アングル:空手に五輪の晴れ舞台、正式種目への定着には試練
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基太村真司
[東京 16日 ロイター] - 日本武道の空手が、正式種目として初めて五輪大会に登場する。1964年の前東京大会を機に空手界が統一団体を結成、それ以来、およそ60年にわたる悲願がかなった晴れ舞台だ。しかし、2024年のパリ五輪ではすでに除外が決定済み。28年ロス五輪での復活に向けて、国際スポーツとしての存在感をどう高めるか。空手界の命運をかけた大勝負が近づいている。
<東京開催で実現した快挙>
日本の伝統武道の中核をなす競技のひとつでありながら、空手はこれまで五輪の正式競技に採用されたことはなかった。他の武道スポーツや新世代の競技との競い合いが強まる中、空手は五輪参加の実現に長らく苦戦を強いられてきた。
13年5月29日、サンクトペテルブルクで行われた国際オリンピック委員会(IOC)理事会。空手界は当時、まだ開催地が未定だった20年五輪の追加種目候補に名乗りを上げたものの、脱落が決定。05年に行われたロンドン大会(12年開催)の追加種目選定だけでなく、09年のリオ大会(16年開催)の種目選定でも除外されており、空手の五輪参加は3連敗の見通しが濃厚だった。
しかし、20年大会については東京開催決定後に大きく状況が覆り、空手界にとっての「快挙」に道が開いた。
20年五輪の開催地に立候補していた東京都が、議会で空手競技の実施を求める決議を可決。国政レベルでも菅義偉官房長官(当時)を会長とする空手道推進議員連盟が発足し、勢いを得た世界空手連盟(WKF)やJKFの幹部がスイスに乗り込み、IOC本部でバッハ会長との直談判に臨んだ。
複数の関係者によると、WFK幹部らは面会したバッハ会長から、開催候補地である東京が空手の採用を推薦するよう提案を受けた。その後、IOCは五輪改革案である「アジェンダ2020」を採択、この中で開催地の組織委が追加種目をIOCに提案することを可能とした。
サンクトペテルブルク理事会での敗北から3年後の16年8月、空手はリオデジャネイロのIOC総会で、追加種目として正式に決定された。
<「運動量が足りない」空手界の交渉姿勢>
これまで五輪種目の選定では、空手は候補の上位に毎回食い込むものの、最終的に票を集めきれない状況が続いてきた。JKF会長を務める元衆院議員の笹川堯は「採用されなかったのは当然だった。運動量が足りなかった。この2年間は世界各地を回り、色々な方にお願いしてきた」と話す。あるJKF幹部は「我々は大人しすぎた」と振り返った。
「大人しさ」から一転、空手界の働きかけが奏功したのは、正式種目への採用だけではない。IOCは一時、五輪の競技を実際に相手と戦ってポイントを競う「組手」のみとし、多様な技をひとりで演武する「形」は競技から外すことを提案した。
組手競技のスピード感や激しさを好んだ判断と言われているが、これには「形」こそ空手の根幹と位置付けるWKFやJKFが猛反発し、IOCが撤回する事態となった。
<予兆あった「パリの悲劇」>
24年のパリ五輪。フランスは30万人超の会員を有する空手強豪国で、協会内も当初は楽観ムードが優勢だった。会員には子供や若者が多く、自国のメダル獲得も十分に見込めるとあって、除外する理由はほとんど見当たらなかったためだ。 実際、追加種目決定に先立ってパリ組織委と交渉に当たった協会幹部も、当初は「質疑も深まり、いい感触だった」と明かす。
だが、JKF会長の笹川は不穏な空気を感じていた。交渉が最終段階に差し掛かった19年1月、世界大会の開催に合わせて渡仏し、最後の念押しをと考えていたものの、組織委幹部を含む現地要人との会談が実現できなかったからだ。先方の多忙が理由だった。
笹川の不安は的中する。パリ組織委が同2月21日に発表した追加種目は、ブレイクダンスとスケートボード、スポーツクライミング、サーフィンの4つ。空手は再び脱落の憂き目を見た。
4種目のうち、スケートボードとスポーツクライミング、サーフィンは東京五輪で新しい種目として採用されており、パリ組織委の決定では、空手が外されブレイクダンスが加わった。
「組織委の追加リストの中で、空手は最有力候補のひとつとして位置づけられていた」と、WKF幹部は予想外の結果に驚きを隠さなかった。
<「視聴者を増やしたい」>
なぜ空手が外され、ブレイクダンスがパリ五輪の追加種目になったのか。パリ組織委のトニー・エスタンゲ会長は昨年12月、ロイターとのインタビューで「若者を引き付ける力に魅せられた」と説明した。「すべてのデジタルプラットフォームで観戦され、若者を夢中にさせている。これで我々は、ファンや視聴者を増やすことができる」
しかし、空手が除外された明確な理由は不明のままだ。詰めかけた空手関係者にも、パリ組織委は明確な回答を示さなかったという。
笹川は「(主な交渉窓口だった)仏空手協会は採用を確信し、安心しきっていたようだ。陳情も交渉も大してせず、人脈も築けていなかった。WKFも含めて、あぐらをかいてしまった」と敗因を分析した。
<選手は「力出し切る」との決意>
東京大会の空手競技は8月5日から7日にかけて、男女組手がそれぞれ3階級、男女形の8種目で行われる。開催地は日本武道館で、無観客になる。
コロナ禍による1年間の開催延期、思うように進められない練習、日本発の競技に課されるメダル獲得への強い期待、パリ五輪で除外になったことで「最初で最後の五輪」となりかねない状況。出場する8人の選手には、幾重にも大きな重圧がのしかかる。
東京五輪への意気込みを問われた世界大会3連覇中の形の王者、喜友名諒(きゆな・りょう)はオンライン会見で、「今回の東京オリンピックで、自分たち選手が力を全員で出し切れば、それが次の次の五輪への評価にもつながると思う」と話した。
同じくメダル候補の女子組手61キロ超級の植草歩も、空手への評価を高めるため、五輪では最高の戦いをしたいと強い思いを語る。「私が素晴らしい試合をして、また空手をオリンピックに入れられるような存在になりたい。ずっと自分が携わってきたからこそ、そう思います」
(基太村真司 編集:北松克朗)

日本武道の空手が、正式種目として初めて五輪大会に登場する。1964年の前東京大会を機に空手界が統一団体を結成、それ以来、およそ60年にわたる悲願がかなった晴れ舞台だ。写真は世界大会3連覇中の形の王者、喜友名諒選手。2019年12月、群馬県の高崎アリーナで撮影(2021年 時事通信)

東京五輪の空手競技は8月5日から7日にかけて、男女組手がそれぞれ3階級、男女形の8種目で行われる。開催地は日本武道館で、無観客になる。写真は女子組手61キロ超級の植草歩選手。2020年2月、オーストリアのザルツブルクで撮影(2021年 時事通信)
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