nippon x fashion 2012

鼎談 日本ファッションを斬る!

社会 文化

日本のファッションの現状は?そして未来は?とても一口には言えないが、ひとこと言いたい!——ファッションに直接、間接に深く関わり、カルチャー全般に通じる3人が、立場の異なる視点をクロスさせて自由に語り合った。


中島敏子(なかしまとしこ)
マガジンハウス社のカルチャー/ライフスタイル誌「BRUTUS」の編集者、「relax」の副編集長を経て、2011年4月よりリニューアルした「GINZA」の編集長。アート、サブカルチャーを盛り込むファッション情報誌づくりで辣腕を振るう。
http://magazineworld.jp/ginza/

中島敏子 私はこれまでカルチャー色の強い雑誌の仕事が多く、日本の女性ファッションと真正面から向き合ったのは、2011年4月にリニューアルした「GINZA」が初めてです。日本のモード誌はファッション業界内だけで完結している感が否めなかったのですが、「GINZA」では、音楽、アート、映画、デザインなどに興味があり、世の中の最先端の動きについていこうという感度の高い女性に向けて、むしろファッションを世の中の動きの一部として届けたいと思っています。

湯山玲子 確かに、ファッションってかつてはアートの先端を行く人は必ず触れていなければならないものでしたよね。80年代のニューウェーブの時代は、ファッションと音楽、カルチャーがすべて深く関係し合っていたのに、90年代以降ファッションが乖離してしまいました。今、服好きを支える思想みたいなものが希薄になって、単なる身だしなみとしてか、人並みであろうとする考えしかない。もしくはコスプレですね。私が大学で6年間教えていて思うのは、今の若い子たちは個性の表現、差異の表現を全然したがらない。横並びでいようとする風潮がありますね。競争心を持つことを自ら禁じている。隣の子よりも自分のほうが格好よくありたい、という気がないんです。

青野賢一 ないですね。サイレントマジョリティでいようとしている。

安全安心を求めるファッション

ルミネ有楽町店 有楽町マリオン内に2011年10月28日にオープン。20代後半から30代の大人層をターゲットに、ファッション、コスメ、雑貨、食品などの107軒のショップを集積、有楽町の新スポットとして話題を集め、オープン3日間で、売上額が4億5000万円、入店客数は約20万人に上った。

中島 みんないじめが怖くてね。突出しないほうがいい。いじめられないようにいじめられないように生きている。

青野 売る側の立場で言うと、そういう静かな受け手に対して、慎重にならざるを得ない。個性的であることを発信するのが難しい時代ですね。セレクトショップの場合、いろいろなブランドを集めても、どこか似通っていて、全体的に平坦になってしまうんです。そこが今セレクトショップの難しいところだと思います。

中島 そういう面で、10月末にオープンしたルミネ有楽町店は徹底していますよ。ボリュームゾーンの品ぞろえがものすごく分厚い。ルミネ側も、各ショップ側も、今の日本のマジョリティはどこかということをしっかりリサーチをしたのでしょう。消費者の気持ちにダイレクトに応える店になっていて、あれだけ客が集まったのも納得できます。ただ、ああいう大きなファッションビルからは、どんどんメジャーではない部分がはじかれていく。それはそれでつまらないなあと思います。


青野賢一(あおのけんいち)
1968年、東京生まれ。国内外で100店舗を展開するセレクトショップ「BEAMS」のクリエイティブディレクター。「BEAMS RECORDS」のディレクターを務めるほか、DJ活動や雑誌のコラムでも活躍。2010年に著作集『迷宮行き』(天然文庫/BCCKS)を刊行。
http://www.beams.co.jp/

青野 商売を着地点として考えると、どうしてもそうならざるをえない。今は大半の人にとって、産業としてのファッションこそがファッション。そこから外れた作り手や売り手は別の活路を見いだすしかない。アートや音楽にファッションの本質を結びつけるような、個性的で面白いことを懸命にやっている小さいブランドもありますよ。一方で、東京コレクションに出ているブランドは、どちらとも重なりつつ、商売でもないし、アーティスティックでもないというか。そういうふうに、服を作る人たちのグループがちょっとずつ離れて存在している。

中島 ファッションを作る業界というのが、ひとつに結びついていないんですね。東京コレクションは、パリコレのディフュージョン(普及)というシステムとして、どうしても現実と食い違いやすいですね。今の東京と離れている感じはある。

青野 昔みたいに最先端の人がいて、その下にトレンドを追う人がいて、その下にマスがあって、というファッションのヒエラルキーというのがもうないんですよ。それはもう全然存在しない。その理論で店をやろうっていうのは無理なんです。

中島 いまやSNS中心でコミュニケーションをとるわけで、昔のようなインフルエンサーが発信するファッションの伝達の仕方はないんですね。この間「GINZA」で、現場では何が売れているかというショップアンケートをしたら、理由はわからないけれど売れている商品がたくさん出てきた。無名のブランドで10万円もするブーツが1日で完売してしまうとか。雑誌が紹介したわけでもないのに。こういうことをインフルエンサーは知らないんですよね。


湯山玲子(ゆやまれいこ)
編集者を経て作家。著書に『女ひとり寿司』(幻冬舎文庫)、『女装する女』(新潮新書)。近著に『四十路越え! 戦術篇』(ワニブックス)等。日大芸術学部非常勤講師。クラブカルチャーに通じ、自らもイベントをプロデュース。映画、音楽、食、ファッションなど幅広い分野で精力的に発言する。
http://yuyamareiko.typepad.jp/

湯山 なぜ売れるのか、理由を知りたいですね。誰かタレントが着てるという理由で服を選ぶことが多いですよね。だけど、みんながタレントみたいな容姿じゃないわけで、昔なら自分自身がどうかっこよくなるかを考えたと思う。私はちょっと胴が長いから、とか考えて、自分なりの着こなしや知恵が生まれる。でも最近は借りてきた衣装という印象が強いんですよね。自己表現としてのファッションというものが成り立たなくなっている。これはもう、若者が生きる世間からそれが必要なくなったということです。

青野 同一化したいんですね。そういう人たちが集まるから、みんな同じに見えてしまう。

湯山 個性を出して周囲から浮くよりも、安心と協調を選ぶ。ドレスコードは、所属する仲間に従うから、一見、個性的! と思われるけれど、サークル内ではみんなと一緒。

青野 そういうところから意識的に離れるとか、最初から関わりをもたない人ももちろんいるけど、おそらく世の中の大多数が、「なんとなくこんな感じ?」という気持ちで服を着ている。

中島 おしゃれが好きなんじゃなくて、「おしゃれっぽい」のが好きなんですよね。

青野 「ださく思われたくない」なんですよ。「かっこよくなりたい」ではなくて、かっこ悪いと言われたくない。たとえば「2ちゃんねる(※1)」で、「明日、合コンなんだけど何着て行ったらいい?」というスレッドが立ったりする。「あの店なら1万円で全部そろうぞ」とかいろんな情報が書き込まれる。かっこよくしたいというのではなく、家から一歩も出てない俺を何とかして、という話なんです。服を買うモチベーションがファッションの次元ではなくなっているというのがあるかもしれませんね。

湯山 めざすところが低いねえ(笑)。

中島 本来はファッションってとても個人的なもので内面が出たりするようなものですが、今は「集合知」になってしまっている。今のオタクの子たちの話だけでなく、ファッション好きの子たちも「2ちゃんねる」で、「どこどこの何を買いました。皆さんならこれをどう着ますか?」と訊くわけです。で、「私はこれを合わせている」という答えがいろいろ出て、「参考になりました。ありがとうございました」と。しかも男子が多いですね。

湯山 「正しいこと」に関する強迫観念は今、世間でもの凄く強いですよ。

中島 そうやって集合知を求めることによって、「間違っている」もの、「恥ずかしい」ものがはじかれて、無難なものが選ばれるようになっていくんです。

青野 今の若者は集合知をまとっていることになるわけですね。

湯山 これは日本に限らず高度資本主義社会がたどる道でしょうね。安全安心を求める。管理を強化してリスクヘッジをし、なるべく事故がないようにする。どうにもしようがない流れなんです。ファッションもこの流れに乗るしかない。もう刺激に満ちた昔には戻りようがないですね。

逃げる男、ギラギラした女

nippon.com :では、ファッションの未来は?

湯山 肉体を安全保管して、脳は寝ていて、現実の生活はロボットにさせる、みたいなSF小説がよくあるでしょう?映画では『サロゲート』(※2)あの世界に近くなっていくのかな。コスプレもそれに近い感覚。自分の肉体ではなくて、全身すっぽりかぶって「ラムちゃん」になって生きる。ラムちゃんて古いか(笑)。自分の身体で服を着てファッションをリアルに楽しむ、ではなく、物語の中のファンタジーの世界に生きて、イメージで遊ぶ。自分の印象をよくして実人生を持ち上げるためのツールであったファッションというものがいらなくなりつつあるのね。

中島 ファッションはリア充(※3)の世界。旧態依然とした世界だから、インターネットと乖離しているし、ネットのいちばん面白い部分は取り込めていないんですね。

湯山 日本のファッション界の未来に打つ手があるとすれば、ネット社会のコスプレ感を逆にうまくとりこむのはどうかな? 年2回のオタクの祝祭「コミケ」に、コスプレもあるじゃない? あれのファッション版みたいな仕掛けを作って、みんながそこに出かけて行くようにすればいいんですよ。東コレもそうすればいい!

中島 「ハレとケ」は必要だし、みんな好きなはず。昔はなかったハロウィーンがこれだけ日本に根付いているわけですから。

青野 コスプレやハロウィーンに距離を置いている人たちにとっては、生活の中の「ハレとケ」っていう感覚がなくなっているんじゃないかな。

湯山 晴れの舞台でもジャケットなしでOKとか、カジュアル化が進んでいるものね。

青野 そもそも人生で晴れの舞台というのがない人もいるわけです。だから「ハレ」の服がなくなっていっている。

中島 とはいえ、みんな毎日服を選んでいるわけで。「今日は勝負だ!」なんて日に選ぶ服ってあるじゃないですか?

湯山 そう、そのモテたい願望って、ファッションを大きく支えてきたものだと思うんです。だけど、これだけ男が女から逃げ出して2次元のラムちゃん(笑)や『けいおん!』に向かっている時代に、どうしたらいいんでしょうねえ。おしゃれしても男に見向きもされなくなってしまうとしたら...。

nippon.com :そんなに男は逃げているんですか?

湯山・中島 逃げてますよー!

中島 『指輪をはめたい』(※4)という映画があるんですが、まさにそんな話です。草食男子が自分からは告白できないという。今は女の子から告白するのが当たり前の時代。そうでなければ、告白できない男にいかに告白させるかというテクニックを磨く。これまで2次元の女の子しか好きになったことのない男を、どうやって3次元の自分に振り向かせるか、と。

湯山 若者だけでなく、もう全世代の男が草食化、ですよ。50代だって、昔はもっとギラギラしたおじさんがいましたよ。今ギラギラしているのは40代と50代の女ですね。ヒョウ柄着て美魔女(※5)を実行してます。自分とエロスの演出に頑張っている。下着も含め、ビジネスとして成功している数少ない例ではないでしょうか。

いま日本人が求めるもの

nippon.com :日本人に独特の「ファッション観」というのは何かありますか?

湯山 観念的な話になりますが、もともと日本人は空気を読む性質がある。同一言語で生きてきた日本人が「あ、うん」だけで通じる。だからいろいろな記号をもって会話をするんです。それゆえ、ファッションにも繊細なコードが多い。それで、意味を読み取る。男性のヴィンテージジーンズ好きなんかにそれを感じますけどね。


RAGTAG渋谷店
日本主要都市に14店舗を展開するユーズドセレクトショップ。デザイナーズブランドの洋服や服飾雑貨などを買い取り、クリーニングをしたうえで販売。オンラインショップもある。
http://www.ragtag.jp/pc/

青野 考え方として、墨の文化というのもあるんじゃないかな。同じ黒なのに、その階調だけで違いや美しさを表現するという。そういう日本独特の美観。3.11以降なんでもはっきりさせろ、という風潮も出てきたけど、僕にはそれは気持ち悪い。 日本って本来は、豊かなグレーの部分をもっていて、その細かな違いを感じ合う美学があると思う。コスプレの完成度の高さなんて、そうでしょう。

湯山 TPPにしても、政府はグレーな形で進めようとしているけど、3.11以降、もう日本国民はグレーなままだと殺される、という強迫観念があるからね。ファッションにもこの風潮は影響すると思いますよ。この白黒つけようという強迫観念に疲れてしまったら、グレーなファッションが流行るだろうし、逆にどっちかにしてよ、というはっきりしたファッションになるかもしれない。

中島 日本経済戦略の中で叫ばれ続けている「選択と集中」はファッションにも出てくると思います。今、ファッション界でも「断捨離(※6)」ブームなんですよ。例えばRAGTAGなんかが、ものすごく流行っている。自分にとって何が大事で何が大事でないか、ということを皆がはっきりさせたくなっているので、クローゼットを一度完全に整理して、自分が好きなものをちゃんと選んで買う、ということがブームになっているわけです。これも3.11以降の流れですね。

湯山 3.11で拍車がかかったけど、その前から「消費はカッコ悪い」、バブリーなものを嫌う傾向はありましたね。だから今、ネットオークションで買って、売って、買う、という循環ができている。


PASS THE BATON OMOTESANDO
http://www.pass-the-baton.com

中島 シェアがクールである、という価値観が出てきていますね。

青野 ファッションは本来シェアしにくいものだから、今の時流に合いにくくなっているのかもしれないですね。

湯山 だから逆に、PASS THE BATONのコンセプトは面白いですね。骨董品としての服ですよ。いわれのある品を別の人から譲り受ける。ストーリーを買って、それを次の人に「時代の借り物」として受け渡していく。

ミキオサカベのショーに出演した「でんぱ組.inc」。オタクの聖地・秋葉原が生んだ女性アイドル・ユニット。

nippon.com :先ほど少し東京コレクションの話が出ましたけど、新しい動きとして注目すべきデザイナーやブランドはありますか?

中島 最近の東コレを見ると、リアルクローズやストリートを意識してきていると思いますよ。この前の東コレ(2012年春夏)は吉井雄一さん(※7)が尽力されて、最終日におもしろいブランドを集めたイベントで盛り上がりました。そういう東コレが活性化する新しい息吹のようなものは見えてきてはいます。


petite robe noire
http://www.petiterobenoire.com

青野 面白いことやったな、と思わせるのはミキオサカベですね。ファッションとはギリギリのファンタジーですけど、「でんぱ組.inc」でやったりとか。くすぐられる部分がありますね。ファッションにはまだ楽しめる余地があるな、と思わせてくれるアプローチがある。 あとは、服ではないけどpetite robe noire というアクセサリーブランドは、世界観がしっかりしていて、ものづくりの姿勢も真摯です。アクセサリーから着る服がイメージできる。

中島 私が気になるのはファセッタズム。デザイナーの落合さんは、NGAPというストリート系なハードコアなブランドで仕事をしていた。カルチャーやストリートの世界を背景に持っている若いデザイナーが、ファッションという文脈の中にちゃんと入って認められている。それは若い世代のひとつの希望だな、と思いました。

(2011年11月20日収録)

撮影=五十嵐 一晴
企画・進行・構成=矢田 明美子

(※1) ^ 日本最大のインターネット匿名掲示板。あらゆるジャンルについて膨大な書き込みがされ、圧倒的な情報量で既存メディアとは一線を画す。利用人口は1000万人を超えるとされ、ネット社会で大きな影響力を持つ。

(※2) ^ ジョナサン・モストウ監督の米映画(2009年)。原作は同名のコミック。

(※3) ^ リアル(現実)の生活が充実している人物を指す。ネット上などの仮想世界とは対の3次元世界での人付き合いや趣味の楽しむ人に対して使われる。「2ちゃんねる」で生まれた言葉。

(※4) ^ 岩田ユキ監督の日本映画(2011年)。原作は伊藤たかみの同名小説。

(※5) ^ 35歳以上で内面と容姿の美しさを保ち、美への探求を忘れずに活き活きとしている女性を指す。ファッション雑誌「美STORY」による造語。

(※6) ^ モノへの執着を断ち、持ち物を捨てて、身の周りを整理することで、心を解放し、快適に過ごそうとする考え方。2010年の流行語の一つになった。

(※7) ^ 東京ファッションのプロデュース、ブランディングで業界を牽引するキーパーソン。2012年春夏の東京コレクションでは最終日のイベント「VERSUS TOKYO」を成功させた。

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