山形県南陽市役所「ラーメン課」が人気マンガとコラボ──「ラーメン大好き小泉さんラッピング列車」出発進行!

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「日本のラーメン」にハマり、全国各地でご当地ラーメンを楽しむ外国人観光客が増えている。そうした中、山形県南陽市は昨年12月、山形鉄道フラワー長井線、人気マンガ「ラーメン大好き小泉さん」とコラボして、ラッピング列車の運行をスタート。山形ならではの「出前ラーメン文化」を体験してもらおうと、インバウンド向けツアーの企画にも乗り出した。

「ラーメン王国」山形

全国にご当地ラーメン数あれど、「ラーメン王国」「全国一のラーメン好き県」と呼べるのが山形県だ。

総務省が毎年2月に発表している「家計調査」によると、1世帯当たりの「中華そば外食費」で、山形市が2020年まで8年連続で日本一を達成。21年に新潟市に抜かれたものの、22年には1万3196円で首位に返り咲いた(2位新潟市、3位福島市)。

また、日本ラーメン協会などが昨年10月に初開催した「日本ご当地ラーメン総選挙」では、東北ブロック代表として出場した、魚介だしスープに自家製麺、薄皮ワンタンをのせた「酒田ラーメン」が、来場者による投票とSNSでの拡散数により初代王者に輝いた。

人口10万人当たりの店舗数でも山形県は約60店で全国1位。酒田ラーメンのほかにも「冷たいラーメン」「とりもつラーメン」「米沢ラーメン」「辛味噌ラーメン」など、村山・最上・置賜(おきたま)・庄内の4地域にはそれぞれ個性的なご当地ラーメンがひしめく。

まさにラーメンは県民のソウルフードであり、山形県は昨年10月、キャッチフレーズ「ラーメン県そば王国」の商標登録を特許庁に出願している。

なぜ、山形県民はラーメンが大好きなのか。

「寒冷な気候で温かい食べ物が好まれるのに加え、山形にはそばを家で打つ文化が古くからあったため、外食ではラーメンが人気となった」

「関東大震災の際に横浜からたくさん避難者が来てラーメンを普及させた」

──など、理由はいくつか考えられる。

山形ではそば店の多くが中華そばを出し、一般家庭やオフィスなどで客人をもてなす際、ラーメンの出前を取る習慣がある。これらの伝統もラーメン消費量を押し上げる要因となっている。

全国自治体で唯一?の「ラーメン課」

こうした“ラーメン愛”が高じて、市役所内に「ラーメン課」を設けたのが南陽市だ。

南陽市は山形県の南東部にある人口約3万人の都市。平安時代後期から続く名湯・赤湯温泉や「鶴の恩返し」の民話が伝わる里として知られる。

開湯930年有余を誇る赤湯温泉。戦(いくさ)で傷ついた武士たちが湯に入ると、たちまち傷は治り、湯が血で真紅に染まったことから「赤湯」と呼ばれるようになった、とも伝えられる 写真提供:南陽市
開湯930年有余を誇る赤湯温泉。戦(いくさ)で傷ついた武士たちが湯に入ると、たちまち傷は治り、湯が血で真紅に染まったことから「赤湯」と呼ばれるようになった、とも伝えられる 写真提供:南陽市

「ラーメン課」発足のきっかけは、2014年に市内中高生に実施したアンケート。「市外、県外に住む人に伝えたい南陽市の魅力は?」との問いに、「ラーメン」という回答が数多く寄せられた。15年には、未来に向けた市の成長戦略として「ラーメンを軸としたまちづくり」の提案が出され、16年7月、官民協働プロジェクト「南陽市役所ラーメン課R&R(ラーメン&レボリューション)プロジェクト」がスタート。

まずは、市内約60のラーメン提供店を1軒1軒取材し、データベースとマップを作成。市のウェブサイトで公開するとともに、冊子版を市みらい戦略課で配布した。

南陽市は「ラーメン王国」山形県の中でも人口当たりの店舗数が多く、県平均の約3倍。その一方で、市外や県外からは「南陽市=ラーメンのおいしいまち」として認知されていない現状もあり、「ラーメンで地域活性化を」と観光のキラーコンテンツに位置付けた。

ちなみに、「ラーメン課」は市議会で承認された正式部署ではない。市職員有志と外部の公募メンバーらが取り組むさまざまなプロジェクトの総称であり、南陽市は「ラーメン課」という言葉を商標登録し、みらい戦略課内に事務局を置いてPR活動を展開している。

「ラーメン大好き小泉さん」も応援

その南陽市役所ラーメン課がコラボしているのが、人気マンガ「ラーメン大好き小泉さん」(作:鳴見なる)。

「ラーメン大好き小泉さん」は、竹書房のマンガ雑誌「まんがライフSTORIA」、ウェブコミック配信サイト「ストーリアダッシュ」で連載中の“ラーメングラフィティ”。

第9巻に南陽市のラーメンが登場する
第9巻に南陽市のラーメンが登場する

クールで無口、他人となれ合わない転校生――ミステリアスな女子高生「小泉さん」は、実は毎日おいしいラーメンを求めて食べ歩く生粋の“ラーメン通”。ラーメン以外のことには興味がなく、ただひたすらストイックに、全国の実在する店に足を運ぶ。

竹書房「バンブーコミックス」から単行本化され、2023年7月時点で累計発行部数は300万部超。TVドラマ化、アニメ化もされている。

南陽市役所ラーメン課では2019年度、「ラーメン大好き小泉さん」とコラボして「ラーメンカードラリー」を初開催。4回目となる今回は、市内40店に加えて横浜市の「新横浜ラーメン博物館」(横浜市)も参加。1月31日までの期間中、各店でラーメンを食べると、鳴見なるさんが描き下ろした「小泉さん」のイラスト入りカードがもらえる。さらに集めたカード数に応じて、完全制覇賞、全店舗制覇賞、ラー博賞、ハーフ賞、Wチャンス賞、3カード賞に応募できる。

「なんようしのラーメンカードラリー2023」チラシ

「出前文化」を体験するインバウンド向けツアーも

今回新たに登場したラッピング列車は、観光庁の「インバウンドの地方誘客や消費拡大に向けた観光コンテンツ造成支援事業」の補助金を活用したもの。赤湯駅―荒砥(あらと)駅間(17駅、約30km)を1日3往復程度運行する(運行スケジュールは山形鉄道の公式フェイスブックで公開)。

ラッピング列車の運行のほか、市内4カ所(赤湯駅、宮内駅、熊野大社、南陽市役所)に「小泉さん」の描き下ろしイラスト等身大パネルを設置。「ラーメンカードラリー」との連動企画も用意し、カードラリー参加者は、1月31日までにフラワー長井線に乗車すると「小泉さんオリジナルステッカー」をもらえる。

「ラーメン大好き小泉さんラッピング列車」が走るフラワー長井線は、山形県南陽市の赤湯駅から白鷹町の荒砥駅に至るローカル線。路線名は沿線に花の名所が多いことから 写真提供:南陽市ラーメン課
「ラーメン大好き小泉さんラッピング列車」が走るフラワー長井線は、山形県南陽市の赤湯駅から白鷹(しらたか)町の荒砥駅に至る第3セクターのローカル線。路線名は沿線に花の名所が多いことから命名 写真提供:南陽市

さらに、旅行代理店とタイアップしてインバウンド向けツアーの開催にも乗り出した。

昨年12月に2回、日本在住の台湾、中国、韓国、米国、アルゼンチン、オーストラリア、エクアドル人など約30人を対象にモニターツアーを実施。その結果を踏まえ、1月10日~2月28日に本ツアーを10回程度行う予定だ。

ツアー内容は、赤湯駅からラッピング列車に乗って宮内駅で下車、そこから参道を歩いて熊野大社で参拝・祈祷体験をした後、出前ラーメンを食し、さらに参道近くの「東の麓(あずまのふもと)酒造」で酒蔵見学や利き酒を行う。所要時間は4時間ほど。「ラーメン大好き小泉さん」第9巻で描かれた、南陽市の“出前文化”を体験してもらう内容となっている。

新幹線を利用すれば、東京駅から赤湯駅まで直通で2時間半。首都圏などからのアクセスも良い。

「訪日旅行者向けのJRのフリーパス(新幹線・在来線の乗り放題きっぷ)などを利用して、山形新幹線で赤湯駅まで来ていただき、そこからラッピング列車に乗り継いで、山形ならではの“おもてなしラーメン出前文化”を体験してもらいたい」と南陽市みらい戦略課(ラーメン課)の前司宏明さんは話す。

南陽市によると、2022年に開催した「ラーメンカードラリー」の経済波及効果は、県外参加者の宿泊利用や交通費などを含め、試算で約1億3800万円に上ったという。

「これにインバウンドが加われば、経済波及効果はさらにアップする。ラーメンが地方創生のための主力コンテンツに十分なりうることを証明したい」と前司さんは意気込んでいる。

辛味噌をはじめ担々麺、中華そばなどバリエーションに富んでいるのが南陽市エリアのラーメンの特色。白岩孝夫市長も「ラーメン課主事補兼市長」の“肩書”でラーメンプロジェクトに携わる  写真提供:南陽市
辛味噌をはじめ担々麺、中華そばなどバリエーションに富んでいるのが南陽市エリアのラーメンの特色。白岩孝夫市長も「ラーメン課主事補兼市長」の“肩書”でラーメンプロジェクトに携わる  写真提供:南陽市

バナー写真:山形鉄道の制服姿の「小泉さん」が、ラーメンを手に乗客を出迎えるポーズが描かれたラッピング列車 写真提供:南陽市

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