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特集 「美味しい」は「楽しい」
世界のトップシェフが引き出す“日本の食”の魅力
[2012.10.26]

2012年9月に日本で開催された第3回「世界料理サミット」。世界屈指の料理人が一堂に会し、創造性豊かな料理を披露した。トップシェフたちが斬新な発想で引き出す日本の食材の新しい魅力に迫る。

世界のトップシェフが東京に集結

世界料理サミット
スペイン・バスク州に料理研究機関「バスク・クリナリー・センター」がある。その国際顧問委員会は世界9カ国(スペイン、イタリア、英国、米国、フランス、ペルー、デンマーク、ブラジル、日本)の料理家9人で構成され「G9」と呼ばれる。2009年には東京で第1回世界料理サミットを開催した。サミット3回目の「TOKYO TASTE 2012」には、米国大統領の料理顧問を務めるダン・バーバー氏らG9メンバー6人に加え、ドイツ「アクア」のスヴェン・エルファーフェルト氏ら特別招待ゲスト5人が出席。9月22日から25日にかけて、仙台での交流会や東京でのシンポジウム、デモンストレーションなどさまざまなイベントが行われた。

料理界にも世界のリーダーたちが集う「サミット」があるのをご存知だろうか。2009年に東京で開催されて話題を呼んだ「世界料理サミットTOKYO TASTE」が2012年、3年ぶりに戻ってきた。

今回そろったのも世界の料理界を代表するそうそうたる顔ぶれ。レストラン界のアカデミー賞と称され、国際的な影響力を持つ英国の「世界のベストレストラン50」の2012年ランキングで上位を占めるレストランのシェフたちが一堂に会した。

このサミットは、世界各国の料理界が交流を深める機会として重要な意味を持つ。今回は特に、東日本大震災の復興を支援する意図が込められた。被災地・仙台で行われた交流会に出席した世界のトップシェフたちにとって、東北の食材を「発見」する機会ともなった。G9メンバーでサミット実行委員長を務めた服部幸應(ゆきお)氏は、「日本食や食材の品質の高さや調理法、食材への考え方は今や世界で欠かすことのできない存在」と語る。今回来日した世界屈指のシェフたちの創作に、日本の食がどのように反映されていたかに注目しよう。

サミット実行委員長の服部幸應氏(服部学園理事長)

「世界一予約が取れないレストラン」として知られたスペイン「エルブジ」(2011年7月閉店)のフェラン・アドリア氏。G9の委員長として「料理人の教育が重要」と強調した。

葛(くず)を使った驚きのインスピレーション(スペイン)

招待シェフのひとりでひときわ脚光を浴びたのがスペイン「ムガリッツ」(2012年世界3位)のアンドニ・ルイス・アドゥリッス氏。デモンストレーションで披露した料理には、カツオ、ウニ、黒豆、葛など、日本人にはなじみの食材が使われていた。葛でパンを作ったり、甘い料理にウニを合わせたり、日本料理では思いもかけないような食材の使い方に驚きの連続だ。「料理には驚きと遊び心が大切」という鬼才・アドゥリッス氏は、日本料理について、「季節の移り変わりを皿の上に表す手法に詩心を刺激される」、「文化や感情が料理に取り入れられている」と称賛した。

塩タラのあご肉

カレイの骨、カイエンペッパー、にんにく添え

煮たヘーゼルナッツに黒豆の煮汁がけ

メロンで作ったブドウ、干しガツオの短冊添え

葛で作ったパン、マイクロトマトのソテー添え

葛とイベリコ豚のゼラチンを乾燥させた「せんべい」のオリーブ揚げ

米で作ったシートで巻いた香草のラビオリ

椿の葉を飾った麻の実と牛乳のデザート

豚の血のマカロン

最初に学んだのは「すっぽん料理」(ブラジル)

スペインからのもうひとりの招待シェフは世界2位「エル・セジェール・ デ・カン・ロカ」のホワン・ロカ・ファンタネ氏。シンポジウムの中でわさび、しょうゆ、マグロ、黒にんにく、ゆずなど日本の食材を使った独自の料理(フォトギャラリー参照)をスライドで紹介した。中でも観客の目を引いたのは「オリーブの盆栽」。本物のオリーブの木に、実がなっているようにオリーブのアンチョビ詰めを飾り付けた前菜で、同店の定番となっている。

ブラジルで最も人気の高い「D.O.M.」(4位)のアレックス・アタラ氏は、日系人が多いサンパウロに生まれたことで幼いころから日本食や日本文化になじんできた。そんな彼が日本で初めて学んだのは「すっぽん料理」。最初に味わったときは数多くの調味料で調理するのだろう、と想像したらしい。ところが実際はとてもシンプルに作られていることに驚いた。そんな彼のブラジルの店では、すっぽんの代わりにアマゾンのカメを使うこともあるという。シェフ自らアマゾンに出向き、自生のハーブや半乾燥地帯の果物などと共に持ち帰ってくるのだとか。

料亭の「書」も食の感性を刺激(イタリア)

イタリアのマッシモ・ボトゥーラ氏(「オステリア・フランチェスカーナ」5位)が心を動かされたのは墨で書かれた「書」。シンポジウム前に訪れた料亭で「書」を見て、「どんな味がするのだろう」と考えたという。その「食感」について「子どもの手?」、「透明な水の中の魚の卵?」と想像をめぐらすあたりは、常人の域を超えたまさにアーティストの感覚。また、ゆず風味のスープを「初秋の心地よい風」、「涙に濡れた菊」と詩的に表現するなど、一流シェフの食や味に対する好奇心や感性の高さには、並々ならぬものがある。

今回シェフたちが披露した料理には、日本の食材が思いもかけぬ形でアレンジされていた。日本人になじみの食材も、彼らの手にかかるとまったく新しい品となる。既成概念にとらわれない彼らの想像力と挑戦がさらに新しい味の世界を作り出している。

2013年の世界料理サミットはニューヨークで、2014年はブラジルで開かれることが決まった。今度は日本人シェフが世界を驚かせる機会になるかもしれない。

撮影=川本 聖哉
フォトギャラリー写真提供=エル・セジェール・ デ・カン・ロカ

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  • [2012.10.26]
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