なぜ寒冷地で南国果実?=事故後バナナやマンゴー栽培―挑戦に込めた思い・福島

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東京電力福島第1原発事故により一時、ほぼ全ての農地で営農が休止した福島県浜通り。養分のある土は除染で取り除かれ、地力もない。そんなゼロからの土地で、南国果実の栽培に挑む人がいる。冬の寒さ厳しい福島での挑戦に込める思いを聞いた。

「あえて難しいことに挑戦することで町を元気づけたい。『ここで採れた』という達成感もある」と笑うのは、広野町振興公社の田村弘一さん。町内にビニールハウスを設置し、2018年からバナナの栽培を始めた。現在は、250株を育て年間約3万本を収穫。農薬不使用で、皮まで食べられるという。甘みも強く、町外から買い求めに来る人もいる。

富岡町で建設業を営む高橋雅裕代表が育てるのはパッションフルーツ。「うちは解体がメインの会社。復興が進むにつれて受注件数は減る」と話し、雇用を守るため10年後を見据えて営農部門を立ち上げた。パッションフルーツを選んだのは「食べたときのおいしさに感動したから」。年間2トンを収穫する。感動をたくさんの人に味わってほしいと、22年にはカフェもオープン。観光農園として訪問客にも対応する。リピーターも多く、ふるさと納税の返礼品になっている。

葛尾村は東北大学などと連携し、18年からマンゴーの試験栽培に取り組む。研究に関わる同大大学院農学研究科の加藤一幾准教授は「比較的暖かい浜通りだが、葛尾は積雪もある山間地。ここでできたらどこでもできる」と期待する。自動制御で温度や室温を管理でき、少人数かつ狭い農地でも栽培可能な体制を構築。より高価格で販売できるよう、お歳暮用として需要がある12月ごろに合わせて収穫をずらす実験も行っている。

三者が口をそろえるのは「温度管理の大変さ」。いずれも県内では温暖な地域だが、冬の朝は氷点下となる日も少なくない。「越冬には5度以上を保つ必要がある。ビニールハウスは3重にしている」と高橋代表。広野町振興公社担当者も「通年で収穫するため、10度以上になるよう調整する。燃料費の高騰は厳しい」と漏らす。ハウスの暖房に地中熱を導入し、灯油の使用量削減に努めているという。

果物は寒暖差でおいしくなるとされる。寒さにも、度重なる複合災害の逆境にも負けず、フルーツ王国福島で新しい挑戦が続く。

福島県広野町で収穫されたバナナを見せる田村弘一さん=2月9日、同町福島県広野町で収穫されたバナナを見せる田村弘一さん=2月9日、同町

福島県富岡町の建設会社が栽培しているパッションフルーツ=2022年8月2日、同町(同社提供)福島県富岡町の建設会社が栽培しているパッションフルーツ=2022年8月2日、同町(同社提供)

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