焦点:菅首相退陣、次期総裁が衆院選を左右 石破氏の動向カギ

9月3日、 菅義偉首相が自民党総裁選への出馬を断念したことで自民党内では総裁選に向けた動きが激しくなってきた。写真は首相官邸で国際パラリンピック員会幹部との面会に臨む菅氏。代表撮影(2021年 ロイター)
9月3日、 菅義偉首相が自民党総裁選への出馬を断念したことで自民党内では総裁選に向けた動きが激しくなってきた。写真は首相官邸で国際パラリンピック員会幹部との面会に臨む菅氏。代表撮影(2021年 ロイター)

竹本能文

[東京 3日 ロイター] - 菅義偉首相が自民党総裁選への出馬を断念したことで自民党内では総裁選に向けた動きが激しくなってきた。新型コロナ対策への国民の不満から秋の衆院選は苦戦するとの見方が党内に浸透しており、選挙基盤の弱い若手を中心に、より選挙に強い顔を求める声が強まっている。世論調査で人気の高い石破茂元幹事長や河野太郎行革担当相の動向がカギとなるが、焦点は石破氏になるとの見方も出ている。

<人事の行き詰まり>

菅首相は3日午前、自民党本部で開いた臨時の党役員会で、コロナ対策に専念するため、9月29日投開票の総裁選に出馬しないと表明した。表向き「コロナ対策と総裁選の両立は難しい」と説明したものの、総裁選を前に行おうとしていた党役員人事などが行き詰まったとみられている。

首相は総裁選に出馬表明した岸田文雄前政調会長に対抗するため、総裁選の先送りにつながる早期の衆院解散なども選択肢にしていると伝えらえれたが、報道が出た翌日に「解散できる状態ではない」とトーンダウン。その後、党役員人事や内閣改造で打開を図ったものの、自民党幹部の1人は「人事に同意する人が少なく、事実上の辞任に追い込まれた」と解説する。

<焦点は出馬メンバー>

そもそも10月21日に任期を迎える衆院選は「必ず大敗する」(複数の自民党議員)との見方が多い。自民党が8月21─22日に実施した内部調査では40─70議席の減少が見込まれ、単独過半数割れの確率が高くなった。大手報道機関が先週末実施した内々の調査では議席減が70-100議席と拡大。自公合わせても過半数(233議席)を割り込む可能性が高いという結果に、与党内の危機感はさらに高まっている。

そうした中で、岸田氏は「若手が大量落選すると自らの影響力が低下するのを懸念する安倍晋三前首相などが支援してきた」(自民中堅幹部)とされる。

しかし世論調査などでは、岸田氏の人気は必ずしも高いとは言えない。「一般の国民からみて何を目指しているかわかりにくい」(政治・メディアに詳しい立教大社会学部の砂川浩慶教授)との見方が多い。

時事通信の元解説委員で、政治評論家の原野城治氏は「岸田氏が総裁でも衆院選結果は菅さんと同じ程度の敗北になる」と予想、「焦点は国民的期待の高い石破氏などが出馬するかどうかだ」と指摘する。

<選挙結果を好転させるのは>

河野氏は各種世論調査で次期首相として石破氏と常に人気を二分している。自民党内でも「岸田氏は優秀だが平時向き。乱世は河野氏が良い」(麻生派関係者)などの声が聞かれる。

もっとも河野氏には課題もある。今年はワクチン担当を兼務したが、ワクチン供給不足などの責任者として党内外で批判も多い。

TBSなどの国内メディアは3日、河野氏が総裁選出馬の意向を固めたと報じている。

焦点となるのは石破氏だ。安倍政権時代も森友・加計問題などで安倍氏を正攻法で批判、過去4回総裁選に挑み、破れながらも、世論調査で高い人気を維持し続けている。前述の原野氏は「衆院選の結果を菅氏と比べて大きく好転できるのは石破氏だけだろう」と期待する。

石破氏の出馬にも課題がある。昨年9月の総裁選敗退後は求心力が低下し、派閥の構成員は現在17人に留まる。派閥の解消も一時検討したが、「公明党の助言なども踏まえ」(石破派幹部)、細々と継続しているのが実情。安倍政権の批判者だったことで「安倍氏が石破氏は許さない」(党幹部)との見方も多い。

石破氏は3日午後、民放番組に出演し、総裁選出馬を含めた今後の対応について「状況が全く変わった。土曜日、日曜日によく考える」と語った。石破派やこれまで石破氏を側面してきた竹下派内では「今回は岸田氏を支援するのが得策」(竹下派幹部)、「石破派以外から擁立の声が大きく高まるまで様子見すべき」(石破派幹部)などの意見が聞かれる。

自民党総裁選には高市早苗元総務相、下村博文政調会長も出馬への意欲を示している。

(竹本能文 編集:石田仁志)

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