福島の子に寄り添い教壇に=「震災の経験、世界に伝えて」―英出身の外国語指導助手2人・東日本大震災12年
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【ロンドン時事】1月中旬、ロンドンの中心部から電車で約2時間半のイングランド東部の地方都市に、福島県双葉町の伊沢史朗町長(64)らの姿があった。一行が訪ねたのは、キングストン・アポン・ハル市とビバリー町。双葉町の小中学校の外国語指導助手(ALT)として、子供たちに寄り添いながら教壇に立つ英国人男性2人の生まれ故郷だ。
アンソニー・バラードさん(58)とフィリップ・ジェリーマンさん(41)は約20年前、日本政府の外国青年招致事業(JETプログラム)で来日。初任地の千葉県勝浦市で出会い、2008年に双葉町に赴任したバラードさんに誘われ、ジェリーマンさんも09年に移り住んだ。「海と山が両方あって自然豊か」で「誰もが知り合いの小さな町」を2人ともすぐに好きになった。
11年3月11日、そんな町を巨大地震と津波が襲った。「職員室のコーヒーポットが宙に舞ったかと思うと、重くて大きな金属製の机が1.5メートルほど跳ね上がった」とジェリーマンさん。日本に長く住んで地震には慣れたつもりだったが、それまで経験したことのない強い揺れにショックを受けた。
津波の被害を免れた2人は、避難先の中学校で互いの無事を喜んだ。自衛隊が届けた水を校舎に運び込むなど夜通しで働いた後、電気が使えたバラードさんの家で過ごした。ただ、日本語で流れる町の緊急放送の内容が聞き取れず、不安を覚えて戻った中学校はもぬけの殻。顔をマスクで覆った防護服姿の警察官に「原発で問題が起きた。今すぐ避難しなさい」と言われ、深刻な事態に気付いたという。
隣町で働く友人のALTが母国に帰っても、2人は日本を去ろうとは思わなかった。明るくひょうきんで、自分たちを慕ってくれる子供たちが居たからだ。ジェリーマンさんは原発で働く保護者から「しばらく戻れないと思うが、子供たちを見守ってほしい」と頼まれ、「責任感が芽生えた」と振り返る。バラードさんも「第二の故郷」となった双葉町を何とかして支えたかった。2人は町民が避難した埼玉県加須市の学校でも教え続けた。
双葉町は「素晴らしい2人が生まれ育った」(伊沢町長)英国の2市町と友好都市提携を結び、将来は子供たちを派遣したい考えだ。1月の訪英では、それぞれの首長から提携に前向きな回答を得られた。「子供たちの視野を広げたい」「震災の経験を世界に伝えてほしい」。2人の願いはゆっくりとだが、着実に実を結び始めている。
福島県双葉町の小中学校で外国語指導助手(ALT)として働くアンソニー・バラードさん(左)とフィリップ・ジェリーマンさん=1月20日、英ロンドン
英キングストン・アポン・ハル市のクリスティン・ランドール市長(右)に友好都市提携の意向書を手渡す福島県双葉町の伊沢史朗町長=1月17日、同市
英ビバリー町のリンダ・ジョンソン町長(左)に友好都市提携の意向書を手渡す福島県双葉町の伊沢史朗町長=1月17日
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