焦点:インドの医療用酸素不足、ここまで深刻化した理由

4月23日、インドでは、新型コロナウイルス感染者数が急増している首都ニューデリーを含むデリー首都圏やその他の地域の病院に向け、空路や鉄道、陸運を駆使して医療用酸素を緊急輸送する取り組みが続けられている。なぜ、こうした深刻な事態に至ったのか、問題点を洗い出す。写真は15日、ニューデリーにある病院で、ベッドを共有しながら治療を受ける新型コロナ感染症患者(2021年 ロイター/Danish Siddiqui)
4月23日、インドでは、新型コロナウイルス感染者数が急増している首都ニューデリーを含むデリー首都圏やその他の地域の病院に向け、空路や鉄道、陸運を駆使して医療用酸素を緊急輸送する取り組みが続けられている。なぜ、こうした深刻な事態に至ったのか、問題点を洗い出す。写真は15日、ニューデリーにある病院で、ベッドを共有しながら治療を受ける新型コロナ感染症患者(2021年 ロイター/Danish Siddiqui)

[ニューデリー 23日 ロイター] - インドでは、新型コロナウイルス感染者数が急増している首都ニューデリーを含むデリー首都圏やその他の地域の病院に向け、空路や鉄道、陸運を駆使して医療用酸素を緊急輸送する取り組みが続けられている。なぜ、こうした深刻な事態に至ったのか、問題点を洗い出す。

◎病院から酸素がなくなりつつあるのか

主な問題は、医療用酸素が適切なタイミングで病院に届かないことだ。これは酸素工場の場所や輸送ネットワークの限界に起因しており、計画のまずさも批判されている。

デリー首都圏に酸素を大量に生産できる能力はなく、現地のいくつかの病院は至急供給してほしいと悲鳴を上げている。

新型コロナの感染急拡大は近隣のハリヤナ、ウッタルプラデシュ両州にも波及しており、これらの地域の酸素工場は地元の需要に応じようとするだけで手に余る状態。このためデリー首都圏の現在の需要を満たすには、東部の工業地帯から酸素を運んでくることが必要になる。

◎なぜ酸素の到着が遅れているのか

デリー首都圏にこれから酸素を提供する地域は7州にまたがり、その一部は1000キロ余りも離れていることが、裁判所の書類で分かっている。

液体酸素は取り扱い危険物質である以上、限られた専用タンクローリーで輸送しなければならず、適時到着させるには事前の周到な計画が欠かせない、とあるガス業界関係者はロイターに説明した。

ところがここ数日、州の間で酸素の奪い合いが深刻化し、一部地域の当局は地元分を確保しようとタンクローリーの移動を阻止し始めた。それも一因となり、デリー首都圏が21日に受け取った酸素は約177トンと、割り当てられた378トンを相当下回った。

ただ先のガス業界関係者は、デリー首都圏政府が輸送計画策定に随分ともたつき、陸路での酸素輸送に要する時間を計算に入れていなかった点も問題視。「彼らがもう2-3週間前に動いていれば、問題は発生しなかっただろう」と話している。

デリー首都圏政府は輸送計画に関する質問に回答しなかった。

◎インド国内に十分な酸素はあるか

インドは産業用を含めて1日当たり少なくとも7100トンを生産しており、現在の需要に応じるのに十分な量のように見える。

首相府は22日、感染が最も深刻な20州に対して連邦政府は1日当たり6822トンの液体酸素を割り当て、20州の合計需要は6785トンだと説明した。感染者急増が本格化した今月12日時点では、国内の医療用酸素需要は3842トン程度だった。

各州への割り当ては通常、パンデミック中の重要な医療機器流通の監視と円滑化を任された省庁横断型の専門機関によって行われる。

首相府は、製鉄所など工業施設からの転用によって、利用可能な医療用液体酸素は過去数日で約3300トン増加したと指摘した。

◎危機打開に向けどんな対策が講じられているか

連邦政府は、工場から最も必要とされる地域へより多くの酸素を届けるために鉄道の積極的な活用に着手している。

また産業・医療用ガス大手リンデ・インディアなどの企業と協力し、空荷のタンクローリーを工場に迅速に運ぶ目的で空軍の輸送機も利用。工場で酸素を詰め込んだタンクローリーは再び陸路で目的地に向かう。

一方、陸軍はドイツから、移動式の酸素生成プラント23基を輸入している。

いくつかの産業からは病院に酸素を提供するとの申し出があった。また複合企業タタ・グループは液体酸素輸送用の特殊コンテナ24個を輸入。政府は、アルゴンと窒素運搬用のタンクローリーを酸素運搬に転用する命令も発出した。

もっとも一部の専門家は、今後数週間で1日の新規感染者数が今の3倍に跳ね上がると予想しており、インドは酸素生産と流通のシステムを劇的に強化する必要に迫られそうだ。

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