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特集 伝統美のモダニズム “Cool Traditions”
震災を乗り越え、未来へ駆ける大堀相馬焼:「陶徳」の挑戦
[2018.03.08]

福島県浪江町で300年以上続いてきた焼き物「大堀相馬焼」。2011年の東日本大震災と福島第一原発事故の影響で、一時は廃絶の危機にひんしたが、伝統を次世代に残すための新しい歩みが始まっている。郡山市で再興を目指す窯元「陶徳(すえとく)」の若き当代を中心に、新しい一歩を踏み出した家族の今を紹介する。

新天地の郡山で再始動した陶徳

「被災して故郷を離れ、県外やヨーロッパで暮らしたことで、どれだけ浪江が美しい場所だったのか、相馬焼がどれだけ個性にあふれているかを実感しました」

大堀相馬焼の窯元「陶徳」の陶正徳(すえ・まさのり)さん(43)は語る。彼の故郷は、福島県太平洋沿岸部の浪江町大堀地区。福島第一原発から約10キロメートルの距離にある。現在も「帰還困難区域」に指定されており、戻れるめどは全く立っていない。

江戸時代から続く「陶徳」10代目の陶正徳さん

国の伝統的工芸品に指定される大堀相馬焼は、江戸時代初期に相馬中村藩の領内だった大堀で生まれた。震災前は約25軒の窯元があったが、県内外に離散。折からの後継者不足や経営難にあえいでいた一部の窯元は、廃業を余儀なくされた。しかし、約10軒の窯元が新しい土地での再興を目指している。「陶徳」は、浪江町から50キロメートル離れた郡山市田村町を新天地に選んだ。仮設だった工房の改装が2016年に完了し、晴れて新工房で再出発している。

陶芸教室も行われる新しい工房

工房2階に設けた作品のギャラリー・ショップ

地域の人に愛され、発展してきた大掘相馬焼

「大堀相馬焼ほど、地元で愛されていた焼き物はないかもしれません」と、正徳さんは言う。浪江町周辺の家庭では、食器棚を開けば相馬焼の湯のみや急須、飯わん、酒器がずらりと並んでいたという。さらに引き出物や贈り物、床の間や仏壇の花を生ける花器に利用されることも多かった。

ギャラリーには皿や茶器から花瓶まで、あらゆる相馬焼が並ぶ

地元の人々を引きつける魅力の一つは、「走り駒」と呼ばれる疾走する馬の絵付けだ。浪江町の北隣にある南相馬市では、鎌倉時代から続く「相馬野馬追(そうまのまおい)」という熱気あふれる祭りが毎夏に行われ、もともと人々の馬への愛着は並ならぬものがある。「走り駒」は相馬藩の御神馬(しんめ)をモチーフにした縁起もので、洒脱(しゃだつ)でおおらかな筆づかいが味わい深い。

「走り駒」は全て左向きで描かれ、「右に出るものがいない」の意を持つ

薄緑の地色に葉脈のように広がる模様「青ひび」も、相馬焼独特のものだ。陶土と釉薬(ゆうやく)の収縮率の違いから、焼成後の冷却過程で表面に細かな亀裂が生まれる。「静けさに包まれた窯の中で、『ピーン、ピーン……』という、ひびが入る音が何百とするのです」と正徳さん。職人たちは古くから、その澄み切った音を「相馬焼の産声」と呼んできたそうだ。

自然に生まれたひびに墨を塗り込み、際立たせていく

白地のマットな釉薬にひびを入れることで、モダンな風合いとなったカップやプレート

構造にも特徴がある。やや小さな器を作り、外側となる器に入れ、重ねて焼くことで魔法瓶のような空間を作る「二重焼(ふたえやき)」という手法。熱い湯を入れた時には冷めにくく、持つ手も熱くならないという、冬が厳しい東北地方ならではの発想だ。

二重焼で作った湯のみと断面。ハート形の穴は「波千鳥」と呼ばれ、「共に荒波を乗り越える」という意匠。夫婦円満や目標達成の象徴とされている

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  • [2018.03.08]
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