「下関戦争」再燃か=安倍氏急死で力学一変―衆院・山口

政治・外交

自民党が衆院小選挙区の4議席を独占する「保守王国」山口県。定数是正により、選挙区が一つ減った。元首相・安倍晋三の急死により、県内の政治力学は一変。補欠選挙も絡んで党内の候補者調整は難航する。安倍の牙城だった下関市を含む新3区の行方が最大の注目点だ。(敬称略)

自民党現職は、1区が高村正大(52)、岩国市など東部の2区が安倍の弟で前防衛相の岸信夫(63)、宇部、萩両市を含む3区が外相の林芳正(61)。安倍が四半世紀にわたって議席を維持してきた4区は欠員となり、4月にも現行区割りで補欠選挙が行われる。

◇にらみ合い

安倍が地盤としてきた下関、長門両市は新3区に再編。中でも最大都市、下関を舞台とする安倍家と林家のにらみ合いは「下関戦争」と称された。中選挙区時代は安倍の父で元外相の晋太郎と、林の父、元蔵相の義郎が激しく争ったが、小選挙区制移行の際に義郎が安倍に譲った経緯がある。

首相の座を狙い2021年衆院選で参院からくら替えした林は、高校時代まで下関で過ごした。「下関で首相候補として活動してほしい」。地元支援者は林家の復帰を熱望する。最終的に林は新3区から出馬するとみられているが、陣営は一様に口が重い。露骨に動けば安倍系を刺激しかねないためだ。林系の元下関市議は「波風を立てないよう党本部の判断を待っている」と話す。

林系にとって、2月の下関市議選での勢力拡大が新3区出馬への「布石」とみられている。過去2回より10人ほど多い50人程度が立候補を予定しており、安倍系は「林派が地固めをしている」と警戒する。

自民党関係者は「安倍が生きていれば、新1区が林、新2区が岸、新3区が安倍になるはずだった」と明かす。若手の高村は選挙区を失い、比例代表に転出する案がささやかれた。

だが、安倍の急死により、ベテラン3者で選挙区を分け合う環境は崩れた。高村は今月6日、地元山口市で記者会見し、「しっかりと小選挙区を確保して戦っていきたい」と訴えた。

◇熱量乏しく

「いろいろと悩んだが補選に出ることに決めた」。4区補選への立候補を表明した下関市議の吉田真次(38)が5日、同市役所の一室に集まった市議会の安倍系会派「創生下関」メンバーに決意を語った。吉田は、昨年末に看板を下ろしたばかりの市内の安倍事務所を選挙事務所として使うと報告し、「安倍後継」を前面に押し出す。党県連が実施する公募に応じる意向だ。

補選に向け、安倍系は新3区も見据えて議席を死守しようと後継者を探したが難航。本命とされた下関市長の前田晋太郎にも固辞された。当選しても他の3現職より格下となるため、次も選挙区で公認を得るのは難しいとみられており、ある下関市議は「ワンポイント・リリーフとなるリスクを冒してまで補選に出馬するより、市長のままがいいという判断だろう」と推し量る。

吉田は安倍夫人の昭恵、後援会長の伊藤昭男が中心となって担ぎ出した。ただ、安倍家独断に近い進め方への不満や、市議が国政に転じることへのやっかみもある。先代からの支援者の一人は「吉田が安倍の思いを受け継ぐ人物か見守っている」と様子見で、後援会が機能するかも未知数だ。安倍系は一枚岩とは言い難く、熱量は乏しい。

補選を前に、立憲民主党など野党も市民連合を中心に候補擁立を模索するが、4月の統一地方選を控え、調整は進んでいない。

◇ダブル補選も

岸は昨年12月、岩国市で開かれた後援会の会合で次期衆院選に出馬しない意向を明らかにした。候補者調整で不利にならないよう、3月中旬までに議員辞職し、補選に持ち込んで長男の信千世(31)に地盤を譲ることを検討している。次期衆院選について、安倍系の一人は「吉田は比例に回り、信千世が選挙区に残る流れだろう」との見通しを示す。

安倍事務所の看板を下ろす安倍昭恵さん(左)=2022年12月28日、山口県下関市安倍事務所の看板を下ろす安倍昭恵さん(左)=2022年12月28日、山口県下関市

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