「惑星日本」に着任して半年:駐日エジプト大使に聞く

政治・外交

エジプト人が抱く日本のイメージは、きらきら輝く「惑星」。カーメル駐日エジプト大使は、その印象は間違っていなかったと語る。一方、今後の課題として、フェイクニュースに惑わされずに正しい情報を伝達することを指摘した。

アイマン・アリー・カーメル Ayman Aly KAMEL

駐日エジプト大使。1965年生まれ。86年カイロ大学を卒業。米ジョージタウン大学に留学後、エジプト外務省に入り、シドニー総領事、第1次官などを歴任。2017年から現職。

カーメル駐日エジプト大使の横顔

2017年の末に駐日エジプト大使に就任して以来、政治家、外交官、そしてさまざまな分野の方々と面会してきました。日本に着任する以前、私はメキシコ、オマーン、ヨルダン、イタリア、オーストラリアなど世界の国で勤務しました。その後カイロに戻り、第一外務次官を経て日本にやって来たわけです。

東京への赴任を知って、まず何を思いましたか?

エジプト人が日本に対して抱くイメージは、「惑星日本」というニックネームに要約されます。きらきら輝く、良い意味でユニークな国という意味です。私が在日大使に推挙されたことを知った時、まず脳裏に浮かんだのもこの言葉でした。このニックネームには、高い生活水準や先進テクノロジーといった憧れが込められているだけでなく、第二次世界大戦後の荒廃から立ち上がり、先進国の一員となって多くの分野でトップを占めるようになった日本の経験に対する尊敬の念も含まれています。

着任されて半年が過ぎました。日本の輝かしいイメージと現実との間にギャップはありましたか?

生活のあらゆる領域にテクノロジーが浸透している点は、イメージ通りでした。しかし、私が最も驚いたのは、日本人の性格のユニークな構造や集団的秩序を守ろうとする特異な能力です。各個人が統合されたシステムの歯車となり、高いレベルのプロ意識に基づき、自らの役割を正確かつ完璧に果たしています。

エジプト・日本関係の特徴は何でしょうか。両国関係の今後をどのように考えていますか。

両国関係と言えば、1862年と64年に欧州に向かう途上でエジプトに立ち寄った日本の遣欧使節団が挙げられます。64年の訪問時に彼らがスフィンクスの前で撮った写真は有名です。ちなみに、62年に派遣された使節団の一人に福沢諭吉がいます。この写真は、エジプト・日本関係の深さと古さの証です。またエジプトは、中東アフリカ諸国の中で、日本と外交関係を築いた最初の国の一つです。両国は、あらゆる分野で緊密に協力しており、国連であれその他の国際機関であれ、国際レベルで政治的立場の調和が見られます。両国関係は、指導層の相互理解という点でも卓越しています。大きく急激に変化する不安定な国際情勢の中、地域の安全を維持するために、エジプトは国際舞台で日本を支援し、支持しています。

エジプト大使館の応接室に飾られたスフィンクスの前に立つ1864年のサムライ使節団の写真

日本による対エジプト支援や両国間の協力について聞かせてください。

日本は、常にエジプトに支援の手を差し伸べ、多くの開発プロジェクトで自らの経験をエジプトに伝える労を惜しみませんでした。エジプトでは、日本が刻んだ重要な印をたくさん目にします。例えば、日本が再建を支援したカイロ・オペラハウス、スエズ運河に架けられた平和橋(スエズ運河橋)。ちなみに、この橋は、日本とエジプトの友好のシンボルとして「日本-エジプト友好橋」とも呼ばれており、エジプトではこの橋と両国の国旗を描いた切手も発行されました。医療分野では、アル・カスル・アル・アイニ病院、現地で「日本病院」として親しまれ長年にわたって子供たちに先進医療サービスを提供しているアブー・アル・リーシュ日本小児病院(カイロ大学小児病院)が挙げられます。の他にもさまざまな経済分野の開発プロジェクトが実施されています。

エジプトには自動車、エレクトロニクス、建設など多くの分野で活動する日本企業が50社あります。また、日本の多くのメディアが中東の拠点をカイロに置いています。地域におけるエジプトの先駆的役割を日本が評価している証しです。両国の関係は、常により良い方向に進展しています。

両国の関係に欠けている部分は何でしょうか。

欠けているのは、正確かつ直接的に相手に伝えるチャンネルだと思います。地理的な遠さや言語の違いにより、あるいはソーシャルネットワーク上でフェイクニュースが拡散され、さらに無名のメディアソースが転用することにより生じる誤ったイメージから脱しなければなりません。エジプト大使館は、日本のメディアとの接触を通じて誤った情報を訂正し、完全に中立の立場でエジプトとその文明・文化について正しい現実の姿を伝えるよう努めています。これは、現代・現在のエジプトにおける生活がどのようなものかを知ってもらいたいからです。エジプトでも、日本、日本人などについての正確な情報があまりないのが現実です。

駐日エジプト大使館は、日本の皆さん、特に新しい世代との懸け橋となるよう、現代エジプトに関する講座を開いて多くの学生を大使館に招待しています。過去6週間で、6つの学校から200名の学生を招待し、大使館で1日を過ごし、エジプト文化を身近に学んでもらいました。

7月2日に大使館で開催されたナショナルデー・レセプションで、河野太郎外相、山口那津男公明党代表と(モハマド・ハッサン撮影)

東京とカイロの協力に関するビジョンはありますか?

東京とカイロは、友好都市関係を締結しており、あらゆる分野で協力を強化しようとしています。例えば、ごみ廃棄物のリサイクルと処理、ごみを利用したクリーンエネルギーに関する日本の経験から学ぶため、小池百合子東京都知事とお会いしました。スポーツの分野では、2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて柔道エジプト代表選手のトレーニング合宿を日本側の負担で実施することを東京都と合意しました。現在、3人の選手が東京でトレーニングをしています。

エジプトで始まった日本式学校の試みについてどうお考えですか。

私は、日本に来る前に日本のプログラムを導入したエジプトの学校の一つを視察し、日本のプログラムの導入がいかに生徒たちの行動、人との接し方、人格の形成に大きな違いを生み出しているかを目の当たりにしました。この先駆的な試みの最終的な目標は、日本の教育システムが幼少期から重視している「人を育てる」ことです。エジプトは、新しい世代の秩序の乱れに悩んでいます。この試みはエジプト社会全体の発展や進化にも良い影響を与えるでしょう。

具体的には「トッカツ」の導入について合意しました。手洗い、掃除、日直当番といった授業以外の「特別活動」の略です。今年9月にエジプトの200校で導入し、全ての公立学校に拡大していきます。また、今後5年間で2500人のエジプト人教師にトッカツの導入に関する研修を実施することを日本側と合意しました。トッカツがエジプトのこれからの世代に反映され、国益や発展につながることを願っています。

観光については、いかがですか。

治安状況の改善を受けて、日本の外務省がエジプトの一部地域の危険度を引き下げました。この見直し以前は、日本人渡航者に注意を促す軽度の「レベル1」に該当したのは、アレキサンドリア、カイロ、大カイロ、ハルガダ、そしてルクソール、アスワン、アブシンベルなどのナイル川南部地域だけでしたが、見直し以降は、レベル1該当地域が北シナイ、サハラ地域及び西部国境地域を除くエジプト全域に拡大されました。これに基づき、今年10月にはカイロ-東京間を結ぶ直行便が週1便から週2便に増便される予定であり、さらなる増便が期待されるところです。

最後に、日本の皆さんにメッセージをお願いします。

日本の皆さんには、エジプトに関するフェイクニュースに注意し、常に信頼できるソースの情報を参照いただきたいと思います。おそらく、カイロに拠点を置く日本の通信社やメディア、駐エジプト日本国大使館の情報を参照することがフェイクニュースを避ける最善の解決策だと思います。

聞き手・文=モハマド・ハッサン(ニッポンドットコム多言語部、アラビア語版担当)

写真=コデラケイ

(原文アラビア語、インタビューは2018年6月30日に行った)

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