コラム:緊急事態宣言は菅首相の賭け、5月11日が吉凶の分かれ目に

政府が緊急事態宣言の発令にかじを切った。だが、新型コロナウイルスの変異株が急増する中で、飲食店などへの休業要請を軸にした対策で感染者が減少する確実な見通しは立っていない。写真は昨年6月、都内で撮影(2021年 ロイター/Issei Kato)
政府が緊急事態宣言の発令にかじを切った。だが、新型コロナウイルスの変異株が急増する中で、飲食店などへの休業要請を軸にした対策で感染者が減少する確実な見通しは立っていない。写真は昨年6月、都内で撮影(2021年 ロイター/Issei Kato)

田巻一彦

[東京 23日 ロイター] - 政府が緊急事態宣言の発令にかじを切った。だが、新型コロナウイルスの変異株が急増する中で、飲食店などへの休業要請を軸にした対策で感染者が減少する確実な見通しは立っていない。「酒類提供の禁止」という強い措置は飲食店の経営体力を奪い、もし長期化すれば雇用不安に発展しかねない「副反応」もある。菅義偉首相が下した決断は「賭け」とも言え、その「吉凶」は5月11日に出るだろう。

<酒禁止の副反応>

25日から5月11日までに東京都など4都府県で発令される今回の緊急事態宣言では、まん延防止等重点措置では出すことができない休業要請という強い措置が発動されるのが特徴だ。床面積1000平方メートル以上の大規模施設は営業できず、プロ野球やサッカーのJリーグなどのイベントは、原則として無観客開催となる。

前期に赤字転落となったところが多い百貨店や、大幅減収に頭を抱える野球やサッカーの経営主体は、事前の根回しがほとんどなかっただけにショックを受けているもようだ。

しかし、さらに深刻なのが、個人や小規模資本での経営が多い酒類提供の飲食店への休業要請だ。昨年春の1回目の緊急事態宣言で大きな借金を抱え、金融機関からは追加融資を断たれている経営者も少なくない。そこに今回の休業要請が加わって、経営存続のメドが立たなくなる店も増えると予想される。

他方、このまま感染拡大を放置していたら、大阪府ですでにみられ始めた医療提供体制の崩壊への動きが止まらなくなり、救える患者が放置される事態に発展しかねない危険性も出てきた。菅首相は悩んだ末に「短期間」に「強い措置」を出す組み合わせによる緊急事態宣言の発令を決断したと思われる。

だが、大阪府だけでなく東京都でも変異株の発症が急増し、一部の専門家は東京都での感染者が4000人に急増するとの予測を出している。果たして、今回の休業要請をプラスした対策で、感染の波を小さくすることができるのか、感染症の専門家の間でも見方が分かれている。収束への見通しが立たないままに出した今回の発令の決断は、「賭け」とも言える高いリスクを抱え込んでいると指摘できる。

<違反店多発なら、どうなるのか>

今回の緊急事態宣言には、1)多くの飲食店が命令に違反する酒類提供に走った場合、都府県はきちんと摘発できるのか、2)大型連休中に「ステイホーム」に徹する人が少なく、観光地や盛り場の人流が増加することにならないのか、3)酒類を提供するコンビニの周辺で夜間に騒ぎが起きないのか──といった社会政策的な課題や問題点が噴出しかねない要素が紛れ込んでいる。

この1年間にコロナ感染と「辛抱」を体験してきた国民が、どのような反応を示すのか、という点で「未知との遭遇」という側面がある。

<延長なら、マクロ・ミクロ両面に負担増>

さらに政治、経済的な側面では、1)飲食店などを含む「対面型」業種で経営破綻が多発した場合、失業問題が顕在化しないのか、2)休業要請に端を発した経済のマイナス効果が累積して景気後退に突入する危険性はないのか、3)菅首相の解散判断がコロナで制約され、政権運営に支障が出ないのか──といったリスクが浮上してくる。

特に5月11日の段階で感染者の数が減少傾向となっていなければ、緊急事態宣言は延長される公算が大きい。その場合、1)の対面型ビジネスの破綻と雇用不安の拡大というリスクには、早急な対応が求められる。自民党の二階俊博幹事長は20日の記者会見で、早くも新型コロナウイルス感染の収束が見えない中で、経済対策などを盛り込んだ2021年度補正予算案を今国会中に編成する可能性に言及した。

大型の景気対策には財源が必要だが、21年度予算に盛り込まれた5兆円の予備費を使い果たせば、赤字国債の発行に踏み切るしかまとまった財源の手立てはない。

本来なら米国のバイデン政権がまとめたインフラ復興計画で示された先端の半導体や電気自動車(EⅤ)に欠かせない電池の開発など、将来の競争力確保に向けた分野への予算配分が望ましかったはずだ。それが、コロナ対応の「防御的」支出に充当せざるを得なくなるのは、国民経済的にも菅首相の政権運営にとっても非常に「痛い」展開と言える。

もし、5月12日以降も、緊急事態宣言が延長される展開になるなら、日本経済全体が重苦しいムードに包まれ、菅首相は何か別の対応策の提示を迫られることになるのではないか。

5月11日に来る分かれ道は、日本国民にとっても菅首相にとっても重大なポイントになると指摘したい。

●背景となるニュース

・緊急事態宣言、4都府県に来月11日まで 酒提供店の休業や部活自粛要請

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(編集 橋本浩)

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