アングル:膨らむ信託銀の超長期債買い、背後にGPIFのリバランスか

信託銀行が日本の超長期債を過去最高水準で買い越している。写真はイメージ。2017年6月撮影(2021年 ロイター/Thomas White)
信託銀行が日本の超長期債を過去最高水準で買い越している。写真はイメージ。2017年6月撮影(2021年 ロイター/Thomas White)

坂口茉莉子

[東京 7日 ロイター] - 信託銀行が日本の超長期債を過去最高水準で買い越している。信託銀行に売買を委託をしている国内年金勢が背後にいるとみられており、中でもGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がリバランス(資産の再配分)を行ったとの見方が市場ではもっぱらだ。生損保に次ぐ買い越し額になっており、今後の動向に注目が集まっている。

<「キャッシュ崩し」との見方>

日本証券業協会のデータによると、7月の信託銀行の超長期債の買い越し額は1兆1296億円と、統計開始の2004年4月以来で最大となった。1─7月累計では3兆6689億円の買い越しと前年同期の9880億円の売り越しから急転換。生損保の4兆2195億円に次ぐ規模に膨らんでいる。

当初は株価上昇に伴うリバランスとみられていた。昨年11月から今春にかけての世界的な株価上昇でポートフォリオ内の株式ウエート(運用比率)が上昇。債券などとのバランスを維持するために、株式売り・債券買いを行う必要があったためだ。

しかし、新年度に入った4月以降も増加基調は変わらず、6─7月は買い越しペースが加速している。その要因として、市場で有力視されているのがGPIFによる「キャッシュ崩し」だ。

GPIFは2018年以降、国内債券と短期資産(現金)のウエートを合算して公表しており、その比率は不明だが、6月の国債大量償還などで増えていたキャッシュを超長期債に振り向けたのではないかという。

「国内債券のウエートは25%だが、多い時で6─7%をキャッシュが占めている時代があるなど乖離(かいり)があった。しかし、新しいCIO(最高投資責任者)が着任してから、以前ほど乖離がないように調整し始めているようだ。パッシブ運用をしっかりやっていくという方向性なのではないか」と、事情に詳しい市場関係者は分析する。

ロイターはGPIFに取材を申し込んだが、投資戦略や市場の見通しに関する取材については控えるとの回答を受けた。

<デュレーションのミスマッチ解消との見方も>

GPIFがベンチマークにしている野村BPIとのデュレーションのミスマッチを解消するため、超長期債を買っているとの見方も出ている。「パフォーマンスがベンチマークに追いついていなかった部分があるようだ。昨年から15─20年ゾーンを買っていたとみられ、その流れが今年も続いているのではないか」(市場関係者)という。

資金をキャッシュのままにしていると、債券のデュレーションは短くなり、自己評価ベースではポートフォリオの最終利回りが低下する。過去に高利息(クーポン)が付いていた国債が減っていくにつれ、総利回りも低下していく。このため、「デュレーションリスクを取ることにはなるが、金利が付く商品を買わなければいけない」(国内投信)という運用上の事情もバイサイドにはある。

日本の超長期債は、海外の債券と比べるとわずかだが、昨年比で金利水準が上昇している。マイナス利息が付くキャッシュを保有するよりも、少しでも利回りが付く債券が選好された可能性がある。

ニッセイ基礎研究所の金融研究部、福本勇樹主任研究員は、「長期的に見たときに日本は欧米と比較してインフレになるとは想定しづらい。ボラティリティーも低い。相対的に海外の資産をヘッジ付きで持つよりも、円債の方が安全で良いという面もあるのではないか」との見方を示している。

<生損保に買い「余力」か>

信託銀行による超長期債の買い越し額は、1─7月だけで昨年1年間の3.2倍に達しており、「歴史的に見ても信託銀行による買いがいつまでも続くとは思わない」と、アセットマネジメントOneのグローバル債券担当、ファンドマネージャーの鳩野健太郎氏はみる。

ただ、「昨年対比でスローダウンしている実需の買いが戻ってくる可能性もあり、バランスがとれるのではないか」と鳩野氏は話す。

生損保の20年度の平均買い越し額は月6344億円。今年度4月以降の平均買い越し額は4180億円と下回っており、「余力」があるとみられている。

10─20年債には銀行勢の買いも期待されている。モルガン・スタンレーMUFG証券のエクゼクティブディレクター、杉崎弘一氏は、「10─20年債については預貸ギャップの拡大を背景に、銀行勢による買いが入りやすい。キャリー需要が高いゾーンがアウトパフォーマンスしていく一方で、30年超の金利は上昇していく」との見方を示している。

(坂口茉莉子 編集:伊賀大記)

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