焦点:ソニーが見据える1兆円の先、エンタとエレキの力学に変化

経済・ビジネス

3月31日 4月から63年ぶりに社名を変更し「ソニーグループ」となるソニーは、この間に加わったエンターテイメント分野がけん引し、今期は純利益で初の1兆円超を見込むまでに成長した。写真は2020年1月、米ネバダ州ラスベガスで開かれた家電見本市で撮影(2020年 ロイター/Steve Marcus)
3月31日 4月から63年ぶりに社名を変更し「ソニーグループ」となるソニーは、この間に加わったエンターテイメント分野がけん引し、今期は純利益で初の1兆円超を見込むまでに成長した。写真は2020年1月、米ネバダ州ラスベガスで開かれた家電見本市で撮影(2020年 ロイター/Steve Marcus)

[東京 31日 ロイター] - 4月から63年ぶりに社名を変更し「ソニーグループ」となるソニーは、この間に加わったエンターテイメント分野がけん引し、今期は純利益で初の1兆円超を見込むまでに成長した。コンテンツ流通のデジタル化が進展し、エンタは中長期の成長が期待できる。事業構造の変化に伴って長年のテーマとなってきたエンタとエレクトロニクスの連携も研究・開発(R&D)を軸に動き出しており、一段の成長につなげられるかが問われる。

ソニーの技術開発を統括する勝本徹副社長兼最高技術責任者(CTO)は、エレキや半導体分野について「コンテンツのクリエイターとユーザーを繋ぐ役割」と話す。エレキはエンタの成長を支援しながら技術を磨き、それを自らの成長にもつなげるという構図を描く。

新型コロナウイルス禍に見舞われた今期の初め、ソニーは通期の連結営業利益を3割減と試算。十時裕樹・副社長兼最高財務責任者(CFO)は「電機がもっとも早く影響を受けているが今後、他分野への影響も拡大すると見ている」と話していた。その後は一転、業績予想の上方修正を繰り返し、純利益で初の1兆円超えを見通すまでになった。

けん引役は、巣ごもり需要でオンライン利用が増えたゲームや、空前のヒットとなったアニメ「鬼滅の刃」を手掛ける音楽のエンタ分野だが、その一方、エンタを楽しむためのテレビなどエレキ分野も急回復した。コロナ禍という想定外の局面で、エンタとエレキがプラスの連鎖を生んだ。

これは、創業者の一人の盛田昭夫氏と、成長の立役者の大賀典雄氏が描いていた戦略の一端でもある。音楽と映画で大型買収を決めた1980年代後半には「ハードとソフトはソニーグループのビジネスの両輪。それをうまく回転させていこう」との考えが固まっていた。

<「技術偏重」から変化>

部門間の壁が厚かったソニーでは、歴代社長が取り組んできた長年のテーマだが「今の局面なら、うまくいくかもしれない」と、早稲田大学大学院経営管理研究科の長内厚教授は指摘する。技術偏重の時代から、技術をグループのエコシステムにどのように組み入れるかに発想が変わってきたためだという。

1990年代ごろまで、日本の家電業界は技術力でグローバル競争を優位に進めた。2000年代にテレビなど家電の機能・性能が成熟化してアジア勢との価格競争になっても、電機メーカー関係者からは「技術では負けない」との声は根強かった。

ウォークマンのように新機軸のヒット商品を生み出したソニーも、デジタル音楽プレーヤーが普及し始めた2000年前後、米アップルの「iPod」にお株を奪われた苦い過去がある。長内教授は、iPodはクールなデザインや操作性が受け入れられた一方、ソニーについて「スペックに現れない『情緒的な価値』に踏み込めなかった」とみている。

デジタル化が進み環境は変わった。4―12月期に新型機「プレイステーション5(PS5)」の立ち上げ費用や価格戦略による損失があったゲームは、ネットを介してソフトが利用できるネットワークサービスの増加で増益となり、十時副社長は「収益構造が大きく変化している」と述べた。コンテンツ流通のデジタル化は、音楽や映画でも進んでいる。

環境の変化に、ソニーは組織も合わせる。エレキ事業の一部機能は本社に残っていたが、4月に発足するソニーグループはこれを分離し、本社機能に特化する。「ソニー」の社名はエレキ事業が受け継ぐが、ゲームや映画、音楽、金融などと横並びの位置づけになる。

勝本副社長は、R&Dの担当役員に就任した18年に当時の平井一夫社長から、エレキだけでなく「エンタ・金融を含むグループ全体に貢献するR&D体制にしてほしい」との任務を与えられたと話す。米国の映画やゲームの拠点にR&Dセンターを設けたほか、東京では音楽とR&Dの協業を進めた。「現場のニーズをすくい上げ、各ビジネスの持つ技術をR&Dがハブとなって他のビジネスにも生かす」(勝本副社長)取り組みだという。

現在のコロナ禍、映画を製作する米ハリウッドでは外出禁止で録音・編集作業が困難となったが、音が立体的に聞こえるヘッドフォンを用いて実際の音響空間を再現し、「止まらず自宅で作業出来た」(勝本副社長)。このほか、巨大スクリーンに映す背景がカメラワークに連動して動くシステムで、ロケ地に出向かなくても撮影が可能にもなった。

平井路線を引き継ぐ吉田憲一郎社長は「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」と企業の「存在意義」を掲げる。勝本副社長は「各分野が同じ意識で、有機的に話ができるようになってきた」と話す。

<「新機軸」への期待>

中長期的に拡大基調にあるエンタ分野が引き続きけん引役となって来期以降も成長は可能と、エース経済研究所の安田秀樹シニアアナリストは指摘する。「テレビなど消費者向け製品への波及効果もある程度は見込める」と言う。ただ、テレビは汎用品でもあり「ソニー製を選んでもらう工夫が必要」(安田氏)とも指摘する。

消費者向けでは、ウォークマンのような新機軸を生み出す取り組みが重要だと早稲田大の長内教授は話す。過去20年で中国や韓国の企業は、機能・性能の面で台頭した一方、新機軸となるような製品はほとんど見当たらず、ソニーが優位に立つチャンスがあるとの見方だ。

エンタ分野が経営の柱に育ち、エレキの投資に振り向ける原資も充実してきた。「足元のいい環境を生かせるか。守りに入らない経営がポイントだ」と、長内教授は指摘する。

(平田紀之 取材協力:Tim Kelly 編集:久保信博)

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