一人ひとりの声をすくう=柳美里さん、福島の高校生と舞台上演-東日本大震災8年

社会

東日本大震災は多くの人の人生に影響を与えた。作家の柳美里さん(50)もその1人。直後から福島県に通い、4年前に同県へ移住。昨年は芥川賞受賞以前に主宰していた演劇ユニット「青春五月党」を復活させ、被災者の体験を織り込んだ舞台に取り組む。その第1弾作品「静物画」を、ふたば未来学園高校(広野町)演劇部の生徒が出演して3月、東京で再演する。

柳さんは南相馬市小高区に暮らす。事故を起こした東京電力福島第1原発の20キロ圏内にあり、警戒区域の指定が解除されたのは3年前だ。

帰還者の生活のためには「地域にふらっと人が集まれる空間も必要では」と感じた柳さんは自宅に本屋「フルハウス」と劇場スペースを開設した。「静物画」は柳さんが演出も兼ね、昨年9月、同所で初演した。

当初、県外での上演は考えていなかった。だが、「電気を使っていた首都圏の人々に当事者意識は乏しく、年々希薄になる。東京でも上演する意味があると思った」と柳さん。

同作は柳さんが21歳の時の戯曲。高校生の青春群像を描いた。復活版はふたば未来学園の生徒たちから震災の記憶を丁寧に聞き取り、新たに登場人物のせりふへと落とし込んだ。

津波で家が流されたり、震災後に転校先でいじめに遭ったりした生徒もいた。「当時の彼らは小学2~4年生。直面した感情を抱え込んでいる子どももいた。悲しみや苦しみを外に持ち出す水路が必要で、言葉を声に出す演劇ならそれができる」

2月上旬に行われた稽古。劇中の生徒たちが震災体験を振り返り、自分が生まれ育った町の名を窓から叫ぶ場面がある。演技と素が入り交じり、言葉に力が増した。

3年生の鶴飼美桜さん(18)は富岡町出身。半壊した自宅は取り壊され、町は今も一部で帰還困難区域の指定が続く。劇中で、その故郷の家への思いを語る時は「せりふであって、せりふでないような感覚」という。以前は「震災は悲しいという感情だけに包まれていた」が、演じることを通じて変化した。「震災も一つの経験。それを踏まえて今の自分ができていると感じられるようになりました」

語られるエピソードにはほほ笑ましいものも。同じ富岡町出身の2年生、大田省吾さん(16)は地震の揺れでバケツからこぼれる水を友達と掛け合って遊んだ思い出がせりふになった。「つらさは感じない。(公演では)元気で生きているってことを伝えられたら」と屈託ない。

柳さんは「一人ひとりの声や個人史はカッコでくくれない。個別のものなのです。それを大事にしたかった」と語る。

震災から8年。それぞれの思いを乗せ、東京公演の幕が開く。

「静物画」は3月15~17日、東京・北千住BUoY(ブイ)で。女子版と男子版を交互に上演する。

「私は暮らしているこの場所が『中心』だと思っている」と話す柳美里さん=福島県南相馬市の自宅を兼ねた本屋「フルハウス」「私は暮らしているこの場所が『中心』だと思っている」と話す柳美里さん=福島県南相馬市の自宅を兼ねた本屋「フルハウス」

舞台「静物画」の稽古で生徒たちの演技を見詰める柳美里さん(中央)=福島県広野町のふたば未来学園高校舞台「静物画」の稽古で生徒たちの演技を見詰める柳美里さん(中央)=福島県広野町のふたば未来学園高校

柳美里さん(中央)を囲むふたば未来学園高校演劇部の生徒たちと、舞台にも出演する顧問の2人=福島県広野町柳美里さん(中央)を囲むふたば未来学園高校演劇部の生徒たちと、舞台にも出演する顧問の2人=福島県広野町

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