焦点:在任戦後最長の麻生氏退任、アコード締結で辣腕 国際社会でも存在感

10月4日、財務相として戦後歴代1位の在任記録を更新した麻生太郎氏が退任した。2012年12月の第2次安倍内閣発足直後に政府・日銀の政策協定(アコード)締結で辣腕(らつわん)を振るい、国際社会でも存在感があった。写真は2012年12月、都内で撮影(2021年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
10月4日、財務相として戦後歴代1位の在任記録を更新した麻生太郎氏が退任した。2012年12月の第2次安倍内閣発足直後に政府・日銀の政策協定(アコード)締結で辣腕(らつわん)を振るい、国際社会でも存在感があった。写真は2012年12月、都内で撮影(2021年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

[東京 4日 ロイター] - 財務相として戦後歴代1位の在任記録を更新した麻生太郎氏が4日、退任した。2012年12月の第2次安倍晋三内閣発足直後に政府・日銀の政策協定(アコード)締結で辣腕(らつわん)を振るい、国際社会でも存在感があった。一方、経済成長と併せて目指した財政の立て直しは新政権に託す。

財務相としての初仕事は政府・日銀アコードの草案づくりだった。大胆な金融緩和、機動的な財政出動、民間投資を喚起する成長戦略を柱とするアベノミクス政策の推進を狙う安倍氏の第1次内閣時からの悲願でもあった。

第1次安倍内閣当時は日銀の福井俊彦元総裁の抵抗にあった。福井氏の後を継いだ白川方明前総裁も「2%のインフレ目標を金融政策だけで実施するのは困難」と懐疑的な立場だったが、麻生氏が押し切った。

「第2次安倍内閣発足後は、予算を後回しにしてアコード締結に向けて目まぐるしい日々を送った。首相経験者の麻生氏が実務を仕切ってくれた意義は大きかった」と、当時を知る関係者は振り返る。

消費税増税では、10%への引き上げを渋る安倍元首相に増税分の半分を幼児教育無償化などの財源に充てるよう進言し、19年10月の増税にこぎ着けた。

主要7カ国(G7)などの国際社会の場でも存在感を発揮した。内輪では「ドイツのショイブレ(元財務相)か、日本の麻生か」とささやかれ、13年5月にバッキンガムシャーで行われたG7財務相・中央銀行総裁会議では、麻生氏が国際課税ルールの見直しを提案し、「100年に1度の歴史的改革」(麻生氏)に道筋を付けた。

「デジタル化が進展するなかで多くの企業が税金を払っていない実態にどう対処するのか麻生氏が提起し、ドイツが乗ってきた」と、元財務省幹部は振り返る。「国際社会でも存在感があっただけに、退任されるのは残念」と別の幹部は言う。

<後継の鈴木氏、政策手腕は未知数>

岸田文雄新内閣の財務相に起用される鈴木俊一元環境相は麻生派で、麻生氏にも近いとされる。もっとも政策手腕は未知数で、市場では「どういう方か本当によくわからない」(国内証券)との受け止めも少なくない。

財政運営では、衆院選を控えた歳出圧力と、年度内に実施する新型コロナに伴う財政検証をどう乗り切るかが焦点となる。組閣に先立ち、自民党の甘利明幹事長は次期衆院選後に大型の21年度補正予算案の編成に着手する考えを示した。

前政権がまとめた経済財政運営の指針(骨太方針)では「経済あっての財政」を掲げ、グリーンやデジタルなど成長分野への歳出をうたった。岸田氏は数十兆円規模の対策の必要性を訴えており、財政規律とのバランスをどう取るかが改めて問われる。

麻生氏は4日、総辞職に伴う臨時閣議後の記者会見で「新規国債を減らせたのは良かった」と振り返った。

ただ、過去の借金借り換えや財投財源なども含めた普通国債そのものは膨らみ、12年度末に705兆円だった残高は21年度末には990兆円に達する。国内総生産(GDP)との残高対比は21年度末に177%(12年度末は141.2%)となる。

国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)を2025年度に黒字化できるかも微妙で、度重なる先送りの末にソブリン格付けが引き下げられれば銀行の資金調達コストに飛び火し、かえって景気に悪影響を及ぼすのは必至だ。

ESG(環境・社会・企業統治)を進め3000兆円とされる環境投資を呼び込めるかや、中銀デジタル通貨対応などの国際的な議論で、新たな財務相として鈴木氏が存在感を示せるかも焦点となる。

(山口貴也、ダニエル・ルーシンク、小宮貫太郎 編集 橋本浩)

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