「平和考えるきっかけに」=被爆ピアノの音色届け18年-広島の調律師・矢川さん

社会

原爆が投下された広島で奇跡的に焼け残ったピアノを修復し、その音色を各地に届け続けている男性がいる。広島市在住のピアノ調律師・矢川光則さん(67)。「被爆者も高齢化し、語り継ぐ人が少なくなっていく。一人でも多くの若者が考えるきっかけになれば」。自身の活動を通じ、平和の尊さに思いを巡らす若者が増えることを期待している。

矢川さんは被爆2世。中古のピアノを直して病院などに寄贈する活動をしていたところ、被爆したピアノの持ち主らから「何かに役立ててほしい」と託されるようになった。爆風で壁にたたきつけられたり、窓ガラスの破片が突き刺さったりしてできた傷が残るが、調律をすると力強い音がよみがえり、2001年8月6日に演奏会を始めた。

今では6台の被爆ピアノを保有。4トントラックを運転して全国を巡り、年約150回行われる演奏会に貸し出す。修学旅行で同市を訪れる中高生が原爆ドームの近くで弾いて合唱したり、県内外の学校やさまざまな団体のコンサートで使われたり…。矢川さんはピアノの所有者が被爆した状況を紹介。ピアノの傷に触れる機会も設けている。

中高生からは「戦争の悲惨さを感じた」「優しい音色に癒やされた」といった感想が寄せられる。演奏に心を動かされた高齢の被爆者が聴衆の前で初めて自らの体験を語りだしたこともあった。

一方で、原爆のことを知らない子どもが増えたと感じる。「私自身、両親や祖父母が被爆しているにもかかわらず、ピアノと出合うまであまり興味がなかった。元気な限り、平和の種まきを続けていきたい」と訴える。

11月にはフランシスコ・ローマ法王が来日し、広島も訪れる予定だ。12億人以上いるとされるカトリック信者への法王の影響力は絶大。矢川さんは広島市を通じ、「被爆ピアノを弾いていただけないか」と要請することを検討中だ。「その姿をメディアに発信してもらえたら、世界中の人々が核廃絶に関心を持つだろう」と期待を膨らませている。

矢川さんをモデルにした映画「おかあさんの被爆ピアノ」(五藤利弘監督)も今年5月に撮影がスタート。被爆75年となる来年夏ごろに全国公開される予定だ。

被爆ピアノの調律を行う矢川光則さん=7月25日、広島市被爆ピアノの調律を行う矢川光則さん=7月25日、広島市

修学旅行で平和記念公園を訪れた新潟県の中学生に被爆ピアノ(写真手前)の話をする矢川光則さん(中央)=3月13日、広島市修学旅行で平和記念公園を訪れた新潟県の中学生に被爆ピアノ(写真手前)の話をする矢川光則さん(中央)=3月13日、広島市

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