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特集 伝統美のモダニズム “Cool Traditions”
現代人を癒やすマッサージチェア:誕生から進化、普及の歴史
[2018.08.30]

忙しい現代人の疲れを癒やす「マッサージチェア」。今や家庭はもちろん、ホテルやスポーツジム、医療施設などでもよく目にするようになった。世界で初めてマッサージチェアの量産化に成功し、今も業界のトップを走る「フジ医療器」(本社・大阪市中央区)に進化の歴史や最新機能について話を聞いた。

40万円の高級マッサージチェアが国内外で人気

「あぁ〜、極楽、極楽……」。最新のマッサージチェアに座っていると、体がやさしく包み込まれ、まるで何人ものマッサージ師に全身を施術されている気分だ。

「弊社の『サイバーリラックス』シリーズは、内蔵のセンシングシステムで体形を読み取ることによって、使う人の体にぴったりと合ったマッサージを実現しています。1台を家族で共有しても、老若男女それぞれの身体に適した“もみ”と“ほぐし”を提供できるのです」

そう説明してくれたのは、フジ医療器で「マッサージチェアソムリエ」の称号を持つ中井唯仁(ただひと)さん。同社は、1954(昭和29)年に世界で初めてマッサージチェアの量産化に成功。2017年度の家電量販店での販売シェア第1位になるなど、現在も業界のトップランナーである。

中井さんは、マッサージチェアの操作方法や効果的な使い方を指導するスペシャリスト

中井さんの言う通り、フジ医療器の最高峰マッサージチェア「サイバーリラックス AS-1100」は、筆者の身体を知り尽くしているかのように的確な位置を程よい強さでマッサージしてくれる。実勢価格は40万円と高価だが、日本のみならず海外でも売れ行きは好調だという。

現在、日本国内では約1割の家庭にマッサージチェアが普及している。近年は、スポーツジムや医療施設、空港の待合スペース、ホテルの客室など、さまざまな場所で目にするようになった。普及までの道のりについて聞くと、マーケティング部の水口隆司さんはこう説明してくれた。

「今でこそ、スイッチを押したら身を任せるだけのマッサージチェアですが、昔は機械の動きに合わせて座る場所や身体の位置を調整して使うのが当たり前でした。それでも第一号機の発売当時には、自動化のインパクトが大きく、瞬く間に大評判になったそうです」

真ん中が、フジ医療器「サイバーリラックス AS-1100」

ごみの山から誕生した自動マッサージ機

フジ医療器の創業者・藤本信夫さんは、たわしの販売業をしていたため、日々銭湯に出入りしていた。ある日、脱衣場でマッサージ師から施術を受ける人々の幸せそうな顔を見て、自動化のアイデアを思い付く。

最初は、ごみの山から自転車のチェーンや車のハンドルなどをかき集めることから始めた。凝った部分に当てる「もみ玉」に野球の軟式ボールを使用するなど、試行錯誤を繰り返したという。そして、脇に設置したハンドルを回すことで位置調整して、もみ玉を電動で左右に動かす「フジ自動マッサージ機 第一号機」を作り上げた。

日本の機械技術の歴史において大きな役割を果たした「機械遺産」に登録される第一号機 写真提供:フジ医療器

その後、量産化に成功すると、藤本さんの息子と営業マンがマッサージチェアをリヤカーに載せ、銭湯の煙突をめがけて毎日売り歩いた。入浴料金が大人15円の時代に販売価格は7万円だったが、作るそばから売れたという。銭湯にとって大きな収入源となったからだ。

「銭湯に置いたのはコイン式のマッサージチェアで、10円で3分稼働しました。最初のうちはお試し期間として無料で置かせてもらい、購入に結びつけていったようです」(水口さん)

発明者の藤本信夫さん。創業時は妻と息子、営業マンの4人でスタートした 写真提供:フジ医療器

人が機械に合わせる時代から、機械が人に合わせる時代に

家庭に風呂が普及すると、銭湯の客足が減るのを見越して個人向け商品を開発した。

それまでは「もみ専用機」と、次に開発した「たたき専用機」をそれぞれ販売していたが、1970年に両機能を1台に搭載した「かあさん」を発売。もみ玉が付くアームの取り外しが可能で、普段は応接椅子にもなるデザインは一般家庭に受け入れられていった。

1970年代に発売された家庭向けの「かあさん FM-52」 写真提供:フジ医療器

続いて、もみ玉が背骨に沿ってローリングしながらマッサージする「ローラー式」が開発され、背もたれのリクライニングが可能になるなど進化は続く。そして1995年、空気の給排気によって複数のエアーバッグを膨張・縮小させ、包み込むように全身をほぐす「エアーマッサージチェア」を発売したことが大きな転換点となった。

「それまではもみ玉を使って指圧するような“点”のマッサージでしたが、手のひらで包み込むような“面”のマッサージが可能になりました。膝下を支えるオットマンが付いて、足がマッサージできるようになったのもこの機種からです」(水口さん)

世界初のエアーマッサージ機「エアーマッサージチェア ロイヤルチェア MC-133」 写真提供:フジ医療器

2000年には、もみ玉とエアーバッグを融合させた商品が発売され、その後の主流となる。そして01年に、背筋のラインを感知して、最適なマッサージプログラムを自動で選ぶ「サイバーリラックス」シリーズの原型が発売。“機械が人に合わせてマッサージする”という、革新的なマッサージチェアが誕生したのだった。

疲れないための、予防するマッサージへ

第一号機誕生から60年以上が経過し、現行機種「AS1100」には多彩なマッサージ機能が搭載されている。41タイプ85種類のもみ技などを組み合わせた21種類の「自動コース」が用意され、「全身コース」から「首・肩コース」、「腰コース」まで自分の悩みや好みによって選ぶことができる。

マッサージされる部位は、首筋から肩周り、背中、腰、お尻、腕、ふくらはぎ、そして足裏まで、くまなく全身に対応している。さらに、凝りや疲れがたまっている場所をピンポイントでほぐす、「肩甲骨集中マッサージ」や「座骨集中マッサージ」といった12種類の「部位集中技」も搭載されている。

「AS1100」の足の部分の構造。ローラーの動き、エアーバッグの給排気、ヒーターによるあたためのトリプル効果でほぐす 写真提供:フジ医療器

エアーバッグ機能の進化も著しい。膨張によって体の部位を固定し、椅子の背もたれやオットマンの動きと連動させることでストレッチが可能になった。脚や身体が引っ張られる感覚は、寝起きにする背伸びのように凝り固まった筋肉や関節を伸ばしてくれる。そこにヒーター機能が加わることで、さらに体を温めてほぐしていく。

「運動の前後にストレッチをするように、マッサージをする前後にストレッチとヒーターで体を温めてあげると効果的なのです」と、中井さんは言う。自動コースの始まりと終わりにストレッチを組み入れることで、ほぐれた体にマッサージの効果が浸透し、施術後のもみ返しの症状も抑制されるという。人が機械に合わせていた時代から、機械が人の体に合わせるようになり、マッサージ前後のケアまで施せるようになったのだ。

ストレッチ機能は、31個のエアーバッグと自動リクライニングを駆使することで可能になった 写真提供:フジ医療器

進化を続けることで、世代や性別、国境も超えた広がりをみせているマッサージチェア。水口さんは「人による施術の気持ち良さにはまだまだかなわない」としながらも、未来の展望についてこう語る。

「日々変化する人の体を読み取り、人工知能(AI)を用いて解析することで、これからは“予防のマッサージ”が可能になると考えています。例えば、忙しい月末に肩が凝りやすい傾向の人には、そうなる前に機械が自動的に肩周辺をほぐしておくなど。日本の家庭におけるマッサージチェアの普及率は、まだ10%程度です。今後の超高齢化社会に対応し、健康な社会を実現していくために、われわれはもっと努力して普及率を上げていきたいと考えています」

使い方の説明をしてくれた中井さんと広報の一井さん

フジ医療器 東京ショールーム

取材・文=阿部 愛美
写真=ニッポンドットコム編集部

(バナー写真:フジ医療器の東京ショールームに並ぶマッサージチェア)

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  • [2018.08.30]
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