おいしいごはん

日本のコメをさらにおいしく食べるには

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日本一多くのコメが集まるといわれる都内の米穀店「スズノブ」。お米を知り尽くした店主、西島豊造さんに、コメの選び方、炊き方から、食べ方まで、ごはんをおいしく食べる秘訣を聞いてみた。


西島 豊造
NISHIJIMA Toyozō

1962年東京都生まれ。北里大学獣医畜産学部畜産土木工学科卒業後、財団法人北海道農業近代化コンサルタント(農業土木コンサルタント)に勤務。88年、家業の米穀店「株式会社スズノブ」を継ぐ。農業の知識、経験を生かして産地と消費者をつなぐパイプ役として地域ブランド米作りと地域活性化を手伝っている。主な著書に『今日はこの米』(NHK出版)『お米の達人が教える ごはん基本帳』(家の光協会)等。

東京都目黒区の米穀店「スズノブ」の店主、西島豊造さんは、日本米穀小売商業組合連合会が認定する「五つ星お米マイスター」だ。東京の店で消費者の素朴な疑問に答える一方、全国各地を飛び回りコメの新ブランド立ち上げを支援する。ごはんのことなら何でも知っている西島さんに、ごはんをもっとおいしく食べる方法を聞いてみた。

自分の好みのコメの味を知る

――おいしいコメの選び方、買い方を教えてください。

「まずは、自分の好みをお米屋さんに伝えることです。固めがいいか、柔らかめが好きか。甘いのがいいのか、さっぱりした方がいいか。喉ごしを重視するかなどです。『コシヒカリ』など銘柄で選ぶのではなく、自分の味覚に合ったものを探すのがいいと思います。好みを意識したことがなければ、北海道産から九州産までいろいろなブランドを順番に買ってみるとか、『コシヒカリ』でも産地を変えてみるとか、試してみてはいかがでしょうか。

お米屋さんに行って『あれください』と銘柄を指定して買うならスーパーで買うのと同じです。味や、産地、安全性など、何でも質問してみてください。多くの種類を扱っているお米屋さんは、それぞれのコメの特徴を知っていて、お米屋さんだけが知っている情報もあります。選び方、研ぎ方、炊き方、食べ方、何でも聞いて、たくさん会話をする中で、自分の好きなコメを見つけてください」

――おすすめのブランド米はありますか。

「今スズノブで扱っているコメは100銘柄以上です。秋の新米の時期が最も多く、だんだん品切れなどで減っていきます。最近は各地域がブランド化に力を入れたり、同じ品種でも産地ごとに差別化を図ったりするなど、銘柄は増える傾向にあります。

日本のコメは、昔からコシヒカリ系とササニシキ系の両方の味があります。どちらかというと、前者は粘り気があって味も強く、夕食やお弁当に合い、洋食メニューにも合わせやすい。後者はさっぱりとしていて喉ごしが良く、朝食向きで和食に合います。

ササニシキ系では『つや姫』『ななつぼし』などがよく話題になりますね。コシヒカリ系では、『ミルキークイーン』『ゆめごこち』『ゆめぴりか』。特に北海道産の『ゆめぴりか』は『コシヒカリ』に匹敵するようなブランドに育つのではないかと期待しています。食味の点ではすでに日本では最高級ブランドとされる魚沼産コシヒカリのレベルに達しています。

同じ品種でも海に近い産地なら海産物に合い、山の産地のコメはきのこや山菜料理に合わせやすいです。究極においしいごはんを食べたいなら、地方に出かけて、地元のコメを地元の水で炊き、地元の食材を使ったおかずを合わせるのが一番です。これは最高の贅沢だと思います。

例えば『土佐天空の郷』は、高知県の山間部の希少米ですが、山の幸なら何でも合うのはもちろん、地元のカツオ料理にもよく合います」

保存は冷蔵庫の野菜室で

――買ったコメを保存する際に注意する点は?

「密閉型の食品保存容器に入れて冷蔵庫の野菜室に入れてください。買った袋のまま輪ゴムで止めて置くのはやめた方がいい。昔の品種は、部屋にそのまま置いておいても大丈夫でしたが、最近の品種は柔らかく傷みやすいものが多いので、上手に保存することが味を維持するために必要です。きちんと保存しないと、時間がたつにつれて水分が飛んで硬くなってしまいます。

冷蔵庫の野菜室はスペースも限られているので、1週間から10日分くらいを目安にこまめに買うことをおすすめします。少量ずつ買うことで、さまざまなブランド米を試すこともできます」

研ぎ方がごはんの味を決める

――研ぐ際のコツを教えてください。

「昔は掌(たなごころ)を使ってゴシゴシ研ぐというイメージがありましたが、今のコメでそれをやると研ぎすぎになります。

(1) コメに水を注いでざっとかき回して10秒くらいで素早く水を捨てます。これをもう一度繰り返します。濁った研ぎ水をコメが吸ってしまうと研ぐ意味がなくなるので、手早くすることが重要です。

(2) (1)で水を捨てたら、ボールをつかんだような形に指を伸ばした状態で手をコメの中に入れて、泡立て器を使う要領でシャカシャカシャカと一定のリズムで20回くらいコメを均一に回します。手でこするのではなく、コメの摩擦で洗います。

(3) (2)で研いだコメを、水で2回すすぎます。新米の場合はここで終わりです。

(4) 古いコメの場合は、すすいだ後のコメを(2)の要領で、今度は半数の10回ほどかき混ぜて、2回すすいでください。ここまでの作業にかける時間は1分半から3分くらい。時間をかけすぎたり、研ぎすぎたりすると、コメの味がなくなります。

米研ぎは炊飯の工程の一つにすぎないと思われがちですが、実は炊き上がりに最も影響する重要な作業です」

仕上げは“ほぐし”

――炊飯器の使い方で注意することはありますか。

「最新型は機能が増えています。浸水時間を調整してくれたり、蒸らしまで終わってピピピとお知らせしてくれたり。自分の使っている道具がどこまで自動でやってくれるのかを確認してください。上手に炊けないときは、浸水時間を間違えたり、水加減を間違えたりしていることが多いです。メーカーによっては無洗米専用カップもあり、通常のコメをこれで計ると水加減を間違える原因になるので要注意です。

忘れられがちなのが、蒸らし終わったごはんの“ほぐし”です。ほぐすことで、ごはんの一粒一粒に水分が均等にいきわたり、旨みを閉じ込めることができます。ほぐし忘れると上の方がパサパサで味が抜け落ちていたり、逆に下の方がトロトロの柔らかいだけになったりします。ほぐしは、おいしいごはんのための大切な仕上げです」

コメを知ると、ごはんがおいしくなる

――新ブランドが増え、日本人とコメの関わり方も変わるのでしょうか。

「日本人は弥生時代からずっとコメを育て、コメを食べてきて、水や空気と同じようにあるのが当たり前でした。日本の気候、日本人の好みに合うように品種改良が重ねられ、何を選んでもおいしいのが当然という時代になりました。このため、消費者は品種も産地も気にせず価格の安さだけで選ぶようになり、生産者側も売れるからという理由で『コシヒカリ』ばかり作るようになり、結果的に産地を荒廃させ後継者不足を招いてしまいました。

しかし、最近ではそういう状況を変えようと、地域ごとに若手の生産者が中心となり、個性的なブランド米を生みだそうという動きが活発化しています。私も、生産者や地方自治体、農業試験場などと一緒に、新しいブランド化を目指す活動「SPR」(Suzunobu Project Rice)を行っています。すでに約60銘柄を発売しています。

将来的には消費者が産地イメージで選ぶのではなく、自分の好みで選ぶようにして、産地の格差を無くし、新しいお米の時代を作っていこうというプロジェクトです。この他にも子どもたちがコメへの理解を深めるような食育にも力を入れています。

海外の人に『日本の米作のコストが理解できない。もっと広いところで大規模で作れば安くなるだろう』と指摘されたことがあります。しかし、日本のおいしいコメには、日本の山と日本の水が必要です。狭い土地の中で、おいしさ、栽培方法、安全管理などの技術を磨き、世界のトップレベルの品質をつくりあげてきました。海外の人に日本のコメについて伝えるのはもちろんですが、日本人自身もコメについてもっとよく知ってもらいたいと考えています。それがさらに日本のコメをおいしくすると思います」

撮影=松﨑 信智

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