震災を契機とした日中関係の悪化を防げ

政治・外交

中国を専門とする川島真氏は、日中それぞれで起きた大地震後の両国関係の展開を振り返り、東日本大震災を契機とした日中関係の悪化を防ぐべきと訴える。

災害はときに国際関係を転換させる契機にもなるが、それは好転とは限らない。

1923年9月1日に関東大震災が発生したとき、日中関係は相当悪かった。旅順・大連の回収運動に伴う排日運動は7月には収束しつつあったものの、それでも両国間には多くの外交懸案が残されており、中国の人々の対日感情は極めて悪かった。だが、大震災を契機に、中国では党派を超えて日本支援ムードが民間で巻き起こった。日本政府、民間もこうした中国からの支援に感謝の意を示していた。

だが、事態は思わぬ方向に展開した。実は、東京や神奈川で中国人労働者虐殺事件、また、それを調査しようとした留学生が殺害されるという事件が起きたのである。犠牲者は数百人にも上った。これは、従来からあった中国の対日不信感を助長させることになった。

関東大震災から85年後の2008年、四川省の汶川で大地震が起きた。この時には、日本の自衛隊機が被災地に飛ぶか否かなどの点で食い違いはあったが、日本の救援隊の活動は中国メディアを通じて高く評価され、対日感情が好転した。しかし、地震の後に北京オリンピックも開催されたこの年、日本ではいわゆるギョーザ事件やその他の食品の安全問題などで、対中感情が極めて悪化、史上最悪となった。(編集部注:内閣府の世論調査で「日中関係が良好だと思わない」という回答は過去最高の71.9%となった。)地震に伴う中国における対日感情の好転は、日中関係を転換させるには必ずしも至らなかったのである。

日中両国民の感情悪化を憂慮する

2011年3月11日に生じた東日本大震災は日中関係を変える契機になるであろうか。目下のところ、被災前との比較を冷静に行える被災後には至っておらず、いまだ被災中であるので、評価するのは難しい。だが、言論だけを追えば、筆者はこの震災が日中関係、あるいは両国民の相互感情悪化の契機になるのではないかと憂慮している。

地震発生当初、留学生や観光客を離日させた中国ではあったが、中国メディアにも日本人の忍耐力や冷静さを称賛する言論が多々見られ、対日感情好転、あるいは強い同情が寄せられる余地があった。

しかし、それが福島第一原子力発電所の事故、とりわけ放射性物質を含む水を海に投棄した件を契機として、中国メディアの対日批判は大いに高まった。また、中国は今回の地震に際して自国のODA(政府開発援助)の枠で日本への援助を行ったが、水の支援に際しての受け取り手としての日本側の対応が「国際的通例に反する」として批判キャンペーンが張られた。

さらには、軍関係の医療船の派遣をめぐっては、日本側が実質的に拒否したとして批判が一層強まり、中国メディアには、それを目にした日本人、あるいは被災者が絶句するような内容が見られるようになった。

もちろん、中国から救援隊が派遣されたし、義援金もまた多く寄せられている。そうした気持ちには日本側も感謝しなければならない。また、日本側の行為に国際的な道義やルールに反した面があれば、それはきちんと詫び、是正せねばならないだろう。

だが、原発をめぐる問題をさきの戦争における日本の侵略と絡め、情緒的な日本「民族」批判を行う言論、また風評やうわさに基づく日本像を提示しようとする言論が多々中国に見られるとしたら、それはとても残念なことだ。

大震災を日中関係悪化の契機にしないよう考慮すべき

日本は、まさにこれから復興しようとしているところである。もちろん多くの問題を抱えてはいるが、それでも前に進もうとしているところだ。このような時機に、しっかり手を取り合えるかどうかが極めて重要である。昨今、日本では台湾からの支援の大きさが話題になり、日本人に強い印象を与えつつある。

日中関係の最大の課題は信頼醸成だ、と言われて久しい。このような時だからこそ、この震災を信頼醸成の契機に少しでも近づけるような努力をすべきだ。いや、少なくとも、この大震災を関係のさらなる悪化の契機にしないよう、考慮すべきではないだろうか。

(4月30日 記す)

中国 東日本大震災 日中関係