ポップカルチャーは世界をめぐる

鈴木瑛美子:圧倒的な歌唱力で注目される若きディーヴァ

文化

類まれな歌声と斬新な映像が話題となったテレビCMで、一躍「時の人」に登りつめた鈴木瑛美子。「最強ゴスペル女子高生」を卒業し、世界を舞台に活躍するアーティストを目指す。

鈴木 瑛美子 SUZUKI Emiko

歌手。1999年生まれ。4歳で「保育教材CD」の録音に参加。7歳の時に自ら作詞・作曲を手掛けた楽曲で「ヤマハ・なかよしソングフェスティバル」に出場。2015年、「全国ゴスペルコンテスト(ゴスペル甲子園)」ボーカル部門で優勝。16年、テレビ局主催のカラオケ・コンペティションで高得点を連発し、「最強ゴスペル女子高生」と称される。17年「湖池屋のテレビCM」に起用されたことで、注目を集める。18年4月から大学生に。

商品イメージを変えた女子高生の歌声

一人の女子高生の歌声がテレビCMから流れると、その声量と堂々とした姿に世の中が騒然となった。

2017年2月、当時17歳だった鈴木瑛美子(えみこ)が出演した老舗スナック菓子メーカー「湖池屋」のテレビCMが、その衝撃的な歌声と斬新な映像で従来のポテトチップスのイメージを一新させてしまったのだ。菓子業界でヒット商品の目安が年間売り上げ20億円と言われる中、新商品「KOIKEYA PRIDE POTATO」は発売後5カ月でその目標額を達成。同時に、ユーチューブにアップされた動画の視聴回数も、アッと言う間に100万回を超えた。

自社のリブランディングを模索していた同社の社長がテレビ番組で歌う彼女の姿を見て、「新しい商品イメージにぴったりだ」と即断したことから、この伝説的なテレビCMが誕生することとなった。

テレビCMでの力強い歌声で「時の人」となる(写真提供:株式会社 湖池屋)


視聴回数が100万回を超えた「フルバージョン」のミュージックビデオ(映像協力:株式会社 湖池屋)

「CMで歌う彼女を見て、僕の直観が動き始めたんだ」。世界的なデザイナーである山本寛斎は、ファッションイベント「日本元気プロジェクト」で彼女の起用を決めた理由をこう語ってくれた。また、全世界で人気のゲーム「ファイナル・ファンタジー」のイメージを担う歌手を探していた音楽プロデューサーは、彼女の歌声にこだわった結果、録音スケジュールを変更。夏休みを待って彼女との初コラボレーションで完成させた『Final Fantasy XV』のオンライン拡張パック「戦友」の主題歌「Choosing Hope」でも、彼女の歌唱力は絶賛された。

 2017年6月に開催された山本寛斎がプロデュースする「日本元気プロジェクト スーパーエネルギー!! 2017」で独唱を披露(写真提供:株式会社 山本寛斎事務所)

上場企業の社長や世界的なデザイナー、音楽プロデューサーといったビジネスの第一線で活躍する人々の感性を刺激し、「感動と共感」の渦を巻き起こした彼女の快進撃は、その後もとどまることなく続いていく。10月に両国国技館で行われた「世界ボクシング協会(WBA)世界ミドル級タイトルマッチ(村田諒太が世界王座を奪取した試合)」では、リング上で君が代を独唱し注目を集めた。その後、東京五輪のプレイベント「東京2020参画プログラム 文化オリンピアードナイト」にも出演し、多くの聴衆の前でその歌声を披露する栄誉も手にした。

一瞬にして聴衆の心をわしづかみにする歌唱力は群を抜いている。2018年1月6日、ダイバーシティ東京プラザ・フェスティバル広場において、ファミリーアルバムの発売を記念して行われたミニ・コンサートで

いつも家族と共に音楽がある

昨年末に発売されたCD『喜びあふれる』は、世界的にも珍しい親子4人組のファミリーアルバムとなった。そこには、彼らのこれまでの軌跡や思いが込められている。父の杉本智孝(本名鈴木智孝)は、「第18回世界歌謡祭」(1987年)に日本代表として出演した経歴をもつ、ミュージカルの脚本、演出、振り付けなども手掛ける音楽家だ。母の恵子もモデルや女優として活躍する。姉の梨紗子(りさこ)は4歳からモデルとして活動し、歌手としても嘱望される逸材である。

鈴木瑛美子は、自分の「原点」である家族と一緒に歌うことを何よりも大切にしている。いくつかの大手レコード会社からオファーを受ける中、「私のわがままを聞いてもらい、今回のアルバムが実現しました」とうれしそうに話してくれた。

ファミリーアルバムの発売を記念して行われたミニ・コンサートでは、家族4人で6曲を熱唱

母親のお腹にいる頃から彼女の周囲には音楽があふれていて、音楽があることはごく自然なことだった。

「これまで英才教育やボイストレーニングなどをしたことはまったくありません。子供の頃には、ディズニー映画やテレビドラマの主題歌をよく聴いて歌っていましたね。最近では、アメリカンポップスの気になるアーティストたちの曲に夢中になっています」と父の杉本さんは語る。

両親は自主性を尊重し、コンサートやイベントの出演などは全て彼女自身に判断させてきたという。2015年に「全国ゴスペルコンテスト(ゴスペル甲子園)」ボーカル部門で優勝。人気テレビ番組のカラオケ・コンペティションに出演して「最強ゴスペル女子高生」と騒がれ始めても、彼女はそれまでの生活スタイルを変えることはなかった。

2007年(8歳)、レコーディングスタジオで(写真提供:スギモト☆ファミリー)

2010年(11歳)、木更津港まつり「やっさいもっさい踊り大会」に家族と共に出場し準優勝する(写真提供:スギモト☆ファミリー)


全国ゴスペルコンテスト「ゴスペル甲子園2015」で、ビヨンセの『Listen』を歌いあげ栄冠を勝ち取る
(C)2015 YOKOHAMA GOSPEL FESTIVAL / GOSPEL KOSHIEN(映像協力:ガチンコ・フィルム)

人々を音楽で勇気づけたい

「有名になりたいとか、テレビに出たいとか、そういうことを考えたことはありません。ただみんなが喜ぶ顔が見たいから、自分も幸せでいたいから、歌っています」。ニューアルバムの発売を記念したミニコンサートで彼女は聴衆に向かってこう語り掛けている。偽りのない心からのメッセージだろう。

家族と一緒にハーモニーを奏でる瞬間が大好きで、やがて歌うことの虜(とりこ)になっていったという。歌で人々に感動を与え、喜んでもらうことが彼女の原動力になっている。

今年4月、彼女は大学生となった。世界中の人たちともっとコミュニケーションを図りたいとの思いから外国語学系の大学に入学し、現在、英語とスペイン語を学んでいる。そしてあくまでも学業と音楽を両立させながら、自分が愛し、敬い、幸せを感じることができる家族や仲間と共に「世界の人々を音楽で勇気づけられるような人になりたい」という目標に向かって邁進(まいしん)している。

「将来、私が結婚して新しい家族ができても、自分の子供も含めて父母と姉家族と3世代一緒に今までどおり歌い続けていきたいです」と彼女は胸のうちを話してくれた。

最後に世界の人々へのメッセージを聞くと、「Love & Peace、Love & Sing」という言葉が返ってきた。

姉の梨紗子(左)と瑛美子

取材・文=増田 智子(マクスト・コーポレーション)
撮影=山田 愼二

バナー写真:ファミリーアルバム発売記念ミニコンサートのステージからファンに語りかける鈴木瑛美子

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