生きたまま返して=誘拐された息子、5年不明-母来日、実態語る・メキシコ麻薬戦争

社会

メキシコ全土に広がった麻薬戦争に巻き込まれ、2013年に誘拐された息子の捜索を続けている東部ベラクルス州の行方不明者家族会「ソレシートの会」のルシア・ディアス代表(63)が来日し「メキシコの真実を知ってほしい」と訴えている。誘拐犯には「生きたまま連れて行ったのだから、生きたまま返して」と5年間、呼び掛け続け、仲間とデモを行い、遺体埋葬の可能性があれば発掘を行ってきた。

◇動かない警察

東京都内で25日、時事通信社の取材に応じた。9月6日までの日本滞在中、東京、京都、大阪で講演を行う。息子は当時29歳。ベラクルス市で従業員6人のイベント会社を経営していた。事件当日は病気で家で寝ていたが、押し入った何者かに拉致された。

警察特殊部隊による初動捜査で、息子の携帯電話の売却に従業員の関与が分かったが「それでも誰一人捕まっていない」とルシアさん。要求通り身代金も払い、車もオートバイも渡したが、息子は帰ってこない。

特殊部隊が手を引くと、警察は動かなくなった。英語の通訳だったルシアさんの暮らしは激変した。捜査を求めても門前払いばかり。しかし、同じ境遇の行方不明者の親族たちと知り合い、8人で「ソレシートの会」を立ち上げた。ネットを通じ行き場のない家族が次々集まり、2カ月で40人の団体に発展した。

そこで分かったのは「活動資金がないと何もできない」という厳しい現実だ。「働き手の父親を失った家庭もあり、集会場に来るバス代がない人もいる」。ルシアさんらは募金のほか、祭りの会場や公園、浜辺に出店してはタコスなどを売った。今は古着の店を3店舗運営して資金を調達し、行方不明事件の相談を受けている。現在の会員は250人だ。

◇秘密墓地から300人

16年5月、ルシアさんらはベラクルス市中心部でデモの準備をしていた。そこに男が車で現れ、地図のコピーを渡して立ち去った。「あまりに素早くて顔も見えなかった」とルシアさん。しかし、十字架が書かれ、秘密の墓地の地図だと直感した。

「息子を見つけたいだけだ。犯人を捜しているのではない」とルシアさんらは、乗り気でない警察を説得。2カ月がかりで警察の許可を得ると、地図が示したベラクルス市郊外サンタフェの丘で発掘を始めた。これまでに300人近い遺体が見つかった。もっと多いと考えられ、会は今も発掘を続けている。

メキシコでは、DNA鑑定を当局に委ねざるを得ない。遅々として進まず「日本が支援してくれないか」と呼び掛けている。

身元が分かったのは、わずか15人。このうち、遺族が警察に届け出ていたのは5人だけだった。一般に「警察に言ったことは犯罪組織に筒抜けになるから、行方不明者の家族の7割は怖くて届け出ない」と言われる通りの数字だとルシアさんは感じている。

息子の写真を見せるメキシコ東部ベラクルス州の行方不明者家族会「ソレシートの会」のルシア・ディアス代表=25日、東京都杉並区

メキシコ東部ベラクルス州で発掘中の、行方不明者が埋められたとみられる「秘密の墓地」=3月22日、同州ベラクルス市郊外サンタフェの丘(NGO日本ラテンアメリカ協力ネットワーク会員、山本昭代さん提供)

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