アングル:特殊要因で曇る消費者物価指数、金融政策に使えず

4月30日、  日銀が政策の目標とする物価の全体感が見えづらくなっている。都内で23日撮影’(2021年 ロイター/Issei Kato)
4月30日、 日銀が政策の目標とする物価の全体感が見えづらくなっている。都内で23日撮影’(2021年 ロイター/Issei Kato)

[東京 30日 ロイター] - 日銀が政策の目標とする物価の全体感が見えづらくなっている。新型コロナウイルスの感染拡大や原油価格の下落、政府の観光需要喚起策「GoToトラベル」など一時的な変動要因が相次いで発生、携帯電話通信料下げの影響も加わり、消費者物価の「前年比」の見極めがより複雑になっているためだ。エコノミストからはCPIは物価の中心的なトレンドをみる指標として「使えない」との指摘もあり、全体感を把握するには別の指標も合わせて見るべきとの声が出ている。

<特殊要因で振れるCPI、携帯通信料のウエート大>

総務省が30日発表した4月の東京都区部のコアCPI(生鮮食品を除く)は前年比0.2%下落となり、ロイターがまとめた民間調査機関の予測中央値(同0.0%)を下回った。大手キャリアの新料金プラン導入で携帯電話通信料が下落し、総合指数を0.4%ポイント程度押し下げる要因となった。

携帯電話通信料はコアCPIを構成している523品目の中でもウエートが大きい。全国では「持ち家の帰属家賃」、「電気代」、「民営家賃」に次いで4番目。東京都区部では「持ち家の帰属家賃」、「民営家賃」、「電気代」、「大学授業料(私立)」、「診療代」に次いで6番目に入る。通信料引き下げの影響は一巡して剥落するまでの1年間、月次の指数で重荷となる。

総務省は、すべての対象商品によって算出する総合指数に加え、総合指数から「生鮮食品」を除いたコアCPI、「生鮮食品」と「エネルギー」を除いたコアコアCPIなどを公表している。天候や市況などの外部要因を除くことが消費者物価の基調を把握する上で有用と考えるためだ。

ただ、直近2、3年は消費税率引き上げや幼児教育・保育無償化、「GoToトラベル」などの政策要因が指数に影響してきた。

例えば、2019年10月に実施された消費増税は総合指数の前年同月比に対して0.9%ポイント程度の押し上げとなった。一方、同時に導入された幼児教育・保育無償化が同0.6%ポイント程度の押し下げとなり、一巡するまで差し引き0.3%ポイント程度の押し上げ要因となった。

消費増税等が押し上げ要因となる中、20年7月に始まった「GoToトラベル」は「宿泊料」の下落を通じて押し下げ要因となった。コロナ感染再拡大で一時停止する12月にかけて、総合指数を同0.3─0.4%ポイント程度下押しした。今年8月以降も事業が再開しなければ、8─12月の「宿泊費」は前年比でプラス寄与となる公算が大きい。

今後、価格動向は新型コロナの感染状況にも左右される。物価の基調を探るうえでは、前年の「裏」要因と、足元の動向を峻別していくことがより大切になってくる。

<日銀は2%の物価安定目標を堅持>

日銀は2013年1月、「物価安定の目標」をコアCPIで前年比上昇率2%と設定し、同4月に「量的・質的金融緩和」を導入した。これまでコアCPIの前年比上昇率は2%に到達しておらず、日銀が27日公表した最新の経済・物価情勢の展望(展望リポート)でも、23年度の物価見通しはプラス1.0%程度にとどまった。

エコノミストからは、日銀の2%の物価安定目標の実現可能性とは別に、コアCPI自体、「特殊要因だらけで物価の中心的なトレンドがどこにあるのか分からない状態。金融政策に与える影響も含めて使えない指標になっている」(第一生命経済研究所の藤代宏一主任エコノミスト)との指摘がある。

藤代氏は「日銀短観やPMI(購買担当者景気指数)などの企業サーベイ、消費動向調査や生活意識に関するアンケート調査なども一緒にみていかないと全体感は見えない」と話す。

黒田東彦総裁は27日の記者会見で、物価目標達成に向けて大規模な金融緩和を粘り強く続けていく考えを改めて示したが、市場からは「日銀内には物価さえ上がればいいという考えはすでにない」という指摘も多く聞かれる。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美シニア・マーケットエコノミストは、日銀内でそういう議論になっているとは思わないとしつつ、「仮にCPIが政策運営の基準として適切ではないとなった場合、需給ギャップを一つの判断基準にすればいいのではないか」と指摘する。需給ギャップは経済全体の需要と潜在的な供給力の差を示す。

3月末に退任した桜井真・前日銀審議委員は昨年10月の講演で「先行き、物価上昇率がプラスに転じるためには、経済の回復が着実に進展し、需給ギャップがプラスに戻ることが必要」と主張していた。

三菱UFJモルスタの六車氏は「需給ギャップのプラスが続く世界では、少しずつ所得や雇用が拡大していく。ハードデータでもある程度は数値を確認できる。需給ギャップがある程度プラスの状態となるように運営していけばいいのではないか」と述べた。

日銀が発表した2020年10─12月期の需給ギャップはマイナス2.01%となっている。

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