焦点:米金融当局、バイデン氏号令で「気候変動対応」の圧力

4月22日、バイデン米大統領が気候変動への取り組みを加速させる中、米国の金融監督当局は、気候変動リスクを金融システム監督に組み込むよう強く求められている。写真は2020年9月、オレゴン州メッドフォードの森林火災が延焼した住宅街で撮影(2021年 ロイター/David Ryder)
4月22日、バイデン米大統領が気候変動への取り組みを加速させる中、米国の金融監督当局は、気候変動リスクを金融システム監督に組み込むよう強く求められている。写真は2020年9月、オレゴン州メッドフォードの森林火災が延焼した住宅街で撮影(2021年 ロイター/David Ryder)

[ワシントン 22日 ロイター] - バイデン米大統領が気候変動への取り組みを加速させる中、米国の金融監督当局は、気候変動リスクを金融システム監督に組み込むよう強く求められている。環境問題を軽視するトランプ前政権の下、米金融規制は気候変動対応で欧州に後れを取ったからだ。

ホワイトハウスは近く、気候変動に関する大統領令を発する見通しだ。これにより金融システミックリスクを監督する当局は、気候変動が金融機関と市場にどのような害をもたらし得るかを分析し、関連データを収集、共有するよう義務付けられる可能性がある。

左派の団体によると、当局はまた、金融機関の監督に際して気候変動リスクを考慮に入れるとともに、持続可能な投資を抑制するトランプ前政権時代のルールを覆すよう求められるかもしれない。

システミックリスク監督を統括するイエレン財務長官は21日、自身の裁量で使える手段を総動員し、気候変動に果敢に取り組むと表明した。

大統領令は最初の一歩に過ぎず、その後は長い規則策定作業が待ち構え、大きな論争も伴うだろう。とはいえ大統領令は、米国の気候変動政策と金融行政にとっての分水嶺であり、金融業界に大きな影響をもたらす可能性がある。

主な年金基金や銀行が加盟するヘルシー・マーケッツ(ワシントン)の責任者、タイ・ゲラシュ氏は「米国の金融監督当局にとって真の大転換だ。企業と金融機関の気候変動リスク対策を透明化する取り組みの始まりだからだ」と話した。

リスク専門家によると、気候変動は金融システムを大きく揺るがしかねない。海面上昇などの物理的な脅威に加え、地球温暖化を抑制するための政策や二酸化炭素(CO2)削減技術により、数兆ドル規模の資産が崩壊する恐れがあるからだ。

米商品先物取引委員会(CFTC)は2020年の報告書で、最終的に化石燃料に関連する資産の価値が世界全体で1兆ドルないし4兆ドル規模で失われるとのデータを示した。

民主党のブライアン・シャーツ上院議員は「気候変動以外の全てのリスク管理について、監督当局は金融機関に求める明確な目標を設定し、その達成を義務付けることを期待されている。監督当局は気候変動リスクにもそうした仕組みを適用すべき時だ」と述べた。

トランプ前政権が気候変動関連の政策を攻撃して以来、米国は金融面の気候変動リスク対策で出遅れ、欧州各国から遅れを取り戻すよう迫られている。投資家も、企業のバランスシートや利益が気候変動によって損なわれるリスクについて情報開示の強化を求めている。2020年に米国の持続可能投資ファンドに流入した資金は、過去最高の510億ドルだ。

欧州は大企業に対して環境問題に関するリスクとデータの開示を義務付けるとともに、投資商品にも持続可能性についての情報開示を導入している。

これに対し、米国には気候変動に特化した情報開示規則が存在しない。「持続可能」などの重要用語の定義も確立しておらず、企業の環境関連目標や気候変動リスクを測る共通基準もない。

欧州当局は年1回の銀行ストレステスト(健全性審査)にも気候変動リスクを組み込み始めた。米連邦準備理事会(FRB)は今のところ、そうした措置に抵抗している。

非営利団体パブリック・シチズンの気候変動計画責任者、デービッド・アーカッシュ氏は「海外の金融監督当局は気候変動政策を策定、実施し始めているのに、ほとんどの米監督機関はまだ重要な対策を何ひとつ行っていない」と語った。

<大統領令の意味>

当局者らは、この問題が極めて複雑であり、まず分析が必要だと言う。FRBやCFTC、住宅金融機関は、気候変動が銀行、金融取引企業、市場に及ぼす影響の分析に着手した。

しかし、左派グループの人々は、米国も欧州型の厳格な義務を企業に課すべきだと訴えている。企業が直接、間接に排出するCO2の量と、保有する炭素関連資産の総額についての詳細な情報開示などがこれに含まれる。

また、FRBに対しては、世界の平均気温が摂氏1度上がった場合、2度上がった場合など、具体的なシナリオごとに銀行のバランスシートへの影響を査定するよう求めている。

こうした政策の多くは、共和党や企業ロビー団体の反対に遭うだろう。民主党は金融行政を利用して自らの政治目標を押し進めようとしている、というのがこうした勢力の主張だ。

米商工会議所の場合、「範囲の狭い」気候変動政策を支持しており、監督当局ではなく議会が法制化すべきだと訴えている。

しかし、活動団体は、大統領令が出れば監督当局はある程度政治的に守られるはずだと期待している。

気候変動関連の財団、クライメートワークスのイルミ・グラノフ氏は「企業は一定の抵抗を示すだろう」とした上で、「だが、だからこそ大統領からシグナルが発せられるのは必至であり、かつ重要なのだ」と話した。

(Katanga Johnson 記者、Chris Prentice記者)

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