焦点:キオクシア・WD合併、経産省に容認論 「経営の自主性」条件

キオクシアホールディングスが新規株式公開(IPO)とともに検討するもう1つの選択肢、米ウエスタンデジタル(WD)との合併について、協議の行方を左右する経済産業省からは容認論が出ている。写真は2015年4月、米ワシントンのホワイトハウスで撮影(2021年 ロイター/Kevin Lamarque)
キオクシアホールディングスが新規株式公開(IPO)とともに検討するもう1つの選択肢、米ウエスタンデジタル(WD)との合併について、協議の行方を左右する経済産業省からは容認論が出ている。写真は2015年4月、米ワシントンのホワイトハウスで撮影(2021年 ロイター/Kevin Lamarque)

清水律子 Tim Kelly

[東京 3日 ロイター] - キオクシアホールディングスが新規株式公開(IPO)とともに検討するもう1つの選択肢、米ウエスタンデジタル(WD)との合併について、協議の行方を左右する経済産業省からは容認論が出ている。経済安全保障上重要な半導体産業を国内に残すには、規模を大きくすることが不可欠と考えているためだ。しかし、合併しても「経営の自主性」は譲れないとの指摘もあり、本社や開発、生産機能を日本にとどめることができるどうかが条件になるという。

<「キオクシア単独では限界」>

「メモリーは規模の経済。キオクシアを含め、どこかと組まなければ上位を追うことは難しい」。8月末に浮上したキオクシアとWDの合併交渉について、経産省関係者の1人はこう話す。差別化がしにくいとされる半導体メモリーは巨額の増産投資でシェアを取り、コスト競争力で勝つことが求められる。

調査会社トレンドフォースによると、キオクシアが手掛けるNAND型フラッシュメモリーの市場は、首位の韓国サムスン電子が34%(4─6月期)と圧倒的なシェアを握る。キオクシアは2位につけながらも18.3%と大きく引き離されている。だが、14.7%で3位のWDと一緒になれば、サムスンに匹敵する規模のNANDメーカーとなる。幅広い種類の半導体を扱うサムスンなどと異なり、キオクシアはNAND専業で、「キオクシア単独では限界があるものの、国内に半導体工場を残し、強化し、世界と戦っていきたい」と、同関係者は言う。

キオクシアは昨年延期したIPOを今秋にも行う準備を進めている。関係者によると、並行してWDとも合併に向け協議している。早ければ9月中旬にも合意に達する可能性がある。

米国と中国の対立が深まり、経済活動に不可欠な素材や部品の安定調達に懸念が広がる中、日本政府は頭脳となるロジック、光や温度などを捉えるアナログ、データを記録するメモリー、すべての半導体を「自給」できる体制を整えるようとしている。日本にないロジック半導体をどう日本に呼び込むかという大命題と同時に、日本にあるメモリーでも、経営や人材を含めた国際連携の下で事業拡大・再編、先端技術開発などを行っていく方向性が打ち出されている。

「キオクシアとウエスタンデジタルが一緒にやっていくというのは喜ばしい」と、別の経産省関係者は語る。外資、とりわけサプライチェーンの強化で歩調を合わせる米国との連携は排除しない方針で、複数の経産省関係者は、キオクシアとWDの組み合わせはその方向性と合致していると見ている。

<中国というハードル>

しかし、合併するにしてもキオクシアが経営の自主性を確保することが条件だと、複数の経産省関係者は強調する。もともとキオクシアは四日市工場(三重県四日市市)をWDと共同で運営しており、生産拠点が日本から離れることは考えにくい。それでも「事業方針、投資方針、新会社のガバナンス全体が、日本にある工場の将来の拡大に影響を与える可能性がある」と、経産省幹部は言う。研究開発機能を日本に残さなければ、将来的に日本の半導体産業が得られるものが乏しくなるとも指摘する。

「(WDの)すべてが日本に来てしまうと米国政府にとっては受け入れられない。逆の場合は日本側が受け入れられない。どちらも受け入れられる条件を準備する必要がある」と、経産省関係者は語る。

もう1つのハードルとして、中国の独禁法当局から承認を得られるかどうかという問題がある。米半導体大手のクアルコムは2018年、中国の承認を得られずオランダの車載半導体大手NXPセミコンダクターズの買収を断念した。

経産省内には中国の動きだけに読めないとする声がある一方、「中国企業はウエスタンデジタルやキオクシアのメモリチップを必要としている。中国政府がノーということはない」との見方も出ている。

キオクシア首脳の1人はロイターの取材に対し、「良い時期を見てIPOするように準備している、というスタンスは変わってない」と語った。WDとの合併については「コメントできない、しないというのが会社の方針」とした。

(清水律子、ティム・ケリー、新田裕貴、山崎牧子、基太村真司 編集:久保信博)

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