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リフレッシュ・ゲートボール! 今、高校生が熱い!!

社会

ゲートボールといえば高齢者のスポーツというイメージが強いが、最近は高校生を中心に若者人気がじわじわと高まっている。スポーツ名門校の青森山田高校のゲートボール部の活動を紹介する。

新陳代謝するゲートボール

ゲートボールは、数少ない日本発祥の競技だ。戦後の混乱期の中で遊び道具のない子どもたちのために考案されたが、体力的な負担が少ないという競技特性から高齢者スポーツとして定着した。1990年ごろには600万人いた国内の愛好者は、高齢者の趣味の多様化などが原因で現在は約100万人に減少。一方で、マンモス校の作新学院高校、進学校として知られる開成高校をはじめ、全国各地の学校にゲートボール部や同好会が新設され、18歳以下を対象とした全国ジュニアゲートボール大会は今年22回を迎えるなど、高校生スポーツとしては盛り上がりを見せている。

そんな中でも、全国ジュニア大会で力を伸ばしているのが青森山田高校。今年全国優勝したサッカーをはじめ、野球、男子新体操、バトミントン、柔道などの部活動が全国レベルの活躍をし、テニスの錦織圭選手や、卓球の福原愛選手を輩出した有名スポーツ校である。

現在は、校庭のフットサルコートをサッカー部と共有して練習している

堂々とスティックケースを背負う

「正直、ゲートボール部創設のお話をいただいたときは戸惑いました。やはりお年寄りのスポーツと思っていましたから」と語るのは青森山田高校の花田惇(あつし)校長。しかし、「高齢の愛好者が減少している今こそ、なんとしても高校生にゲートボールの楽しさを広めたい」という青森県ゲートボール協会の久米田勇二会長の熱意が伝わり、学校で競技紹介のデモンストレーションを行うことに。その結果、30人近い生徒が興味を示し、2013年にゲートボール部が誕生。校庭の片隅で高齢の指導者とともにボールを打つ部員たちの姿が見られるようになった。

「最初は高齢者スポーツと懸念していたが、生徒が一生懸命にボールを打っている姿を見て、イメージが変わった」と語る青森山田高校の花田惇校長

ゲートボール部誕生のきっかけをつくった青森県ゲートボール協会の久米田勇二会長(右から2人目)をはじめ、指導者の皆さん。幼少の頃からゲートボールを続けている30代の女性指導者(左)もいる

同校のほかに、青森県内にはゲートボール部のある高校は存在しないため、県予選なしで、その年の夏に全国ジュニア大会に出場するも、強豪・作新学院高校に大敗するなど、惨憺(さんたん)たる結果に終わった。

「これで部員たちは辞めてしまうだろうと思った」と、同部顧問の乘田修一教諭は当時を振り返る。しかし、惨敗したことが逆に部員たちの闘志に火を付けた。練習に身が入るようになり、県外の大会に積極的に参加して力をつけ、2015年、16年の全国ジュニア大会で女子チームが2年連続第3位に入賞。部員たちは、他のスポーツ部と同様に、全校生徒の前で花田校長からその栄誉をたたえられた。

部員たちのゲートボールに対する意識は変わった。高齢者スポーツという恥ずかしさから、最初は用具のスティックを隠すように持っていた部員たちが、いつのまにか堂々とスティックケースを背負って歩くようになっていた。

全国レベルのサッカー部と肩を並べて、熱心に練習に励んでいる

将棋やチェスに匹敵する頭脳戦

現在の部員は2、3年生の男女9人。取材当日は、新1年生の8人も体験入部で練習に参加していた。全員が国公立大学・難関私立大学を目指す特進コースの生徒。特進コースは平日8時間授業で午後6時まであるため、唯一6時間授業で終わる毎週月曜日が練習日。雨や雪で外のコートが使えないときは、校舎内の廊下に人工芝を敷いて打撃練習をする。

ゲートボール部員と、体験入部で練習に参加していた新1年生、指導者たち

校舎内の廊下に人工芝を敷いてゲートを設置して打撃練習をすることも!

先輩部員(右側)が新1年生に打撃の要領を丁寧に指導する

ゲートボールは5人対5人のチーム対抗で、自分の番号のボールを番号順に打ち、味方同士で協力し合いながら、15×20メートルのコート内に設けられた第1〜3ゲートまでを順に通過し、最後にゴールポールに当て、5人の総得点を競うゲーム。

「最初は、ただ単純にボールを打ってゲート通過や他のボールへのタッチ(当てる)に成功することが楽しかったけれど、今はボールをどこに打ったら相手から狙われないかなど作戦を考えるのが面白い。また、1打で逆転できるので、誰でも試合ごとにキープレーヤーになれる点も大きな魅力です」(棟方祐貴さん、3年生)

ゲートボールの魅力は、将棋やチェスに通じる緻密(ちみつ)な戦略や、チームプレーの面白さにあり、やればやるほど奥深いと、部員たちは声を揃える。

「ユーチューブでトップレベルの試合の動画を見ると“わっ、すごい、こんな作戦もあるのか”って、すごく勉強になるし、一度見始めると止まらなくなっちゃう」(清藤有紗さん、3年生、部長)

彼らは自分たちの理想の作戦を実現させるために、家に帰ってからもカーペット上で自主練習をするという。

次の味方打者が打ちやすいところにボールを進めるなど、先の展開を予想しながらゲームを進めていく

ボールをどこに進めたらゲームを有利に進められるか、ときには部員同士で意見を戦わせることも

“ゲートボールの青森山田”を目指して

最近は、さらなるレベルアップのため、トップレベルのチームとの対戦を求めて、月に1度は県外のオープン大会へ遠征する。遠征の“足”は、乘田教諭が運転するハイエースで、遠くは新潟、長野まで10時間以上かけて出かけることも。同教諭は、この遠征試合のために中型免許を取ったそうだ。

「生徒たちががんばっているから仕方なく、私もがんばっています(笑)。日本一素晴らしいマネージャー兼運転手でしょう」と照れ笑いする乘田教諭からは、ゲートボールと部員たちへの愛情が伝わってくる。

遠征試合のために中型免許を取るなど、熱意を持って指導に当たっているゲートボール部顧問の乘田修一教諭

一方で、乘田教諭が部員たちに厳しく指導しているのはゲートボールと勉学の両立。遠征の帰りがどんなに遅くなっても翌日は学校を休まない、テストも合格点よりさらに上の成績を部員たちに求める。今春、部員の中から東大合格者が現れるなど、ゲートボールは勉学にも効果をもたらしているようだ。

部員は全員、国公立大学・難関私立大学を目指す特進コースの生徒。平日は練習日の月曜日を除いて午後6時まで授業がある

「ゲートボールは勉強の合間の良い気分転換にもなる」と声をそろえる生徒たち

そんな彼らが目指すのは、今年7月に埼玉県で開催される第22回全国ジュニア大会の男女クラスでアベック優勝すること。ゲートボールが同世代の仲間に広がってメジャースポーツとなり、“ゲートボールの青森山田”と呼ばれること—そんな願いを込めて、部員たちは練習に励んでいる。高校生にゲートボールの明日を託した地域の高齢者たちの優しいまなざしに見守られながら…。

練習を終えて帰路につく。背中には、母手製という自慢のスティックケースも

取材・文=内山 貴子
撮影=三輪 憲亮

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