諦めずに戦い続けた「桜の戦士」に惜しみない拍手:日本、ラグビーW杯4強ならず

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ラグビーのワールドカップ(W杯)日本大会で20日、日本は準々決勝で過去2度の優勝を誇る南アフリカに3対26で敗れた。4強の壁は厚かったが、フルタイムの合図まで諦めずに立ち上がり、戦い続けた「桜の戦士」たちには、東京スタジアムを埋めた4万8831人の観衆をはじめ、全国のファンから惜しみない拍手とねぎらいの言葉が送られた。

南アフリカの強さに脱帽も、「次」を見据える選手たち

「自分たちが用意したものは全て出し切った。相手が強くてかなわなかった、それだけです」。試合終了直後、テレビのインタビューに冷静に答えるフッカー堀江翔太選手(33歳、パナソニック)のコメントに、この日の試合内容が凝縮されていた。

前半を終えて3対5。日本代表は、相手ディフェンスの鋭い出足にトライこそ奪えなかったものの、ハンドリングなどでミスを連発し、地に足がついていないような南アフリカの選手たちを見て、後半での巻き返しを誓ったはずだ。 

大会開幕前、日本は南アフリカと壮行試合を行い7対41で敗れた。ただ、敗因はつかんでいた。だからジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチは、18日の記者会見では自信をのぞかせた。「9月の試合はリハーサル。南アフリカがやってくることをわれわれは分かっているが、われわれがやろうとすることを相手は分からない」。相手が世界屈指のフィジカルを前面に出して、スクラム、モールでプレッシャーをかけ、ハイパントで攻めてくるのは間違いない。その対策は立てたし、さらに自分たちには秘策がある――そう言わんばかりだった。

前半は、ジョセフHCの言葉通り、理想的な展開に持ち込んだ。最初のスクラムこそ押し負けて先制トライを許したものの、相手プロップの10分間退場にも乗じて、19分には相手スクラムを押し込んで得た反則から、スタンドオフ田村優選手(30歳、キヤノン)がペナルティーゴールを決めて2点差に迫った。

課題だった南アフリカによるハイパントにもしっかりと対処できていた。攻撃面では、アイルランド戦やスコットランド戦とは異なり、裏スペースへのキックを多用して南アフリカを揺さぶろうとした。前半を終えてボール支配率では73対27と日本が圧倒していた。

ところが――。後半に入るとラインアウト、スクラム、モールと攻守にわたって、優勝を含むW杯上位常連国・南アフリカのフィジカルの強さが、ボディーブローのように効いてくる。たまらず日本は反則を重ね、ペナルティーゴールを献上して、ジワジワと引き離された。 

真っ向勝負を挑んでの完敗。試合後のインタビューでは、選手たちの表情には、ある種の達成感と充実感が感じ取れた。

ウイングのレメキ ロマノラヴァ選手(30歳、ホンダ)は、「チャンスはたくさんあったが、フィジカルが全然違った。徹底的に分析され、向こうはわれわれのサインプレーを全部分かっていた」と南アフリカの強さに脱帽。

ノーサイド直後、涙にむせんでいたスクラムハーム田中史朗選手(34歳、キヤノン)も笑顔に戻って「若い人には、ハードワークはもちろん、世界に臨む気持ち、世界を倒す気持ちを持ってもらえれば、もっと上に行ける」と次世代の選手たちにエールを送った。

また、今大会で15人制代表を引退することを表明しているウイング福岡堅樹選手(27歳、パナソニック)も、「最後は笑って終われる大会にしようと思って臨んだので、何一つ後悔はありません」と晴れやかな表情で話すと、「来年の五輪に向け、いい弾みがついた」と東京五輪7人制の代表への抱負を口にした。

一方、スクラムハーム流大選手(27歳、サントリー)は、「どんな世界の強豪にも、ワンチームとなって一致団結すれば、結果はおのずとついてくることを証明できた。今回はベスト8だったので、次はさらなる上を目指す」と、2023年フランス大会での4強入りを見据えていた。

ラグビーW杯準々決勝・日本-南アフリカ。南アフリカ戦の後、ファンにあいさつするリーチ(中央)ら日本代表=2019年10月20日、東京スタジアム(時事)
ラグビーW杯準々決勝・日本-南アフリカ。南アフリカ戦の後、ファンにあいさつするリーチ(中央)ら日本代表=2019年10月20日、東京スタジアム(時事)

“にわかファン”を魅了した日本代表の多様性

ジェイミー・ジャパンが今回のW杯で我々に伝えてくれたものは、こうしたラグビーという競技自体の楽しさ、奥深さばかりでない。

「彼らは、ラグビーのプレーという枠を越えて、われわれにいろいろなことを教えてくれた」と、前回イングランド大会の日本代表フルバック五郎丸歩選手(33歳、ヤマハ発動機)は語る。

その最たるものが、サッカーや野球にはない「多様性」とその素晴らしさだろう。

ラグビーにおいては、外国籍の選手であっても自国以外の代表選手への門戸が広く開かれている。たとえば、本人が日本で生まれたか、あるいは3年以上継続して日本に住むか、通算10年にわたって住めば、日本代表資格を持つ。また、両親・祖父母のうち1人が日本人である場合も同様だ。

日本代表選手を見ると、メンバーとして登録されている31人中、姓名にカタカナが使われている選手は14人。彼らの表記をよく見ると、「トンプソンルーク」と「ジェームス・ムーア」のように「・」のある選手とない選手に気づく。 

実は、「・」なしで姓名が続けて表記されているのが日本への帰化選手、「・」があるのは外国籍選手。日本には、リーチマイケル主将(31歳、東芝)を含め8人の帰化選手がおり、さらに5歳の時に日本国籍を選んだウイングの松島幸太朗選手(26歳、サントリー)もいる。

日本チーム最年長のトンプソンルーク選手(38歳、近鉄)は、2004年に来日して三洋電機、近鉄でプレー、2007年大会から4回連続でW杯出場を果たした。2010年に日本国籍を取得したが、「好きな街に暮らし、その国を代表して戦う。そこがラグビーのいいところ。日本代表としてプレーするからには、日本人として戦いたかった」と語る。

今大会開幕前、「日本代表の強さは、主にニュージーランドや南アフリカ、オーストラリア、トンガなど、ラグビー強国から来た外国人選手のおかげ」との外野の声は、かなりあった。

ところが、やがて彼らの日本代表にかける想いや心温まるエピソードが、日本代表の快進撃に合わせてSNSなどで広まると、異なるルーツ、文化を持つ選手たちがさまざまな苦労を乗り越えて一致団結する姿に、多くの日本人が感動し、それまでラグビーのルールや代表選手の名前すら知らなかった人たちを“にわかファン”に変えたのだ。

負ければ代表最後の試合と公言していたトンプソンルーク選手は、完敗にも温かな拍手と賛辞の言葉を送ってくれたスタンドのファンに感慨無量の表情だった。そして「このチームで一緒にプレーしたことを誇りに思う。そして日本人の皆さんの素晴らしい応援に感動した。ありがとうございました」と感謝し、頭を下げた。

この日、10月20日は、くしくも2016年に53歳で他界した「ミスターラグビー」、元代表監督の平尾誠二さんの命日。その平尾さんこそ、日本に深い愛着を抱く外国出身選手を積極的に起用して、ジャパンを強化する現行の方針を、初めて本格的に取り入れた人だった。今大会の日本代表の戦いぶりには、天国の平尾さんも目を細めているに違いない。

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