企業のDX促進へ緩和継続で支援、特別な制度は不要=黒田日銀総裁

経済・ビジネス

9月27日、 日銀の黒田東彦総裁は大阪経済4団体共催の懇談会であいさつし、今後の日本経済は堅調な企業部門が支えている間に個人消費も回復に転じることで、全体で好循環が強まっていくかどうかがポイントになると述べた。都内で2020年1月撮影(2021年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
9月27日、 日銀の黒田東彦総裁は大阪経済4団体共催の懇談会であいさつし、今後の日本経済は堅調な企業部門が支えている間に個人消費も回復に転じることで、全体で好循環が強まっていくかどうかがポイントになると述べた。都内で2020年1月撮影(2021年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

[東京 27日 ロイター] - 日銀の黒田東彦総裁は27日、大阪経済4団体共催の懇談会で、金融緩和を通じて経済全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)を進展させていく必要があると述べた。ただ、マクロ経済政策による支援が重要になる気候変動対応とは異なり、DX支援に向けて中央銀行として特別な制度を創設する必要はないと語った。

金融政策運営については、当面は新型コロナウイルス感染症への対応が引き続き重要だと指摘。今後も感染症の影響を注視し、必要と判断すれば、躊躇(ちゅうちょ)なく追加的な金融緩和措置を講じる構えだと語った。部品の供給制約が影響して目先の輸出や生産は鈍化が予想されるが、そうした動きは「一時的」であり、やや長い目でみれば挽回生産や在庫復元の動きにも支えられて増加基調は続くと語った。

<企業のDX投資は市場原理の中で>

懇談会で出席者からDXの重要性について発言が出たのに対し、黒田総裁は「(金融緩和による)設備投資への刺激効果を通じて、経済全体のデジタルトランスフォーメーションを進展させていく必要がある」と応じた。

ただ、黒田総裁は記者会見で、気候変動問題と企業のDXの違いを説明。気候変動問題は市場原理に任せておくと適切な対応が十分にできないため、政府がさまざまな政策を打ち出すのが重要で、日銀としても金融機関の取り組みをバックファイナンスするのは中銀の使命の範囲内だが、「市場経済の中でDX投資は行われていく」と指摘した。海外中銀でも取り組み例がないこともあり「特別な制度を中央銀行として作る必要があるとは思われない」と述べた。

<景気、持ち直しメカニズムは維持>

黒田総裁はあいさつで、日本経済の足取りが重くなっているのは事実だが、海外経済の回復を起点として企業部門に前向きの循環メカニズムが働いていることから「持ち直しのメカニズムは途切れていない」と述べた。

当面、個人消費の足踏み状態が続くとみられるものの、その後は、感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、経済の回復傾向は明確になっていくというのがメインシナリオだと語った。堅調な企業部門が支えている間に個人消費も回復に転じることで、経済全体で好循環が強まっていくかどうかがポイントになると述べた。

個人消費については、ワクチン接種証明書や陰性証明書の活用などで、感染抑制と消費活動の両立をいかに進めていくかが課題となる、と指摘。ペントアップ需要に支えられ、回復に転じる可能性が高いが、タイミングやペースは今後の感染動向に大きく左右されるとした。

製造業では、グローバルな半導体不足が供給面の制約となっているほか、東南アジアのコロナ感染拡大による工場閉鎖などで、部品調達が滞っている。輸出や生産の増勢は鈍化が予想されるものの、今後も増加基調は続くと指摘。企業部門で働いている収益から設備投資への前向きの循環も維持されると述べた。

<価格転嫁しづらい状況は一時的>

物価について、黒田総裁は米欧対比で弱い動きになっていることは「否定できない」と指摘。過去のデフレの経験に根差した考え方や慣行が定着していることが背景にあると述べた。その上で、定式的な値決めが浸透している素材業種を除けば、国際商品市況の上昇を転嫁する動きは「限定的なものにとどまる」と話した。

会見では「早ければ年内、遅くても来年早々にコロナ感染者がピークアウトして、外食や宿泊が広まっていけば価格転嫁も容易になってくる」と指摘。国際商品市況の上昇や部品の供給制約の影響も一時的との見方を示した。

黒田総裁は29日に在任期間が歴代最長を更新する。記者会見で「物価2%目標を達成するのはかなり難しい状況になっているが、これまでのさまざまな緩和措置は正しかった」と語った。

(和田崇彦、杉山健太郎)

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