福島漁業、拡大へかじ=値崩れ警戒も衰退に危機感―東日本大震災9年

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東京電力福島第1原発事故後、風評被害を恐れ、漁獲量を抑えてきた福島県の漁業が転機を迎えている。県漁業協同組合連合会(県漁連)は低収入にあえぐ関係者の現状を打破するため、水揚げ拡大にかじを切る構えだ。値崩れも警戒されるが、漁業衰退への危機感はそれ以上に強い。ただ、同原発から出る汚染水を浄化処理した後も放射性物質トリチウムが残る処理水が海洋に放出されれば、良くない風評が再び広がりかねない。関係者は処理水の行方に神経をとがらせている。

◇小売業者「売り上げ半減」

福島県沖の2019年の水揚げは約3600トンで、震災前の約14%にとどまる。風評被害を避けるため、漁獲量を抑えてきたからだ。

こうした中、福島県沖で水揚げされる全魚種が先月下旬、国の出荷制限対象から外れた。魚から検出される放射性物質セシウムをめぐり、国の安全基準を超えるケースが震災後初めてゼロになったためだ。県漁連の野崎哲会長は「安全性が証明された」と胸を張り、各漁協に漁獲量拡大の是非について話し合うよう呼び掛けている。

背景にあるのは、長引く漁獲量の抑制で経営が打撃を受けてきた仲買や小売業者の声だ。県内最大の漁港があるいわき市小名浜で20年近く鮮魚店を営む伊藤幸男さんは「売り上げはピーク時の半分まで落ち、生活も苦しい。価格は戻ってきたので水揚げを増やしてほしい」と漏らす。小名浜魚市場の関係者も「流通業者は漁師に比べ東京電力からもらえる賠償金が少なく、苦しい状況だ」と指摘する。

相馬双葉漁業協同組合では震災後に、仲買業者の3分の2が高齢化や津波による被害を理由に廃業。このままでは漁協が崩壊するため、漁獲量を今後5年で震災前の6割まで戻す目標を設定した。立谷寛治組合長は「後継者の育成を見据え、現在週3日程度の操業日を増やしていきたい」と力を込める。

◇首都圏の販売に手応え

漁獲量拡大に向け、最大の課題は震災前に多くの水産物を売り込んでいた首都圏の販路を確保することだ。福島県いわき市は先月上旬、東京・豊洲市場(江東区)の関係者約30人を小名浜港に招いて放射性物質の検査施設を見せ、水揚げされた魚を食べてもらった。

豊洲市場の水産取引を監督・指導する担当課長は「視察した結果、厳しい検査体制で安全だと分かった」と太鼓判を押す。東京都内の飲食店と取引している仲買業者は「まだ他の産地より1~2割安い。数量が増えれば消費者の抵抗感が弱まり、徐々に価格が戻ってくるのではないか」と分析する。

福島県は昨秋から先月まで、首都圏の飲食店で「福島県産」と明記した水産物のメニューを販売してもらう「ふくしま常磐ものフェア」を企画した。参加した飲食店関係者は「想像以上にメニューの売れ行きが良かった。風評被害は全く感じなかった」と語った。県水産課によると、消費者への調査ではフェアについて計72%が「とても満足」「やや満足」と回答したといい、手応えを感じている。

◇海洋放出なら「再起不能」

一方、こうした地元の地道な努力に水を差しかねないのが、トリチウムが残る処理水の処分方法だ。この問題を取り扱う国の小委員会は1月、海洋放出を「現実的な選択肢」と位置付けた。

これに対し、いわき市漁業協同組合の江川章組合長は「海洋放出となれば、漁業者は再起不能のダメージを受ける」と猛反発。県漁連の幹部も「少しでも安心・安全なものを食べたいという消費者心理を考えると、海洋放出は間違いなくブランドイメージを下げる」と懸念している。

福島県沖で取れ、小名浜港に水揚げされたアンコウやヤリイカなど=2月12日、福島県いわき市福島県沖で取れ、小名浜港に水揚げされたアンコウやヤリイカなど=2月12日、福島県いわき市

沼之内港の沼之内市場を視察する東京・豊洲市場の関係者ら=2月5日、福島県いわき市(同市提供)沼之内港の沼之内市場を視察する東京・豊洲市場の関係者ら=2月5日、福島県いわき市(同市提供)

福島県産ヒラメを用いたムニエルをメニューに提供する「ふくしま常磐ものフェア」の参加店舗「リストランテレガ」=2月21日、横浜市福島県産ヒラメを用いたムニエルをメニューに提供する「ふくしま常磐ものフェア」の参加店舗「リストランテレガ」=2月21日、横浜市

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