nippon x fashion 2012

ふつうで等身大が魅力!「読者モデル」という存在

文化

出版不況に揺れる日本の雑誌業界の中で、好調な売り上げを堅持するファッション誌がある。発行部数42万部、ギャルをターゲットにした月刊『Popteen』。その人気を支える、「読者モデル」とは一体どういう存在なのか?

等身大のアイコンとして

「もっと“盛って”いこう!」

都内某所、人気ギャル誌『Popteen』(角川春樹事務所)の表紙撮影現場で度々交わされる掛け声。「盛る」とは数年前から主にギャルの間で使用されている言葉で、もともとはメイクを厚くする、髪型を派手にデコレートするという意味で用いられてきた。現在では単語の持つプラスαの意を発展させ、テンションを上げる、状況を楽しく盛り上げるなど「よりよくすること」を表す。

このような用語に限らず、ファッションやライフスタイル全般において独特の文化を形成しているのがニッポンのギャルたち。そのカリスマとなっているのが、読者モデル(読モ)という日本特有の存在だ。

モデルといえば9頭身の超美形、スキのないパーフェクトボディにバリバリのプロフェッショナルを連想する人も多いと思うが、読モはその像には当てはまらない。実際、『Popteen』の人気読モの身長は、日本人女性の平均値である155~165cmがもっとも多い。本業は学生であったり、ほかの仕事に就いていたりと、アマチュアでモデルの仕事をこなすという形態もユニークだ。

一番重要なのは、読者が親近感を持てる“等身大の存在”であること——。『Popteen』編集部によると、「読モに話を聞けば、読者の今や興味のベクトルが分かります。読モと読者は同じ地平に立ち、雑誌を媒体としてお互いに情報発信し、文化をつくり上げているのです」。

左:西川 瑞希(愛称=みずきてぃ)。1992年11月16日、埼玉県出身
中央:舟山 久美子(愛称=くみっきー)。1991年4月29日、東京都出身
右:椎名 ひかり(愛称=ぴかりん)。1994年11月18日、千葉県出身
彼女たちの楽しい撮影現場の映像はコチラ→
「【動画】人気ギャル雑誌『Popteen』の表紙が出来るまで!」

「くみっきー」の経済効果は億単位

ファッションだけではなくカルチャー面でのアイコンとしても、読モは同世代の女の子たちの視線を集めている。

とにかく元気で明るい3人。オリジナリティ溢れるポーズをどんどん考案していく。

読モは自分の考えをオープンに語り、日々の生活を写真入りのブログでリアルタイムにつづる。特に10代の女の子にとって一番の関心事である恋愛についてもオープンで、恋人とのツーショットで誌面やブログに登場したりする。ご法度どころか「フツーにリアルに」公開することを楽しむことで読者の憧れのカップルとなり、さらなる共感を呼んでいる。

モデルというより「読者の代表」という表現が一番しっくりくる彼女たちだが、その影響力と経済効果は半端ではない。読モのブログで紹介された商品は即座に話題を呼んで品切れ状態となるなど、ブランドと読モのコラボ商品の売り上げは好調だ。カリスマ読モであり、昨今はタレントやファッションアイテム・プロデュースとしても活躍する「くみっきー」こと舟山久美子さんの経済効果は、ひと月あたり億単位とも言われている。

その理由は、身近な憧れとしてイメージしやすい、彼女たちが身につけたアイテムの持つ説得力だろう。たとえば、舟山さんがプロデュースするカラーコンタクトは「これをつければ、くみっきーみたいになれる!」という乗りで、ユーザーへの訴求力を高めている。

「私も最初は星野加奈ちゃん(『Popteen』元専属モデル)に憧れていて。憧れの人みたいになりたいと思って、最初はいろいろ真似とかをしていました」(舟山久美子さん)。

「自分らしさ」をアピール

読者たちが特定の読モに憧れるのは、彼女らが個性的で、自分ならではのこだわりを持っているからだ。読モは誌面公募で起用することが多いが、選出の際に重視しているのは「何よりも自分のこだわりがあり、努力している子」(『Popteen』編集部)だという。

撮影後も仲良しの3人。私服姿は三者三様で、全員とても個性的!

そもそも、個性的であることは、ニッポンのギャルたちに共通する理念のようなもの。彼女たちは自分の着たい服を着たいように堂々と身につけており、そこに特定のルールや気にすべき周りの目などはなく、男性ウケよりも自分らしさを尊重する。「ウチら、ギャルだから!」の一言で、思いっきり自己アピールできるのが、ギャルがギャルらしくある由縁なのである。

取材当日、人気読モの椎名ひかりさんのネイルには、細かく、しかし大胆にチワワのキャラクターが描かれていた。「ぴかりんはネイルで自分アピールがすごいんですよ(笑)。メイクだったり、ファッションだったり……こういうところで自分を表現したい、もっと自分を知ってもらいたいっていう気持ちが、ギャルの子は皆どこかにあると思うんです」と舟山さんは語る。

拡大を続けるギャル文化

完成した『Popteen』のお正月号表紙。個性的な読モたちの活躍で、日本のファッション誌ではトップクラスの売上を誇る! http://www.galspop.jp/

近年はギャル文化の成熟に伴い、ギャル界にも多様化の波が押し寄せている。かつて10代のギャルだった層は、20代になっても少し大人っぽいギャル風ファッション誌やギャルママ雑誌がガッチリと受けとめる。年齢を重ねてギャル文化から脱落するのではなく、個性を大切にしたまま年齢なりにシフトできる受け皿に引き継がれる。「ギャルはいつか卒業するもの」という概念はもはやなくなった。

幅を広げるギャル層の中でも、子育てに励む若いママの市場規模は特に大きい。理想の家庭をつくるための食や日用品など、その興味と消費の矛先は拡大する一方だ。ファッションを超えて膨らむギャルママ市場にも読モ的カリスマが数多く生まれており、経済効果も当然期待されている。

企業の広告戦略などが作り出す理想的でスタイリッシュな世界よりも、等身大で身近な存在の個性を尊重するようになった日本の若い女性たち。彼女たちの圧倒的なパワーが世界を席巻する日も近いと言えるだろう。そして、そのすさまじいギャルパワーを牽引するのは、彼女らの憧れであり分身でもある「読者モデル」という存在なのである。

取材・文=須田 奈津妃

撮影協力=角川春樹事務所『Popteen』編集部

ギャル