「永世中立」宣言から20年、日本との協力強化目指す—駐日トルクメニスタン大使インタビュー

政治・外交

カスピ海の東に位置する中央アジア諸国の一つトルクメニスタン。豊富な天然ガスの輸出などで安定した経済成長が続いている。駐日大使館開設から2年。グルバンマメット・エリャゾフ大使に、日本とトルクメニスタン関係の現状や今後の協力の方向について聞いた。

グルバンマメット・エリャゾフ Gurbanmammet ELYASOV

1959年10月生まれ。1983年トルクメン国立医科大学(Turkmen State Medical Institute)卒業。2000年保険・医療産業省管轄診断センター局長、2009年トルクメニスタン観光スポーツ委員長、2010年保険・医療産業大臣、2013年10月から駐日大使。家族は妻と2人の息子。

在日大使館設置からまだ2年

トルクメニスタンはかつてソビエト連邦の一部(旧トルクメン共和国)だったが、1991年に独立。1995年には、国連総会で永世中立国として承認された。中国と地中海世界をつないだ歴史的な交易路シルクロード(絹の道)沿いにあり、首都アシガバートは「白い大理石の首都」とも呼ばれる。

国土は日本の1.3倍だが、その70%は広大な「カラクム砂漠」(約35万平方キロ)が占める。人口は約600万人超。豊富な天然ガス・石油などの鉱業に加え、農業(綿花)、牧畜が主要な産業だ。特に天然ガスは世界4位の埋蔵量を誇る。

在日大使館が設立されたのは2013年5月。貿易は日本からの輸出が約63億円。日本との関係はこれからだ。それだけに、インタビューに応じたエリャゾフ大使は対日関係強化への強い思いを語ってくれた。

トルクメニスタンの国旗(左)/トルクメニスタンの国章(右)

国連総会が承認した唯一の「永世中立国」

——トルクメニスタンは旧ソ連からの独立後、「永世中立国家」を宣言し、「積極的中立」を標榜した独自の外交方針を維持されていますね。

エリャゾフ大使 わが国について語る時、これは政治的に大変重要な点。独立後に自立して生きていくためには、「どういう対外政策をとるべきか」という課題が出てきた。当時も今も世界では、多くの地域で紛争やテロが起きている。そこで、トルクメニスタンはどこの地域や国の政策にも交わらず、自分で安定的に進んでいく道を探した。その結果として、1995年に国連で185カ国から承認を得て永世中立国になった。

周辺国などの承認で成立している永世中立国にはスイス、オーストリア、ラオスのような国がある。しかし、トルクメニスタンは国連総会の承認により、世界の185カ国に正式に承認された世界で唯一の国家である。しかも、スイスやオーストリアなどは戦争中、または戦争があった時代に永世中立を希望して成立したが、トルクメニスタンは平和時に永世中立を選択した。このような方法で永世中立になった初めての国だ。

他の国の政治に交わらず、世界の国々と尊敬を保ちながらやってきた。今年は「永世中立宣言」から20年の節目の年なので、平和と中立を希求する立場でいろいろなイベントを行っていく予定だ。

インタビューに応じるエリャゾフ大使(後方の写真はベルディムハメドフ大統領)

経済・ビジネス、教育で日本と相互協力強化

——日本に大使館を開設してまだ2年ですが、日本とどのような関係構築を目指していますか。

大使 両国関係は、グルバングリ・ベルディムハメドフ大統領が来日した2年前から強くなってきている。一つはビジネス・経済関係。もう一つは文化面で、具体的には教育の面で強くなってきた。トルクメニスタンはまだ若い国だが、経済発展のスピードがとても速い。経済状況は安定している。

日本は特に技術やイノベーションの発展がめざましく、わが国から見ると強いパートナーとなり得る国である。これから両国関係をもっと良くし、相互関係を強めるための要素がそろっている。

また、日本の教育は全世界への貢献も大きく、レベルが高い。日本の大学とトルクメニスタンのアカデミーが協力する話が進んでいる。計画では、トルクメニスタン日本大学という技術系の大学を設立しようという話も出ている。さらに、両国の学生が相手国へ留学し、文化交流だけではなく相互に研究できるような仕組みを考えている。今は筑波大学、弘前大学のほか複数の大学との連携が検討されている。

トルクメニスタンの工芸品

石油・天然ガス分野で合弁事業を模索

——ベルディムハメドフ大統領は今年3月、国連防災世界会議に出席するため日本を訪問しました。その時に、日本経団連幹部とも会談されましたが、経済面協力強化についてはどのような見通しですか。

大使 トルクメニスタンでは「メイド・イン・ジャパン」の製品に対する信頼感が強い。このような日本への信頼のベースもあり、両国が取り組む大規模なプロジェクトができないか検討されている。トルクメニスタンは石油・天然ガスの生成、化学製品の生産などに力を入れており、これらの分野で両国の合弁会社をつくり、協力して生産できないかという話だ。

2ケタ成長で、医療・教育費などゼロ負担

——トルクメニスタンでは医療費、教育費のほか、ガス・水道料金が無料だそうですね。

大使 世界経済にはさまざまな変動があるが、トルクメニスタンの国内総生産(GDP)成長率は最近では10%を下回ったことがない。わが国経済は安定的でかつ発展を続けているからこそ、教育費や公共料金のほか、塩、水などを無料にできる。さらに国民が住宅を建てる場合、年1~3%の低利で30年返済の住宅不動産貸付(モーゲージ)も行っている。これは経済状況が安定していることの証明だ。

——日本とトルクメニスタンは、ともに「地震国」。地震対策など防災でも二国間で協力できる余地がありますね。

大使 防災面での協力推進を期待する。日本ほどひんぱんではないが、わが国でも1948年に首都で大きな地震があり、ほとんどの建物が崩壊して約16万人もの犠牲者が出た。こうした経験を踏まえ、国内では自然災害対策、防災をテーマにした会議が多数行われている。ベルディムハメドフ大統領も国際的な防災会議に数多く出席し、自らイニシアチブをとって行った政府の防災対策などについて発信している。

また、両国の若い人たちの相互訪問が活発になるよう、ビザ発給の迅速化、簡便化に努力するなど、環境整備を図っていきたい。

インタビュー:東京・渋谷区のトルクメニスタン大使館で4月21日実施。
聞き手:ニッポンドットコム編集部・原田 和義
バナー写真:白い大理石でできたビルが立ちならぶアシガバートの街並(在日トルクメニスタン大使館提供)

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