アングル:岸田新総裁、独自色の打ち出しが鍵 リスク伴う安倍支援

9月30日、自民党は岸田文雄前政調会長(写真)を新総裁に選出した。来年までに衆参両院の選挙を控える新政権の命運は、岸田氏が新総裁として人事や政策面でどこまで独自色を打ち出せるかにかかってくる。写真は29日都内での代表撮影(2021年/ロイター)
9月30日、自民党は岸田文雄前政調会長(写真)を新総裁に選出した。来年までに衆参両院の選挙を控える新政権の命運は、岸田氏が新総裁として人事や政策面でどこまで独自色を打ち出せるかにかかってくる。写真は29日都内での代表撮影(2021年/ロイター)

竹本能文

[東京 30日 ロイター] - 自民党は岸田文雄前政調会長を新総裁に選出した。来年までに衆参両院の選挙を控える新政権の命運は、岸田氏が新総裁として人事や政策面でどこまで独自色を打ち出せるかにかかってくる。安倍晋三前首相や麻生太郎財務相ら党重鎮の意向が色濃く示された選出過程から、党員票にも表れた「変化」を求める声に応えられるか疑問視する向きもあり、短命に終わるとの懸念もつきまとう。

<岸田政権の今後、見方分かれる>

新総裁に選ばれた岸田氏は30日、党役員人事に着手した。10月4日の首相指名選挙で新首相に選出される見通しで、その後の組閣を経て、岸田政権が発足する。

岸田政権の今後については識者の見方が分かれている。

菅義偉内閣の支持率低迷の大きな理由だった新型コロナの感染状況が改善していることが、新政権にはフォローになるとの見方がある。駒沢大学の山崎望教授(政治理論)は「コロナ対策への不満や怒りが、菅首相の退陣と共に帳消しにされる可能性もある。野党としては戦いにくいかもしれない」と指摘する。立教大学の砂川浩慶教授(メディア論)は「校長先生のようにまじめそうな風貌もあり、岸田人気が一定期間続くのでないか」と評価する。

一方、「衆院選が実施される11月中旬までかなり時間があり、新鮮味のない人事などを打ち出せば、一気に支持率も下がるのでは」とある政府関係者は警戒する。砂川氏も「総裁選でリベラルな主張が注目された野田聖子幹事長代行を登用するなど岸田さん独自の人事ができるかどうかがカギ」と強調する。

複数の関係者によると岸田氏は甘利明党税制調査会長や萩生田光一文科相など安倍氏側近を、幹事長などの党重要ポストに起用する方向で調整しているという。砂川氏は「安倍政権と同じと思われる」と懸念する。今後の人事や政策によっては世論の反応は急変するリスクも指摘される。

<岸田総裁誕生、勝者は安倍氏>

総裁選で岸田氏は安倍・麻生氏らの支持を得たことで、竹下派の多数議員などからも支持を集め、初回投票の議員票で146と4候補中最多の票を得た。河野太郎行政改革相を上回る114票を獲得した高市早苗前総務相の陣営が支援に回ったことで、決選投票では249票の議員票を獲得。131票にとどまった河野氏に圧勝した。

今回の総裁選で、支持率低迷にあえぐ菅氏に代わる選挙の顔を立てようと動いたのは安倍氏だったとされる。

最初に出馬の意向を表明したのは安倍氏に近い高市氏で、8月発売の月刊文芸春秋に出馬表明を寄稿した。安倍氏はこれを黙認。高市氏の正式出馬表明後にはツイッターで支持を明言し、その後も様々なアドバイスを行ってきたという。

この動きについて「高市氏の擁立で保守層の人気を盛り上げ、最終的な落としどころは、野党からも批判の少ない岸田氏にすることで衆院選対策とする」(中堅幹部)との解説がある。

報道各社の世論調査で人気の高かった河野氏が参戦した後は、河野氏を応援する菅氏や森山裕国会対策委員長と岸田氏や高市氏を応援する安倍・麻生氏が対立する構図となったが、安倍陣営は岸田・高市氏の議員票獲得で、決選投票に持ち込み逆転勝利するシナリオを描き、結果的に成功した。

「自民党の評判を回復するには安倍政権時代のモリカケ・桜問題の清算は不可欠」(閣僚周辺)などとする河野陣営の思惑は、岸田氏の勝利で上書きされた。

時事通信の元解説委員で政治評論家の原野城治氏も総裁選の結果について「安倍・麻生ラインの強さが証明された」と表現する。

<従来政治継続、短命リスクも>

安倍氏らの動きを背景に総裁選を勝ち抜いた岸田氏は、人事の独自性だけでなく政策面でも安倍氏らの路線から離れられないリスクが指摘されている。

駒沢大の山崎教授は「総裁選において、安倍・麻生・甘利氏といった従来の党実力者のサポートが大きかった事を考えると、岸田総裁で総選挙に臨んでも、従来の政治の継続という側面が大きい」と指摘。例えば、「同盟を組んだ高市氏の政策とどこに共通点があるのか。疑問が大きい」と懸念を示す。

党員・党友票を最も多く集めた河野氏への支持は改革への期待だったが、原野氏は「河野氏に比べ岸田氏は改革姿勢も半分程度」と評価。「衆院選を間近に控えるため、人事は過渡的なものになる」と予測する。

衆院選についても「議席減の幅が20から40程度と、菅体制で衆院解散に踏み切った場合の(試算・調査値の)半分程度に抑えられるかもしれないが、来年夏の参院選の結果次第では短命の政権に終わる可能性がある」と懸念する。

(c) Copyright Thomson Reuters 2021. Click For Restrictions -
https://agency.reuters.com/en/copyright.html

ロイター通信ニュース