円安、1-2年は続く

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元財務官の内海孚氏が震災後の世界を予見する。復興プロセスに立ちはだかる前例のない3つの問題とは。

厳しい試練に立つ日本経済

今回の大震災と津波は3万人の尊い命を奪った。直接的な被害総額は現時点で推定3000億米ドル(約25兆円)と、名目国内総生産(GDP)の5%に相当する。厳しい試練と言わざるを得ない。短期的にみた場合、日本経済への影響は深刻である。

まず第1に、広範囲に及ぶ被災地では農業、漁業、製造業、商業というすべての経済活動が停止した。

2番目に、被災地は自動車、エレクトロニクスなどの工業部門に部品・材料を供給する生産拠点の集積地であったため、サプライチェーン(供給網)の遮断によって日本の製造業全体が影響を受けている。サプライチェーンの混乱は国内のみならず、アジア、米国、欧州、中南米にも及んでいる。被災地は相対的に所得水準が低く、産業が集積している地域ではないが、世界のサプライチェーンに深く組み込まれている。

3番目に、原子力発電所の問題がある。状況は依然、予断を許さず、さまざまな経路を通じて経済と社会に影を落としている。

放射性物質による汚染は大気、土壌、水を通じて広がっている。汚染は農業(被災地は国内のコメ生産量の20%を産出)、漁業に影響を及ぼし、消費者心理の重しとなっている。

東京電力の電力供給に支障が出たため、管内では頻繁な計画停電が生じ、わが国経済活動の中心である首都圏にも影響を与えた。さらに、マイナスの影響は生産、商業、交通・運輸、レジャーを始め、国民の日常生活全般に広がっており、冷え込んだ消費者心理をさらに悪化させている。

原発事故の処理は年単位に及ぶとみられている。これは、この未曾有の震災が日本のみならず世界全体に残した最も深い傷跡だ。短期的に収束する問題ではない。

貿易収支については、一方で救援・復興資材の輸入増加、他方では輸出能力の制約により悪化する見通しだ。中期的にもこの傾向が続くだろう。さらに日銀の金融政策が、出口戦略に向け欧州中央銀行(ECB)と米連邦準備制度理事会(FRB)に後れを取ったこともあり、円の為替レートは今後1-2年、軟化すると考えられる。

Money、政治指導力そして原発

中期的には、過去の自然災害の例を見ると復興プロセスには大きな経済刺激効果があり、その後2-4年のGDPを押し上げている。今回も同じ経過をたどり、中期的に景気を押し上げるだろう。ただ、今回は過去に例を見ない3つの問題に遭遇している。

第1に資金である。名古屋周辺地域を襲った伊勢湾台風(1959年)と、阪神・淡路大震災(1995年)の場合、被災地の主要産業は工業と商業であり、復興活動は民間が主役であった。しかし今回、被災地の主要産業は農業、漁業であり、民間資金が潤沢ではないため、公的部門が中心となって復興を行う必要がある。

日本では民間部門に資金があるが、政府は巨額の累積債務を抱えている。公的債務の対GDP比率はほぼ200%に達しており、どうすればこれ以上国の借金を増やさずに復興財源を捻出できるかが大きな焦点となる。

2番目に、政治指導力に疑義が生じているということである。

これら2つの問題を克服するカギは、恐らく一つしかない。菅首相と与党民主党が、先の総選挙で掲げたマニフェストの人気取りの予算項目に固執せず、復興財源を手当てする方法を探るために自民党と胸襟を開いて話し合う姿勢を見せることで、状況は違ってくるかもしれない。このようにして一時的にせよ部分的にせよ、大連立が実現すれば、優先順位の低い支出項目を廃止し、「復興連帯税」の導入で合意する道も開ける可能性がある。うまくすれば、わが国の政治は「災い転じて福となす」ことができるだろう。

3番目が、福島の原発事故の問題である。日本は唯一の被爆国であり、国民には原子力に対するアレルギーがある。このため、今後の新たな原発建設用地の確保はほとんど不可能になるだろうが、それに代わるエネルギー源をどうするのか、答えは見つかっていない。しかし、これは日本だけの問題ではない。既に、原発への拒否反応は世界中に広がっている。世界は増大するエネルギー需要に応える一方で、温室効果ガスの削減にも取り組まなければならない。「フクシマ」は世界のエネルギー政策に影を落としている。

危機から学ばなければならないこと

世界中から多くのお見舞いと温かい励まし、さらには救援活動においても多大な支援を頂いた。私たちはこのことを決して忘れないし、助け合いの精神と連帯感が私たちの社会にしっかり根付いていることを再認識できた。日本と世界の連帯感を確かめ合えたこと。それこそ、私たちがこの危機から得た最も重要な財産だと思う。

(2011年4月18日 記す、原文英語)

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