焦点:先送りの金融所得増税、分配政策で曲折 総選挙で争点化も

岸田文雄首相(写真)が衆院解散に踏み切った。自民総裁選で必要性を訴えた金融所得課税の引き上げは政権発足後1週間で曲折し、先送り含みの状況に中間層を厚くする分配政策の実現には不透明感も漂う。写真あ国会で8日撮影(2021年 ロイター/Kim Kyung Hoon)
岸田文雄首相(写真)が衆院解散に踏み切った。自民総裁選で必要性を訴えた金融所得課税の引き上げは政権発足後1週間で曲折し、先送り含みの状況に中間層を厚くする分配政策の実現には不透明感も漂う。写真あ国会で8日撮影(2021年 ロイター/Kim Kyung Hoon)

[東京 14日 ロイター] - 岸田文雄首相が衆院解散に踏み切った。自民総裁選で必要性を訴えた金融所得課税の引き上げは政権発足後1週間で曲折し、先送り含みの状況に中間層を厚くする分配政策の実現には不透明感も漂う。立憲民主党は原則25%(現在は20%)を掲げて所得格差を是正する構えで、金融所得課税の扱いは総選挙の争点のひとつに浮上しそうだ。

新内閣発足直後の4日に岸田首相が決断したのが、臨時国会会期末の14日に衆院を解散することだった。解散に伴う総選挙を19日公示、31日投開票とする日程も併せて表明し、与党にとどまらず野党にも動揺が広がった。

「選挙日程が後ろ倒しとなれば、追加経済対策や予算編成が窮屈(きゅうくつ)になる。暦を気にせず、選挙日程を前倒しした岸田首相の決断は、必要な対策に速やかに打って出るアピールにつながった」と、党関係者は指摘する。

もっとも経済成長と分配を掲げ、当初は「選択肢の1つ」としてきた金融所得課税の引き上げでは、解散の決断とは対照的に、及び腰感が否めない。

国税庁の申告所得税標本調査によると、所得税の負担割合は所得が増えるほど段階的に増し、5000万円超1億円以下では27.9%に達する。しかし、1億円超では23.2%に下がっている。累進課税の所得税率が最高45%なのに対し、株式の売却益や配当などで得た金融所得は給与所得に合算されず、一律20%となっているためだ。

「1億円の壁」と指摘されるこうした状況の是正に向け、岸田首相はこれまで「見つめ直す必要がある」などと主張してきた。

しかし、11日の衆院本会議では「賃上げに向けた税制強化など取り組むべきことがある。優先順位が重要だ」と述べ、課税強化の先送りを表明。立憲民主党の辻元清美副代表が「1週間で白旗をあげてどうするんですか」と、首相をただす一幕もあった。

<結局は借金頼みか>

立憲民主党の枝野幸男代表は「国際標準の30%を視野に、遅くとも2023年度までに原則25%まで引き上げ、将来的には総合課税化する」とし、金融所得に対する課税強化を13日発表した次期衆院選公約に明記した。分配政策でより踏み込み、1970年代の1億総中流社会を復活させる構えだ。

新型コロナウイルスの感染拡大で所得の不公平感が強まり、高所得者層への課税強化の機運は欧米などの先進国にとどまらず、中国でも高まりをみせている。

「日本の税率は国際的にみても低い水準にある。ドイツはリーマン危機時に課税強化に踏み切ったが、さほど株価が反応しなかった過去をどう見ているのか。(岸田氏が株価下落で発言を後退させているなら)政権与党としての本気度が問われかねない」との声も、政府内にはある。

首相が発言を軌道修正したことを巡って、市場では「支持率が低調なスタートとなったことや、株式市場が軟調に推移してきたことと無関係ではないだろう」(BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミスト)との見方が多く、河野氏は「財源確保がままならなければ、結局は国債頼みの分配政策へと傾斜しかねない」と警鐘を鳴らす。

(山口貴也、梶本哲史、金子かおり 編集:石田仁志)

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