アングル:投機の熱狂生んだトランプ氏の新SNS、批判派も巻き込む

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トランプ前米大統領は、自身の新会社とSPACの合併を通じて、独自のソーシャルメディアを立ち上げる計画を打ち出した。これが支持者だけでなく同氏に批判的な人々も巻き込み、合併相手のSPAC、デジタル・ワールド・アクイジション・コープの株式を買って大もうけしようという熱狂的な動きを生み出している。写真はトランプ氏。オハイオ州ウェリントンで6月撮影(2021年 ロイター/Shannon Stapleton)
トランプ前米大統領は、自身の新会社とSPACの合併を通じて、独自のソーシャルメディアを立ち上げる計画を打ち出した。これが支持者だけでなく同氏に批判的な人々も巻き込み、合併相手のSPAC、デジタル・ワールド・アクイジション・コープの株式を買って大もうけしようという熱狂的な動きを生み出している。写真はトランプ氏。オハイオ州ウェリントンで6月撮影(2021年 ロイター/Shannon Stapleton)

[25日 ロイター] - トランプ前米大統領は、自身の新会社と特別買収目的会社(SPAC)の合併を通じて、独自のソーシャルメディアを立ち上げる計画を打ち出した。これが支持者だけでなく同氏に批判的な人々も巻き込み、合併相手のSPAC、デジタル・ワールド・アクイジション・コープの株式を買って大もうけしようという熱狂的な動きを生み出している。

テキサス州オースティンのソフトウエアコンサルタント、アンソニー・グエンさん(49)は、まさにその1人。グエンさんは共和党員ながら昨年の大統領選でトランプ氏に投票するのを拒絶した。

それでも先週、何百万人ものオンライン・デートレーダーの一員としてデジタル・アクイジション株に買いを入れた。彼も加わった大きな買いの力は、合併後のトランプ氏の新会社の企業価値を約120億ドルに押し上げる役割を果たした。

新会社はまだ、独自ソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル(TRUTH Social)」の試験運用すら開始していないし、グエンさんが投資した理由は、このビジネスモデルの成功を信じているからではなく、単に手っ取り早くもうけたいからだ。

グエンさんは「トランプ氏のソーシャルネットワークがうまく行くかと聞かれれば、恐らくだめだろう。だからと言って、その間に利益を得られないという意味ではない」と話す。

デジタル・ワールドの株価は、トランプ氏の新会社トランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループとの合併を発表した20日以降、842%も跳ね上がった。

デジタル・ワールドの22日株価終値に基づくと、トランプ・メディアは82億ドルと評価され、合併後の企業価値は120億ドル近くになる。

これはデジタル・ワールドがSPAC合併の慣行として取引時の株価を10ドルと算定していることが前提。正確な計算を可能にしてくれる規制当局への届け出書類の詳しい内容は、今週中に判明する見通しだ。

当然ながらデジタル・ワールド株を買った多くの投資家は、トランプ氏の政治的な支持者かファンだ。ペンシルベニア州ノリスタウンのセールスマン、シェーン・スプリンガーさん(28)は先週、ネット証券のロビンフッドを通じて1300ドル相当を購入。この時の株価は13ドルだったが、22日に175ドルまで値上がりしても断固として売らず、ずっと高くなるまで保有し続けるつもりだ。

スプリンガーさんは「トランプ氏には、人々をもうけさせてくれるという面で強固な実績がある。これが選挙なら私は失敗しただろうが、そうではなくてビジネスの話だ」と述べた。

一方、グエンさんは、今年1月に起きたビデオゲーム販売会社、ゲームストップの株価高騰との類似性があると考え、デジタル・ワールドに投資した。

ゲームストップは、オンライン掲示板のレディットなどで情報交換した個人投資家が結束し、空売りポジションを組んでいたヘッジファンドに対して買い向かった結果、大きく値上がりしたいわゆる「ミーム株」の象徴。

これらの投資家は、映画館チェーンのAMCエンターテインメント・ホールディングス、家庭用品小売りのベッド・バス・アンド・ビヨンドといった他のミーム株にも活発に買いを入れた。

デジタル・ワールドはSPACで、ヘッジファンドに空売りされていないという点ではミーム株と異なる。しかし、グエンさんは、トランプ氏の計画を巡る個人投資家の熱狂に同じにおいを感じたと明かした。

グエンさんは1株当たり41ドルの平均取得コストでデジタル・ワールド株4100ドル相当を購入し、株価が96ドルを付けた段階で半分を4800ドルで売却。株価が120ドルに達すると4分の1を3000ドルで売った。「投資家は流れに乗りたがる。十分に機転が利くなら、参戦して元手を2倍にした上で撤退できる」という。

こうしたデジタル・ワールドの高騰で恩恵を受ける可能性がある他の銘柄に目を向ける投資家もいる。ポートランドの建設労働者、サム・ニタさん(36)は先週、デジタル・ワールドに2800ドルを投じた以外に、米ソフトウエア開発のファンウェア株1368ドル相当も購入した。ファンウェアは昨年の大統領選でトランプ氏陣営のアプリを手掛けた企業だ。

ニタさんは、株式取引アプリを通じてファンウェアを知り、同社株価が22日に最大1471%も跳ね上がった後、デジタル・ワールドへの投資分と合計で1万4000ドルのもうけを手に入れた。

過去2回の選挙でいずれもトランプ氏に投票したニタさんは「株など取引したことがない友人たちからさえ、この『トランプ株』をどうすれば買えるのか、知りたいとの声が聞こえてきている」と投資熱の広がりを語った。

ファンウェアのクラウダー最高執行責任者はロイターの取材に対し、同社が第3・四半期に前期比50%、第4・四半期には同100%を超える成長を達成する見込みで、ブロックチェーンに基づく本物の分権型データ経済を構築しつつあるという理由が投資家の興奮の背景にはある、と説明した。

<大きなリスク>

もっともデジタル・ワールドの株価が今後上がるのか下がるのか予測しようとしている投資家にとって、手掛かりは乏しい。トランプ・メディアが先週公表した事業計画の説明資料には、その野心的な構想が長々と盛り込まれていたものの、財務関連の記述はごくわずかにとどまった。

デジタル・ワールド株がさらに上昇すると主張する向きは、1月6日の米連邦議会議事堂襲撃事件を受けてトランプ氏が各ソーシャルメディアのアカウントを停止されるまで、多数のフォロワーを抱えていた事実を根拠としている。

説明資料によると、トランプ氏のフォロワーはツイッターが8900万人、フェイスブックが3300万人、インスタグラムが2450万人だった。

逆にデジタル・ワールド株の弱気の見方をする投資家は、パーラーのような他の右派系ソーシャルメディアの挫折を挙げる。また、デジタル・ワールドはSPACとして既に過去最大の値上がりをした以上、ここからは株価の天井で買うことになる公算が大きいと警告している。

SPAC全般としては、トランプ氏の新ソーシャルメディア計画が浮上する前から、個人投資家にとって魅力の大半が失われた状況にもある。SPACと合併した企業は、彼らが掲げた壮大な財務上の目標を達成できず、多くの投資家が大損したからだ。

資本市場を研究しているフロリダ大学のジェイ・リッター教授(ファイナンス)は、デジタル・ワールド株高騰を目にした同社とトランプ・メディアが、個人投資家を犠牲にして自分たちがもっと得をし続けられるように合併の再交渉を目指す可能性がある、というのが投資家にとって大きなリスクだと指摘。「株価が上がるほど、投資家からすると値下がりの危険が増してくる」と述べた。

(Krystal Hu記者、Anirban Sen記者)

*記事の内容は執筆時の情報に基づいています。

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