ヒートショック:野村元監督の急死を誘発したか

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プロ野球の名捕手、名監督と言われ、2月11日に亡くなった野村克也さん(84)。自宅の浴槽でぐったりした様子だったと報じられており、入浴時の急激な寒暖差で血圧が大きく変動する「ヒートショック」が、急死を誘発したとみられている。ヒートショックは冬場、高齢者や、持病のある人に多い。

風呂場での大きな血圧変動

ヒートショックは、特に冬の風呂場で起こりやすい。暖房の効いた暖かい部屋から寒い脱衣所で裸になり、血管が収縮して血圧が上昇し、浴槽に入ると今度は体が温まり血管が広がって血圧が急低下する、大きな血圧変動が原因だ。心臓や血管に負担がかかるため、心筋梗塞や脳梗塞などを引き起こす。

高血圧、糖尿病、動脈硬化症や、心臓、脳、血管に病気のある人、さらに酒に酔っている人は、一層の注意が必要だ。入浴中に亡くなる人は、年間に国内で約1万9000人と推計されている(厚労省研究班の調査)。

沙知代夫人と同じ死因だが…

愛妻家だった野村さんは2017年12月に沙知代夫人(享年85)に先立たれたが、発表された死因は「虚血性心不全」で、くしくも二人、同じだった。虚血性心不全は、心臓に血流が行き渡らず(虚血)、酸素不足になって心臓が動かなくなる病気だ。

野村さん夫婦は冬場に同じ死因となったが、二人の亡くなる時の様子を見ると、少し違う点がある。沙知代夫人は朝食を取ろうとしていたが、用意された食事には一口しか手を付けず、しゃべれなくなった。しばらくしてテーブルで意識を失い、病院に搬送され、野村さんに見守られて亡くなった。

前日に夫婦で外食しており、突然の死だった。血圧が上昇する朝に異変が始まっており、血管内の血の塊で血流がせき止められ、心臓に血が流れなくなって虚血性心不全になったと推測される。

一方、野村さんは2010年に、3層構造の大動脈の一部が裂けて新たな血流を作り、破裂の危険を伴う「解離性大動脈瘤(りゅう)」のため緊急入院。4年後に再発し、再び入院するなど、血管の重い持病があった。前述したように、心臓、脳、血管に病気のある人はヒートショックのリスクは高まる。野村さんは夜、一人で風呂に入っていて、ヒートショックとなった可能性が濃い。

野村さんは亡くなる1週間ほど前にNHKで放送された「ひとりを生きる」と題したテレビ番組の中で、沙知代夫人が亡くなり、家のことは何もできず、「男の弱さを知った」と語っていた。愛妻を晩年に亡くした男の悲哀に満ちた言葉だ。もし沙知代夫人がいれば、もっと早く風呂場での異変に気付いて、大事には至らなかったかもしれないと思うと、残念だ。

握手会でファンに色紙を渡す楽天監督時代の野村克也さん(中央)と沙知代夫人(左)=2009年1月29日、宮城・仙台市内のホテル(時事)
握手会でファンに色紙を渡す楽天監督時代の野村克也さん(中央)と沙知代夫人(左)=2009年1月29日、宮城・仙台市内のホテル(時事)

寒い時は脱衣所とトイレは暖める

日本医師会はヒートショック対策について、次のように呼びかけている。 

入浴中に亡くなる原因の多くはヒートショックとみられる。浴室とトイレは家の北側にあることが多く、ヒートショックの予防のため、寒い時は脱衣所やトイレを小型の暖房機(温風式)で暖める。

  • ぬるめのお湯に入り、長湯は避ける
  • 冷え込む深夜ではなく、早めの時間の入浴を心掛ける
  • 肩が寒いときは、お湯で温めたタオルをかける
  • お湯がたまっている浴槽のふたを、入浴前に開けておく
  • 風呂場の床にすのこやマットを敷いておく

バナー写真:ヤクルト球団設立50周年を記念して行われたOB戦の試合後、取材に応じる野村克也さん=2019年7月11日、神宮球場(時事)

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