日銀点検を読む:長期金利は変動容認幅拡大か=岩田・元副総裁

経済・ビジネス

2月2日、元日銀副総裁の岩田一政日本経済研究センター理事長はロイターとのインタビューで、日銀の金融政策には2%の物価安定目標やコロナ禍からの景気回復など4つの課題があるとし、これらの課題に有効かつ持続性ある取り組みを行うのは難解な「4次方程式」を説くようなものだと述べた。写真は2020年5月、日銀本店前で撮影(2021年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
2月2日、元日銀副総裁の岩田一政日本経済研究センター理事長はロイターとのインタビューで、日銀の金融政策には2%の物価安定目標やコロナ禍からの景気回復など4つの課題があるとし、これらの課題に有効かつ持続性ある取り組みを行うのは難解な「4次方程式」を説くようなものだと述べた。写真は2020年5月、日銀本店前で撮影(2021年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

[東京 2日 ロイター] - 元日銀副総裁の岩田一政日本経済研究センター理事長はロイターとのインタビューで、日銀の金融政策には2%の物価安定目標やコロナ禍からの景気回復など4つの課題があるとし、これらの課題に有効かつ持続性ある取り組みを行うのは難解な「4次方程式」を説くようなものだと述べた。長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)の運営については、長期金利の誘導策を見直し、容認する変動幅を拡大する可能性があると指摘した。

<長期金利、変動幅プラスマイナス0.3%も>

岩田氏は日銀の政策について、2%の物価目標達成、コロナ禍からの景気回復、将来の信用リスク拡大への備え、円高ショックへの準備の4つの課題に取り組む必要があると整理。一つの政策では応じきれず、政策対応は「やや複雑なものにならざるを得ない」とした。

日銀が1月に発表した最新の経済・物価情勢の展望(展望リポート)では、2021年度の消費者物価指数(除く生鮮、コアCPI)はプラス0.5%に転換するとの見通しが示されたが、2%の物価安定目標の早期達成は厳しい状況となっている。岩田氏は「(日銀が)何をできるかといえば、金利を下げるか、資金供給量を増やすか、基本的にこの2つしかない。隠し玉としては、構造改革を促進して経済の潜在成長率を高め、自然利子率を高めることも考えられる」と述べた。

現在のイールドカーブ・コントロール運営では、短期金利について日銀当座預金のうち政策金利残高に0.1%のマイナス金利を適用。長期金利は10年物国債金利が0%を中心にプラスマイナス0.2%の範囲内で動くように調節している。

岩田氏は、銀行、年金、保険など長期で投資している金融仲介機関の財務状況は厳しくなっており、超長期金利はもう少し上昇した方が望ましいと指摘。その上で「上昇余地を作るためには、長期金利の変動幅がプラスマイナス0.2%程度では足りない。プラスマイナス0.3%にした方がよい」と述べた。

また「例えば30年といった超長期国債の購入はもうしない、あるいは減額するとすれば、変動幅がプラスマイナス0.3%でもイールドカーブが少し右上がりの状況が達成できる」との見解を示した。ただ、これも引き締めではないことを市場に十分説明する必要があると述べた。

長期金利がもう少し上昇してもいいとすると、円高リスクを助長してしまう矛盾もはらむが、「金融仲介機関の体力や市場機能の回復を重視すれば、変動幅プラスマイナス0.3%を容認することは十分ありえる」という。

上場投資信託(ETF)については、現在のリスクプレミアムは過去平均より低く、足元では買う必要はないと指摘。その上で、上限額などを示さずに「必要に応じて買う」とすれば、柔軟性が高まり、政策の持続性が確保できると語った。

<短期金利には「コロナ対応特別オペ」の手法>

岩田氏は、短期金利の部分について、政策金利残高に課しているマイナス金利の幅を拡大することは金融機関の収益に対する影響が大きいことから現実的には難しいものの、コロナ下で導入された金融機関向けの「新型コロナ対応金融支援特別オペ」で編み出された手法が金融緩和に機能しそうだと指摘する。

その手法は日銀が金融機関に対し、融資の原資を金利0%で供給するとともに、金融機関が日銀に持つ当座預金のうち、特別オペの利用残高に相当する金額にプラス0.1%の金利を付けるというもの。「実質的に金融機関がマイナス0.1%で資金供給を受けることを2つのステップに分けて行っている」とみる。

その上で、今後、短期金利の政策は2つの選択肢があると指摘。今回の特別オペと同様に2つのステップを踏み、金融機関が持つ日銀当預への付利をプラス0.2%にするという方法。あるいは、市場金利全般に影響を与えたい場合、日銀からの資金をゼロ金利ではなく、あらかじめマイナス金利で供給する方策もあるとした。

ただ、後者の政策をとった場合は、銀行の貸出金利も大きく下がり、銀行の体力が削られる可能性があるという。現在、3層構造に分けている日銀当座預金を組み替え、プラス0.1%の金利が付いている基礎残高の部分を増やすことで銀行の体力を温存することも考えられるとした。

岩田氏は、東京オリンピック・パラリンピックが開催できなかった場合、今まで顕在化していなかった企業の倒産リスクなどが拡大してくる可能性があると指摘。銀行の体力温存のためには「ストレステストを十分に行って、信用リスクの増加に対しても耐えられるにようにしておくことも必要」と述べた。

デフレ脱却に向けて日本経済の潜在成長率を高め、自然利子率を上昇させることについては、企業のイノベーションやアニマルスピリッツにかかっており、日銀が手助けできることは資金供給の部分にあるという。現行の「成長基盤強化を支援するための資金供給」や「貸出増加を支援するための資金供給」などの制度を用い、グリーン・デジタル関連に投資をしている金融機関などに資金供給を増やすと有効だとし、グリーン・デジタル関連に力を入れている企業をまとめたETFや、そうした企業の社債・CPを優先して買うということも一案だと話した。

岩田一政氏は2003年3月から08年3月まで日銀の副総裁を務めた。

*このインタビューはオンライン形式で2月1日に実施しました。

(杉山健太郎、木原麗花 編集:石田仁志)

ロイター通信ニュース