伝統行事継承の危機も=震災、原発事故で担い手減-東日本大震災8年

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東日本大震災で被災した岩手、宮城、福島各県では、伝統行事や民俗芸能の大半が復活し、被災者の心を支え、コミュニティーの再生に一役買っている。ただ、津波や東京電力福島第1原発事故による人口流出で過疎が深刻化し、担い手の減少で継承が危ぶまれる風習も出てきている。

◇復興願い神楽舞う

岩手県の三陸海岸の集落を340年以上前から巡業してきた黒森神楽(同県宮古市)。「神楽宿」と呼ばれ、夜神楽が催される民家やホテルも大津波に襲われたが、震災の3カ月半後には活動を再開し、仮設住宅が並ぶホテルの敷地で被災者の健康を祈願し舞った。神楽保存会の松本文雄会長(70)は「神楽は信仰心のあつい集落の人にとって神様のようなもの。震災後は犠牲者を供養し、被災者の健康、被災地の復興を願って舞ってきた」と話す。

今年も寒さが厳しい1月に巡業を始めた。津波で大きな被害を出した岩手県大槌町の浪板海岸地区では、近隣住民ら30人以上が集まった民家で3時間を超え熱演。自宅が津波で全壊したという元住民の80代の女性は「足腰が悪くなり神楽に来たのは久しぶりだが、とても良かった」と満足そうな表情を見せた。

課題は、巡業を受け入れる神楽宿が沿岸部で減ってきたことだ。関係者の一人は「震災もあって高齢化や人口減少が一段と進み、地域の力が落ちている」と指摘する。松本会長は「どんな形でも後世に伝えていくのがわれわれの役割だ」と継承への強い決意を語る。

◇参加は子ども3人

一方、宮城県東松島市の月浜地区で200年以上続いてきたとされる伝統行事「月浜のえんずのわり」は、主役である子どもが減り、地域住民に継承への危機感が広がってきている。

えんずのわりとは「意地の悪い」を意味する方言で、田畑を荒らす意地の悪い鳥を月浜の男の子が追い払う小正月の行事。参加できるのは小学2年から中学3年までに限っている。月浜は津波で約40軒の集落がほぼ壊滅し、近くの高台に集団移転した。ただ、別の地域に転居する家族も多く、参加者の確保が悩みだ。

今年の小正月は、地区外に引っ越した中学生を加え、3人で行った。自治会長の小野舛治さん(69)は「子どもは急に増えない。4~5年先には1人になってしまう可能性がある」と悩む。存続に向け女子の参加を認めることなども議論されているが、結論は出ていない。

被災地の伝統行事や芸能は、震災で関係者が犠牲になったり道具類が流失したりしたほか、原発事故で住民が地元を離れ活動を停止したものも多かった。3県や市町村などによると、国や県指定の無形民俗文化財のほとんどは再開したが、福島県浪江町の民俗芸能「津島の田植踊」は、帰還困難区域の地元で披露できず、厳しい状況に置かれている。

東北歴史博物館(宮城県多賀城市)の小谷竜介学芸員は「民俗芸能には人を引き付ける力がある。三陸地域は津波で何度も集落が壊されたが、獅子舞をみんなでやることで地域が再び一つになった面がある。伝統をどうつなぐかは地域が考えることだが、時代に合わせて変えても良いのではないか」と話している。

岩手県沿岸の集落を巡業する黒森神楽=9日、岩手県大槌町岩手県沿岸の集落を巡業する黒森神楽=9日、岩手県大槌町

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