「安心して戻れる町に」=交流深める唯一の「駐在さん」―全町避難解除の福島県双葉町・東日本大震災12年

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東京電力福島第1原発事故に伴い全町避難となった福島県双葉町で昨年8月、一部で避難指示が解除された。住民の帰還に伴い、県警双葉署の駐在所も再開。梅宮広貴巡査部長(41)は「唯一の駐在さん」として、解除前から町民との交流を深めてきた。「安心して戻れる町にしたい」と意気込む。

JR常磐線双葉駅から約300メートルの国道沿いにある双葉駐在所は震災前、約7000人いた町民の安全のよりどころだった。しかし、原発事故で機能を停止し、専任の駐在員もいなくなった。

梅宮巡査部長が同駐在所に配属されたのは2020年3月。震災直後から約3年間、県沿岸部で不明者捜索などに加わった経験があり、「やり残したことがあるのではと感じていた。また被災地で人のためになる仕事ができるんだと思った」という。

ただ、当時は避難指示が解除されていなかったため、同署浪江分庁舎を拠点に活動。「住むことができず、住民も町にいない。考え込むこともあった」と振り返る。双葉町内のパトロールをするだけでなく、町の仮役場があり、避難してきた町民が多く暮らす同県いわき市にも通い、交流を続けてきた。町民から激励を受けたことが大きな原動力となった。

避難指示解除後は、妻と2人で駐在所に暮らし、パトロールや戸別訪問での防犯指導のほか、今でも月1回はいわき市を訪れて防犯イベントなどに参加する。こうした地道な努力から、町民の信頼も厚い。双葉駅近くの町営住宅に暮らす70代女性は「いつも住民を気に掛けて、頻繁に見回りに来てくれる。一番信頼できる警察官だ」と話す。

現在の町の居住人口は約60人にとどまり、避難している町民には治安面に不安を持つ人もいる。梅宮巡査部長は「事故から10年以上、さまざまな要因から帰還をためらう町民も多い。安心して帰還、移住できる町づくりを進め、地域コミュニティーの再生に全力で取り組んでいく」と決意を示した。

JR常磐線双葉駅前で敬礼する梅宮広貴巡査部長=1日午前、福島県双葉町JR常磐線双葉駅前で敬礼する梅宮広貴巡査部長=1日午前、福島県双葉町

町民の戸別訪問をする梅宮広貴巡査部長=1日午前、福島県双葉町町民の戸別訪問をする梅宮広貴巡査部長=1日午前、福島県双葉町

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