ニュースで振り返る2023年の日本

社会

ウクライナ戦争の行方が見通せない中、パレスチナ自治区ガザでの戦闘激化による人道危機が勃発して世界が揺れた2023年。国内では旧ジャニーズ事務所が創業者による過去の性加害を認めて謝罪し、社会の強い関心を集めた。自民党の裏金疑惑で東京地検特捜部が強制捜査に着手し、岸田政権は窮地に立たされた。新型コロナの「5類移行」で、人々の暮らしはほぼ正常に戻った。

【新型コロナウイルスをめぐる動向】

新型コロナウイルス感染症は5月8日、感染症法上の位置づけが変更され、5類相当となった。感染対策が緩和され、外出制限や自粛要請といった法的な拘束力はなくなった。演劇や音楽コンサートなどの公演、プロスポーツ、お祭りなど各種イベントはいずれも平常通りに開催されるようになった。厚生労働省によると、11月の最終週における全国の感染状況は、1医療機関あたりの平均患者数が2.75人。8月末には20人前後に増加したものの、その後減少に転じ、事態は 落ち着いている。

日本政府観光局によると、10月の訪日外国人客数(推計値)は、251万6500人。19年10月と比べ、0.8%の増加となった。訪日客数が19年を上回るのは今回が初めて。11月もコロナ前と同水準の244万800人となり、海外との人の行き来はほぼ正常に戻った。

【政治】

岸田文雄首相は政権発足2年を前に、9月に内閣改造を断行。外相に上川陽子・元法相を起用するなど、女性閣僚は過去最多に並ぶ5人となった。しかし、10月には、女性との不適切な関係を報じられた山田太郎文部科学政務官、東京都江東区長選を巡る公職選挙法違反事件に関与した柿沢未途副法相が相次いで辞任。11月には度重なる税金滞納などが問題となっていた神田憲次副財務相が辞任した。

12月には、東京地検特捜部が自民党安倍派の政治資金パーティー収入を巡る裏金疑惑を捜査しているとメディアが一斉に報道。松野博一官房長官、西村康稔経済産業相ら安倍派の閣僚4人が14日に辞任するなど、首相は厳しい局面に立たされた。特捜部は12月19日、政治資金規正法違反(不記載・虚偽記載)容疑で安倍派と二階派の事務所を家宅捜索した。

岸田首相は1月、国会での施政方針演説で、「従来とは次元の異なる少子化対策」を実現したいと強調。12月にはその全容をまとめた「こども未来戦略」案を公表した。児童手当の拡充や多子世帯の大学授業料の「無償化」などが柱で、事業費は3.6兆円規模。

公明党を1964年に創設し、長年にわたり政界に強い影響力を持った池田大作・創価学会名誉会長が11月15日に死去した。95歳。

【外交】

主要7カ国(G7)の議長国となった2023年の日本。岸田首相は1月に欧州3カ国とカナダ、米国を歴訪した。バイデン米大統領との首脳会談では、日本の「反撃能力」保有を盛り込んだ新たな安全保障戦略を踏まえ、日米同盟のさらなる強化を図る方針で一致した。

韓国の尹錫悦大統領が3月に来日し、岸田首相と会談。5月には「シャトル外交」で岸田首相が訪韓するなど、日韓関係は改善した。8月には日米韓3カ国の首脳が米キャンプ・デービッドで会談。3首脳が国際会議に合わせてではなく、単独で会談するのは初めて。安全保障協力の強化や首脳会議を毎年定例化することなどで合意した。

岸田首相は3月、ウクライナの首都キーウを電撃訪問してゼレンスキー大統領と会談。4月、5月にはアフリカ4カ国(エジプト、ガーナ、ケニア、モザンビーク)を歴訪した。

5月19日から21日まで、広島市でG7サミットが開催。各国首脳は原爆資料館をそろって訪問。ウクライナのゼレンスキー大統領も広島入りし、各国首脳と会談した。G7サミットは、「G7広島首脳声明」を発表。ウクライナ支援を継続するとともに、「核軍縮・不拡散の取り組みを強化する」と表明した。

平和記念公園で原爆死没者慰霊碑への献花を終え、記念撮影に臨むG7首脳=2023年5月19日、広島市中区(時事)
平和記念公園で原爆死没者慰霊碑への献花を終え、記念撮影に臨むG7首脳=2023年5月19日、広島市中区(時事)

10月に勃発したイスラム組織ハマスとイスラエルによる戦闘。上川外相は軍事衝突を受けて開催された「カイロ平和サミット」に出席し、11月にはイスラエルとパレスチナ自治区、ヨルダンを訪問。11月7、8日には東京でG7外相会合が開かれた。

日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)の外交関係50周年を記念し、12月には東京でASEANとの特別首脳会議を開催した。

中国国家安全局は3月、「スパイ活動に従事した疑いがある」としてアステラス製薬の幹部を北京で拘束。4月に林芳正外相が訪中して中国の秦剛(しんごう)外相と会談し、早期解放を強く求めたが、同幹部は10月に逮捕された。

中国の税関は8月24日、東京電力福島第1原子力発電所のALPS処理水海洋放出を受け、日本の水産物の輸入を全面的に停止すると発表した。岸田首相は11月、APEC首脳会議で訪米した際に中国の習近平国家主席と会談。処理水問題について対話で解決することで一致したものの、双方の主張の隔たりは埋まらなかった。

岸田首相は11月、フィリピンを訪問してマルコス大統領と会談。日本が今年度創設した「同志国」に対する「安全保障能力強化支援」の枠組みの初適用として、フィリピンに沿岸監視レーダー5基を供与することで合意した。

北朝鮮は1月から月1回以上のペースで弾道ミサイル技術を使った発射(国連安保理決議違反)を実施。ICBM級の弾道ミサイル発射も複数回に及んだ。5月、8月に軍事偵察衛星をロケットに搭載して打ち上げた事案はいずれも失敗したが、11月の打ち上げでは偵察衛星を「地球周回軌道に進入させることに成功した」と発表した。

【経済】

元日銀審議委員で経済学者の植田和男氏が4月9日、黒田東彦氏の後任として日本銀行総裁に就任した。10日の就任会見で植田総裁は、前体制からの金融緩和を維持することを表明した。

辞令交付後、握手する日銀の植田和男総裁(左)と岸田文雄首相=4月10日、首相官邸 (時事)
辞令交付後、握手する日銀の植田和男総裁(左)と岸田文雄首相=4月10日、首相官邸 (時事)

日銀は7月の政策決定会合で、大規模金融緩和策の一環である「長短金利操作」の運用を柔軟化し、長期金利の上限を現状の0.5%程度から、1.0%まで事実上引き上げることを容認。10月には1.0%を一定程度超えることを容認する決定を行った。

連合が7月5日に発表した2023年春闘の最終集計結果によると、平均賃上げ率は3.58%で、1993年(3.90%)以来の高水準となった。前年比では1.51ポイントの上昇。中小組合(組合員300人未満)の平均賃上げ率は3.23%。前年を1.27ポイント上回った。

総務省が公表している消費者物価指数によると、23年10月の消費者物価(全国、生鮮食品を除く総合)は前年比2.9%上昇。1月は4.2%で、2月から8月までは3%台で推移した。

内閣府が12月8日発表した実質国内総生産(GDP)改定値は前期比年率で2.9%減、前期比では0.7%減となった。マイナス成長は4四半期ぶり。物価高に加え、円安も重しとなって個人消費が0.2%減。コロナ禍からの、日本経済の回復の弱さが浮き彫りになった。

政府は11月2日、低所得世帯への給付や所得税と住民税の減税を盛り込んだ総額約17兆円の総合経済対策を決定。29日には同対策の裏付けとなる総額13.2兆円の23年度補正予算が成立した。

22年から続く円安は23年に入っても続き、外国為替市場の円相場は1ドル=140円台を中心に推移。10月下旬から11月にかけては一時、1ドル=150円台まで円安が進んだ。

東京株式市場は、日経平均が年明け2万5000円台の水準で始まったが、その後はコロナ禍での規制緩和が進む中、ほぼ一本調子で上昇。7月3日にはバブル崩壊後の高値となる3万3753円をつけた。その後は3万1000円台から3万3000円台の間で推移した。

【産業】

日産自動車は7月、仏ルノーとの資本関係を見直し、23年度中に互いの出資比率を15%にそろえる契約を結んだ。これまでルノーの日産への出資比率は43%。日産はルノー傘下から脱することになる。

東芝は、3月に国内投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)からの買収提案を受け入れると決定。9月にTOB(株式公開買い付け)が成立し、12月20日に上場廃止となった。島田太郎社長は続投。取締役7人のうち6人を買収側が占め、新体制で経営の立て直しを図る。

【社会】

政府の有識者会議は11月、人権侵害の指摘もあった外国人の「技能実習制度」を廃止し、人材の確保と育成を目的とする新制度を創設すべきだとする最終報告書をまとめた。

ジャニーズ事務所創業者の故ジャニー喜多川氏による性加害疑惑を巡り、藤島ジュリー景子社長らが9月7日に記者会見し、性加害の事実を認めて謝罪した。藤島社長は辞任し、後任にはタレントの東山紀之氏が就いた。同社はその後、タレントの育成・マネジメント事業から撤退し、社名を変更すると発表。10月17日付けで「SMILE-UP.」となり、被害者の補償に専念するとしている。

世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の高額献金などの問題を巡り、政府は10月13日、教団の解散命令を東京地裁に請求した。文化庁が質問権を7回行使したほか、元信者や親が信者の「宗教2世」などへの聞き取りを実施し、勧誘活動の被害が約1550人、計約204億円に上るとした。教団側は、全面的に争う方針。また、12月には被害者救済に向け、教団の財産監視を強化する特例法が国会で可決、成立した。

5月18日、歌舞伎俳優の四代目市川猿之助(当時47歳)と両親が自宅で倒れているのが発見され、父の段四郎さんと母が死亡した。警視庁は6月、猿之助(本名・喜熨斗孝彦)容疑者を逮捕。多量の向精神薬を飲ませ、自殺ほう助の罪に問われた被告に対し、東京地裁は11月、懲役3年、執行猶予5年の有罪判決を言い渡した。

【科学技術】

製薬大手のエーザイは1月、アルツハイマー病治療薬「レカネマブ」の承認を国に申請した。中央社会保険医療協議会(中医協)は12月、患者1人当たりの薬価を約298万円と設定し、保険適用の対象とすることを決めた。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)の新型ロケット「H3」1号機は3月、2段目エンジンが点火せず、打ち上げに失敗。JAXAは11月の記者会見で、23年度中に2号機の打ち上げを目指す方針を明らかにした。

理化学研究所は3月27日に記者会見し、国産初の量子コンピューターがクラウド利用を開始したと発表。10月には、この初号機の愛称を「叡(えい、英語表記は“A”)」と決定した。

国産初の量子コンピューターと理化学研究所量子コンピュータ研究センターの中村泰信センター長=2023年3月27日、埼玉県和光市(時事)
国産初の量子コンピューターと理化学研究所量子コンピュータ研究センターの中村泰信センター長=2023年3月27日、埼玉県和光市(時事)

【文化】

5月のカンヌ国際映画祭で、ビム・ベンダース監督の「PERFECT DAYS」に主演した役所広司さんが男優賞、是枝裕和監督の「怪物」で坂元裕二さんが脚本賞を受賞した

将棋の藤井聡太竜王は6月1日、名人戦を4勝1敗で制し、史上最年少(20歳10カ月)で名人位を獲得。10月11日には王座戦で永瀬拓矢王座に勝利し、史上初めて八大タイトル独占を達成した。

王座を奪取し、史上初の全八大タイトル制覇に笑顔の藤井聡太八冠=10月11日、京都市東山区(時事)
王座を奪取し、史上初の全八大タイトル制覇に笑顔の藤井聡太八冠=10月11日、京都市東山区(時事)

宮﨑駿監督の映画『君たちはどう生きるか』が7月14日、劇場公開された。12月には米国とカナダで公開され、公開後初の週末となる8日-10日の興行収入でランキング1位となった。

バナー写真:記者会見に臨むジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子前社長(右から2人目)ら。同3人目は東山紀之新社長=2023年9月7日、東京都千代田区(時事)

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