鉄道列島ニッポン

東京都心を出発する初のレストラン電車 西武鉄道「52席の至福」

秩父や川越など有名観光地を沿線に抱える西武鉄道。東京都心とこれらの地域を結ぶレストラン電車がデビューした。

建築家の隈研吾氏がデザイン 

西武鉄道は、4月から新たな観光電車「旅するレストラン 52席の至福」を運行している。レストラン仕様の座席を備えた車内で、乗客は車窓の風景とともにコース料理を楽しめる。池袋―西武秩父間などを、土日祝日を中心に年間100日程度走る。

4両編成、定員52名の車両は、池袋線・秩父線(飯能―西武秩父間)用の4000系電車を改造したもの。発着地の秩父をモチーフにした外観と内装のデザインは、建築家の隈研吾氏が担当した。新国立競技場の設計者である隈氏が鉄道車両を手掛けたのは、これが初めてだ。外観は空の色を基調として、秩父地方を流れる荒川の水と同地方の四季を表現。車内の装飾には、沿線の伝統工芸品や地元産の木材を取り入れた。

車体のベース色は、隈氏が指定したというシャンパンゴールド。その上に沿線風景の図柄を施した。この車両は、夏がテーマの2号車。

秋をテーマにした3号車の外観は、秩父連山の紅葉を表現している。

鍾乳洞や洞窟をイメージした2号車の天井は、柿渋で着色した和紙を使用。特殊な処理で不燃化している。のれんは、伝統絹織物の秩父銘仙を用いた。

現代的な建築物の中で木材を多用することで知られる隈氏のデザインらしく、4号車の天井には、飯能市などで産出される西川材の杉板を配した。こちらも不燃化処理している。

地元産を生かした料理と飲み物

運行スケジュールは、ブランチ(約3時間)とディナー(約2時間半)のコースが1日1便ずつ。池袋―西武秩父間の場合、ブランチコースは午前10時50分ごろに池袋を出発し、午後2時ごろ西武秩父に到着。ディナーコースは午後5時40分ごろに西武秩父をたって、午後8時ごろ池袋に着く。

食事は、有名料理人が監修したメニューが提供される。6月までは、老舗料亭「つきぢ田村」三代目主人の田村隆氏に加えて、有名店や海外で修業を重ねた和食・洋食・中華の3人のシェフが手掛ける。その後もおよそ3カ月ごとに監修するシェフが交代していく予定だ。西武沿線で生産される食材を使用するのも大きな特徴で、4~6月はブランチ、ディナーともに、埼玉県産の武州和牛がメニューの中心に据えられた。飲み物も地元産を多くそろえ、7月からは秩父で蒸留された「52席の至福」専用のウイスキーを選べるようになる。

新たなレストラン電車の運転士は、特急電車「レッドアロー号」の担当者から選抜されたベテランぞろい。その1人である須永武さんは、車内で乗客が食事を取ることから、「ブレーキを慎重にかけるなど、普通の列車以上に気を遣う」と話す。

近年、国内の鉄道会社が相次いでレストラン列車の運行を始めているが、西武鉄道によると、「52席の至福」は東京都心を出発する初のケース。料金はブランチが1人1万円、ディナーが1人1万5000円と、決して安くはないが、既に決まっている運行日の多くで満席になるほどの人気ぶりだ。首都圏の大手私鉄で先陣を切った新たな試みは、ひとまず成功といえそうだ。

6月までのディナーメニュー(写真提供=西武鉄道)

6月までのディナーで提供される「里芋リブロース巻黒酢煮込みフカヒレ添え」(写真左)と「鯛ご飯 狭山茶漬け」(右)(写真提供=西武鉄道)

「52席の至福」運転士の須永さんは、普段は特急電車などを担当するほか、若い運転士を指導する立場にもある。

車内クルーの女性たち。全員が列車での勤務は初めてだが、「お客さまに至福の時間を過ごしていただけるよう、頑張りたい」と意気込む。

ディナーコースには、お土産として秩父地方・横瀬町産の紅茶を使用したバターカステラと秩父ちぢみの風呂敷が付く。(写真提供=西武鉄道)

東京・池袋のサンシャイン60(写真左)、秩父の武甲山(右)を背に走行する「52席の至福」(写真提供=西武鉄道)

バナー写真=西武新宿線・武蔵関―東伏見間を走る「52席の至福」。先頭は春をテーマにした1号車。(写真提供=西武鉄道)

撮影=コデラケイ(提供写真を除く)

「西武 旅するレストラン 52席の至福」の概要

運行区間 池袋―西武秩父間、西武新宿―西武秩父間、西武新宿―本川越間
運行日 土日祝日を中心に年間100日程度
料金 ブランチコース1万円、ディナーコース1万5000円(いずれも税込み、アルコール類は別料金)
申し込み 専用ウェブサイトまたは電話(04-2926-2887)で予約

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