伝統美のモダニズム “Cool Traditions”

フランスを触発し続ける日本の美

文化

フランスで開催中の「ジャポニスム2018」の一環として、パリの装飾美術館で「ジャポニスムの150年」展が開かれ、注目を集めている。時代にとらわれず、テーマ別に作品を並置した、独創的な展示が見る者のインスピレーションを刺激する。

日仏修好通商条約の調印から160周年、明治維新から150周年を迎えた2018年、フランスで大規模な文化・芸術イベント「ジャポニスム2018」が開催され、日本の古美術から現代アート、演劇や映画などの総合芸術まで、さまざまな作品が紹介されている。

装飾美術館の「ジャポニスムの150年」展エントランス

その中でもこの「ジャポニスムの150年」展(フランス語タイトルは「日本-ジャポニスム 触発されたオブジェ1867-2018」)は、日本美術がフランスにおいていかに受け入れられ、アーティストに影響を与えてきたか、その歴史と関係性を見つめたもの。1905年に創設されて以来、東西のアーティストの作品を積極的に収集してきた装飾美術館ならではの、興味深いキュレーションだ。日本から特別に貸し出された作品もあるが、展示品の90パーセント以上が本美術館の所蔵コレクションだという。

装飾美術館のキュレーター、ベアトリス・ケットさん

作品たちの時空を超えた出会い

本展のキュレーターであり、アジア・コレクションの専門家であるベアトリス・ケットさんはこう語る。

「装飾美術館の特徴は、豊かで幅広いコレクションはもとより、“出会いを演出する発信地”、“東西のアートの交流の場”として長年機能してきたことにあります。今回の展示でも、日本とフランスのアート、また古いものと新しい芸術の出会いを意識し、並列して展示するように心がけました。それらの関連性や対峙(じ)を通して、鑑賞者がインスピレーションを得て、自由に物語をイメージできるようにしたかったのです。結論を与えるというよりは、もっと見る人に開かれた、刺激的な展覧会になるように努めました」

フランスでジャポニスムが流行した時代の衣装や傘と、ジョン・ガリアーノによる現代のコレクション(中央)

町春草(1922-1995)の書(1981年)にフランス人現代作家の甲冑を並べて展示

日本の古い和服や掛け軸、工芸品の中に混じって、NORITAKA TATEHANAによる花魁風のピンクの高下駄や赤いヒールレス・シューズが目を引く

展示方法は、時代順ではなく、ケットさんが「日本の芸術において大事な要素」と考える自然、時間、動き、革新のテーマに、「発見者」というフランスからの視野を加えた5つのパートに分かれている。

「発見者」のコーナーでは、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、熱心なコレクターたちが日本美術に出会い、収集した室内装飾や工芸品を展示。とくに1867年のパリ万博を皮切りに、日本美術の技量と素晴らしさが収集家を通じて広まった様子がうかがえる。

左端のポスターはフランスの画家ルイ・デュムーラン(1860-1924)が日本への旅行でインスピレーションを受けた絵画の展覧会(1889年)のもの。丹頂鶴のモチーフが、前に置かれた皿〈尾形乾山(1663-1743)の作とされる〉に描かれたような日本的な絵柄から「借用」されたのが一目瞭然だ

「自然」をテーマにしたパートでは、四季に分けて、折々の風物を用いた日本美術と、それを応用したフランスのアーティストによる作品を展示。たとえば菖蒲(しょうぶ)や菊、睡蓮、あるいは蝶(ちょう)やツバメなどをモチーフにしたジャポニスムの作品の豊かさが目を引く。植物をモチーフにしたアールデコ風のポスターや、刺繍(しゅう)を施した洋服や傘、繊細な技巧を見せる工芸品など、和洋それぞれのデザインのセンスを比較できて面白い。資生堂、ハナエモリのポスターなどの他、デパートの広告まであるのには驚かされる。

菊をモチーフにした作品を集めた一角

服飾、陶芸、細工、絵画などジャンルを超えて用いられている竹のモチーフ

絶え間ない美の探究が生んだ日仏の交流

5つのパートのうち、「時間」とは、季節や祝祭事、茶道の儀式といった日本の伝統や、日常生活のリズムに、時間が重要な役割を与えているという観点による。ここでは茶道の道具や祝祭行事の衣装など、主に日本美術を紹介。さらに日本の信仰にも触れ、仏像や狛犬の像も展示している。

かつての季節行事や日常生活へのイマジネーションを掻き立て、現在にインスピレーションをもたらす「時間」のスペース

「動き」のパートでは、「移動」の手段である駕籠(かご)や、相撲、演劇、舞踏といった身体の「運動」に関わる衣装や仮面を取り上げる。またそれらの一瞬の躍動感を見事に描いた日本画、力強い筆の勢いを感じさせる書道など、西洋人が魅了された作品と、西洋の作品が並置されている。たとえば歌舞伎のようなメイクで一世を風靡した道化師ジョルジュ・フティットのポスターは、当時のジャポニスムの流行を表していると言えるだろう。

能の面や衣装、黒漆塗りに家紋と唐草模様の蒔絵で豪華に彩られた徳川将軍家の乗物(19世紀)を展示した「動き」のスペース

19世紀末から第一次世界大戦前までの「ベル・エポック」にパリで流行した見世物と相撲の連関をイメージさせるコーナー。右端がフティット(1864-1921)の公演ポスター。当時を代表するフランスの漫画家Semことジョルジュ・グルサ(1863-1934)の作品

展示の最後を締めくくるのは、現代の工芸品や田中一光のグラフィックデザイン、ファッションに注目した「革新」のコーナーだ。ファッションでは日本的な審美眼で西洋の洋服の常識に衝撃を与えたヨウジヤマモト、コム デ ギャルソン、イッセイミヤケらを紹介。とくにイッセイミヤケは、田中一光とのコラボレーションによるプリーツプリーズのNIHON BUYOシリーズと、再生ポリエステルを用いて伝統的な書や水墨画へオマージュを捧げたBOKUGI LINENシリーズを展示し、日本的な美意識と高度な技術の融合を表現する。

イッセイミヤケのBOKUGI LINENシリーズ

NIHON BUYOシリーズ(右)は、カリフォルニア大学での日本舞踊公演(1981年)に向けて田中一光(1930-2002)が手掛けたポスターをモチーフにした

現代工芸品のコーナーでは、日本の陶磁器や漆器など伝統技術の分野における絶え間ない技術開発が、西洋の作家にも応用された例を紹介。日本と縁の深かったシャルロット・ペリアンの作品も展示され、日仏アーティストの交流を浮き彫りにする。グローバル化の中で、技術開発や他分野とのコラボレーションに力を入れることで、日本の伝統技術を誇る老舗が生き残ろうとする例も刺激的だ。

右端がフランスの建築家・デザイナー、シャルロット・ペリアン(1903-1999)作の長椅子(1940年)。日本に2年あまり滞在して柳宗理(1915-2011)らと交流し、民芸運動に参加した時期の作品

洋の東西や時代を超えて集まり、一つの空間に溶け合う作品群

加えて本展では、2017年に東京国立博物館で開催された「フランス人間国宝展(※1)」のキュレーションに触発され、7人のフランス人アーティストに制作を依頼したオリジナルの作品も展示している。

ケットさんは今回の展覧会を通して、日本とフランスの共通性についてこうまとめる。

「日常生活に宿る美意識、芸術、例えばシンプルな物の美しさを評価する姿勢は共通していると思います。おそらくフランス人よりは日本人の方がそうした感覚が鋭く、繊細なのではないでしょうか。技術革新を用いてそれをさらに発展させていく点も、西洋のアーティストにとって魅力的であり、ことさらインスパイアされるゆえんでもあるのです」

日本美術ならではの美意識と、その影響を受けて生まれたジャポニスムの対比は、鑑賞者にとっても、新たな見識をもたらしてくれるはずだ。本展は、パリ装飾美術館(107, rue de Rivoli 75001 Paris)にて2019年3月3日まで開催。

取材・文=佐藤 久理子 写真=澤田 博之

(※1) ^ 日本の人間国宝にならってフランス文化省が1994年に創設したメートル・ダール(Maître d'Art=名匠)。その認定を受けた13人の作家を中心に紹介した世界初の展覧会が、2017年9月12日から2017年11月26日にかけて東京国立博物館で開催された。

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