今日もランチはお弁当

世界中のランチタイムを彩るCool Bento Box!

文化

小さな箱の中に色とりどりの料理を詰め込まれた「弁当」。京都在住のフランス人、トマ・ベルトランさんは「弁当箱」の販売を通して、その独自に発展を遂げた文化を国内外に発信している。

トマ・ベルトラン Thomas BERTRAND

「株式会社BERTRAND」代表。2003年、京都大学に留学。08年に弁当箱専門のネットショップ「Bento&co」を開設。12年には、京都市中京区に実店舗「Bento&co Kyoto」もオープン。近年、海外向けの商品発送を手助けする新事業「Ship&co」も立ち上げた。

日本文化に憧れて京都へ

子供の頃に『ドラゴンボール』や『キャプテン翼』など、1980年代の日本のアニメをよく見ていたというトマ・ベルトランさん。「アニメの中に出てくる日本の風景がフランスと全然違っていて、いつか行ってみたいと思っていました」と語る。その願いがかなったのは、2002年のこと。東京、奈良、京都、広島を旅行し、中でも京都の「都会だけれども大き過ぎないサイズ感」がとても気に入ったそうだ。そして、03年に京都大学に留学。卒業後もワーキングホリデービザを取得し、京都に滞在し続けた。

「その頃は、毎日ブログに京都での生活をフランス語で綴(つづ)っていました。1日約800人がアクセスしてくれていて、日本旅行に来る時に話が聞きたいと声を掛けてくれるフランス人もいました。当時のブログを通しての出会いやネットワークが、今の仕事につながっています」

2012年にオープンした店舗の外観

母親の一言で人生が一転

トマさんはブログを運営する傍らで、ネットショップ事業を立ち上げようと考えていた。そんな時に、フランスに住む母親から「日本のお弁当レシピが雑誌で紹介されていたけれど、とても面白いね」という話題が出て、「これは売れる!」と直感した。それからネットショップを開設するまで、なんと1カ月もかからなかったという。

弁当文化について熱く語るトマさん

「子どもたちにヘルシーで美しい手作りのランチを食べさせたいと思っている母親は、フランスにも多い。しかし、日本のような弁当箱を売っているショップはフランスになかった。だから、インターネットで販売したら、絶対に受けるだろうと考えたのです」

弁当箱ショップはブログの読者から口コミで広がり、瞬く間にファンが増えた。トマさんの直観は、確信へと変わった。

蓋(ふた)にあでやかな着物の生地を貼り付けた「西陣弁当」。上段、下段を合わせると950ミリリットルの大容量の物は、「Bento&co」のオリジナル商品

箱にぎっしりと美しく詰めるのが日本の弁当文化

海外でも、サンドイッチとフルーツを持ってピクニックに行ったり、タッパーに詰めた料理をオフィスで温め直して食べたりする。世界中どこの国でも、携帯食の習慣があり、旅行など外出先に食べ物を持って行くのはごく普通のことだ。トマさんは、日本の弁当の魅力は、一つの箱の中にコンパクトにフルコースが詰まっていることだと言う。

「専用の箱にさまざまな具材をバランスよく敷き詰めて、見た目も美しくするというのは、海外にはない独自の文化です。驚くのは、まるでアートのような表現手段にしてしまうこと。例えばキャラ弁は、キャラクターの絵柄を食材で描き、弁当を作る人と食べる人のコミュニケーション・ツールに昇華させてしまった。キャラ弁を通じて、毎日、母親や父親からメッセージを受け取っている子供たちがたくさんいるのです」

枯山水の美しさをモチーフにした"samon(砂紋)"シリーズ。内側は料理がおいしそうに見えるように木目調となっている

グローバルに広がる弁当文化

トマさんが、「Bento&co」サイトのブログで始めた「国際Bentoコンテスト」は、2017年で9回目を迎える。このコンテストでは「麺弁当」「決められた7種の具材を使った弁当」など毎年テーマを決めて、自作弁当の写真を公募する。京都のホテルのペア宿泊券や居住国から日本への往復航空券など、優勝者には豪華賞品がプレゼントされるため、毎年レベルが上がり続けている。

初年度は、日本人が作る弁当に海外の参加者は到底かなわなかった。それが、17年度は28カ国、172名の応募があり、かわいいトトロのお弁当を麺で作った米国人のSheriさんがオンライン部門のグランプリを受賞した。2位には日本人、3位にフランス人、4位以降も外国人が多く受賞。日本の弁当文化が確実に世界中に広まっているという印象だ。

左から時計回りで、1位のSheriさん(米国)は魚肉の加工品「かまぼこ」の形を利用し、傘に見たてているところがユニーク。2位のYukiさん(日本)は、丸形の弁当箱の形を利用して、具沢山に仕上げている。3位のCamilleさん(フランス)も色鮮やかで、花の形にカットするなど繊細なテクニックが光る。

弁当写真は「#bento」でシェア

「世界中でお弁当を作る人が増えた背景には、FacebookやInstagramなどSNSの登場があります。iPhoneが普及し始めてからは、みんなの写真の撮り方が桁違いにうまくなりました。食べるだけじゃなくて、シェアして見せたいという気持ちが、手の込んだ美しいお弁当を作るモチベーションとなっているのです」

ちなみに、Instagramで「#bento」と検索すれば、2017年7月現在で180万件以上の投稿がヒットするが、その多くが海外からの投稿者によるものだ。「Bento」はもはや世界共通語となりつつあり、その普及においてトマさんの存在が大きいのは言うまでもない。
トマさんの店には、伝統的な「曲げわっぱ」、舞妓(まいこ)や忍者のキャラクターを形どったキュートな「こけし型弁当箱」、サラダを入れられるボール型の弁当箱など、バリエーションに富んだ弁当箱が並ぶ。さらにメーカーと交渉して作り上げた、ここでしか買えない限定モノも多数取り扱っている。和柄の布が蓋にあしらわれた弁当箱は、海外向けとしては小さすぎたので、大きいサイズを別注。すると、その大きなサイズの弁当箱は、日本人にもよく売れているそうだ。

こけしをイメージした二段弁当箱。頭の部分がお椀(わん)になっている。スターウォーズのキャラクターなどさまざまなバージョンがあるが、芸子と忍者は「Bento&co」の別注品

また、強度に優れた天然の「秋田杉」を用いて職人が手作りした「曲げわっぱ」は、本体と蓋の分かれ目をまっすぐにして、通常よりもシンプルなデザインとすることで低価格を実現した。他にも、世界的なパティシエのピエール・エルメとのコラボ商品や、YouTubeで話題を博した「Cooking With Dog」の弁当箱など、オリジナル商品は多彩だ。

「伝統的な弁当箱から、洋風のデザイン、男性女性用と幅広い商品を取り扱うようにしています。弁当派にとって、弁当箱は毎日使う物。おにぎり用やパスタ用など、目的に特化した弁当箱が増えるほど、楽しみの幅が広がると思います」

かばんに入りやすい、スリムな小判型の「曲げわっぱ」。右側がBento&coのオリジナルデザイン

日本の良いものを海外に発信したい

弁当箱ショップを運営している背景には、「日本の良質な文化を海外に発信したい」という強い思いがある。そんなトマさんが今、本腰を入れて取り組んでいる事業が、オンラインショップ経営者や物流会社が日本から商品を海外発送する際に、その手間を簡略化することができる新サービス「Ship&co」だ。

「弁当箱ショップを始めた頃、とても苦労していたのが海外発送の手続きです。伝票をうっかり書き間違えて、最初からやり直したことが何度もあります。とにかく書類の手続きが面倒なんです。『Bento&co』で培った輸出のノウハウを生かし、送り状を簡単に発行できる新しい物流ソリューションを開発しました。プラモデルや文具など日本には弁当箱以外にも面白い文化がたくさんあるので、このシステムを利用して発信してもらえたらうれしいです」

世界中からWEBサイトで簡単に注文できる「Bento&co」の弁当箱。今後、その弁当箱を使って、日本人には思いつかないような新しい発想のお弁当が登場する可能性がある。世界の食文化と融合しながら、どんな弁当文化が花開いていくのだろうか。

「Bento&co」

住所:京都府京都市中京区六角通麩屋町東入八百屋町117
TEL:075-708-2164
営業時間:正午~午後7時
WEBサイト:http://www.bentoandco.jp

取材・文=木藪 愛
撮影=大島 拓也

バナー写真:Bento&coの店内で弁当箱を手にするトマさん

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