここからさらなる挑戦が始まる。台風で被害に遭った日本を元気にしようぜ」とツイートし、南アフリカ戦への決意をにじませた。

ラグビーW杯1次リーグ・日本-スコットランド。前半、トライを決める稲垣啓太(左)=2019年10月13日、横浜国際総合競技場(時事)
ラグビーW杯1次リーグ・日本-スコットランド。前半、トライを決める稲垣啓太(左)=2019年10月13日、横浜国際総合競技場(時事)

一方、この日も立った状態で相手からボールを奪い取り、ピンチを一瞬にしてチャンスに変える「ジャッカル」で、スコットランドの波状攻撃を食い止めたナンバーエイト・姫野和樹選手(25歳、トヨタ自動車)は、試合後のインタビューで「メチャクチャうれしい、その言葉に尽きる。苦しい展開もあったけど、最後まで、ホイッスルが鳴るまで、一人ひとりがハードワークしたのが勝因、そんな仲間たちを誇りに思う」と死闘を振り返った。

後半、流大選手(27歳、サントリー)に替わってスクラムハーフを務めた田中史朗選手(34歳、キャノン)は「前半はジャパンのやりたいようにプレーできていたが、後半はスコットランドが底力を出してきた。守りに入った状態だったが、自分たちのディフェンスで止めることができた」と語った。

また、0対7の前半17分、反撃のノロシとなるトライを上げ、今大会のトライ数をトップタイの5に伸ばした松島幸太朗選手(26歳、サントリー)は「有言実行できた! 日本が台風で大変な時に最大の事ができて良かった! みんなで乗り越えていきましょう! What a day!!!」とツイート。

センター・中村亮土(28歳、サントリー)が「日本中に勇気を……その想いでディフェンスしました」とツイッターで、試合中の気持ちを明かすと、リーチ主将に替わって終盤コートに立ち、ラスト2分のスコットランドの猛攻に立ち向かったツイヘンドリック選手(31歳、サントリー)も「コーチたちも今日、自分たちに言いました。今日は家族のために戦う、この台風で大切な人を亡くした方々のために、その方たちを忘れることなく力一杯戦うこと。今日は、日本の全ての人達の為に戦う!」とツイートし、選手ばかりでなくチームスタッフも一丸となった勝利を強調した。

「優勝目指して次も頑張りますっ!」

20日に東京スタジアムで行われる準々決勝。対戦相手の南アフリカは、日本へのリベンジに燃える。スコットランド以上の難敵だが、「かなりチャンスはあると思うし、日本は自信を持って戦えている」と姫野選手はコメント。さらに「優勝目指して次も頑張りますっ!」とのツイートに、選手たちのひそかな自信がうかがえた。

熱戦から一夜明けた14日、流選手はツイッターを更新。そこでノーサイド後のスコットランドチームのフェア精神について明かした。

試合後、ゲームキャプテンのグレイグ・レイドロー選手とロッカーでジャージを交換した際、「本当におめでとう。君たちなら南アフリカに勝てる。頑張って!」と激励されたという。試合中は両チームともエキサイトして、揉み合いになる場面もあったが、ラグビーというスポーツならではノーサイド精神が伝わるエピソード。流選手はレイドロー選手のジャージの写真を掲載するとともに、「紳士的で本当に尊敬できる選手だと思います。偉大な選手とプレーできて良かった」と感謝した。

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