日本の果物

ゆず湯:冬至に香りを愉しむ

文化 暮らし

寒い冬至の頃に、ユズを浮かべたゆず湯に体を沈める。美しいユズと、アロマに五感が反応し、身体が緩む。いにしえから伝わる賢人の知恵だ。

冬至に入るゆず湯

一度かいだら忘れられない。ユズの香りはレモンともライムとも異なる独特の香りだ。酢の物や吸い物に入れる一片のユズは、料理の小宇宙を異次元に昇華させ、ユズシャーベットは食後の気分を一新させる。さらに、ユズは料理のみならず、冬の冷え切った私たちの体内細胞さえも生まれ変わらせる。それが、昔から冬至に入るユズの風呂、ゆず湯だ。

今年の冬至は、12月21日。北半球では、一年で一番昼が短く、夏に向かうスタートの日だ。お清めとして、無病息災を祈りつつ、ゆず湯に入る。冬至の頃スーパーマーケットにゆずが並び、温泉や銭湯でユズを浮かべる風習は今でも各地で見られる。ぷかぷか浮かぶユズの香りをかいで、ゆっくり暖まれば湯冷めもせず、布団に入ってからの安眠と翌朝のさわやかな目覚め、そして美肌が約束される。

馬路村は、「ユズで村おこし」のパイオニア

ユズは、日本に数多く存在する香酸柑橘(こうさんかんきつ)の一つ。高知県は、日本のユズ生産の半分を占め、日本一の生産量を誇る。高知空港から車で2時間山奥に入ると、1960年代からユズで村おこしに取り組んでいる馬路(うまじ)村に到着。村の広報、本澤侑季さんは「冬至だけでなく、冬の寒い日によく入りました」と記憶を手繰り寄せる。「香りが良くて、お風呂から出た後も体がぽかぽかしていたように思います。今でも時々ゆず湯に入ります」と答えてくれた。

ユズの実を絞って出る油分は、体に塗るとすべすべになり、種からのオイルは整髪にも使える。馬路村では、ユズを使った化粧水や美容液、クリームやエッセンシャルオイルを開発し、商品化に取り組んでいる。

土佐北川農園でのユズの収穫  写真=草野 清一郎

400年前から入っている

もともとユズは中国が原産。飛鳥(593〜710)・奈良時代(710〜794)にはすでに日本に伝わっていたという。古くから健康を願い、自然からの旬のものを風呂に入れて楽しむ湯文化があり、冬至にゆず湯に入ると風邪を引かないと言われ、江戸時代(1603-1868)にゆず湯が定着した。冬至「とうじ」にゆず湯に入る習慣は、湯で心身を癒す湯治「とうじ」との語呂合わせだとも言われる。5月の端午の節句(5月5日)にショウブの根や葉を入れるしょうぶ湯も無病息災を祈って広まった。

馬路村で収穫、納品されたユズ  写真=草野 清一郎

おうちでゆず湯

「馬路温泉」では、毎年冬至にゆず湯をサービスする。通常は、ユズ玉を洗濯用ネットに入れて浮かべるが、この日は撮影用にそのまま浮かべてくれた。

家庭では、ゆず玉を丸ごと入れるなら多めに、また、輪切りや半分カットするなら2、3個をネットに入れる。皮に切込みを入れたり、果皮を何カ所か削って浮かべたり、果汁だけ入れる方法もある。ただ、けがをした皮膚や、小さな子どもの肌にはピリッと染みることもあるので注意が必要だ。

ゆず釜は、ユズの酢のものを入れたり、冷酒の盃(さかずき)に使う 提供=北川村

高知県の北川村でも冬至にこだわらず、冷酒の盃(さかずき)用に中をくりぬいたユズや、料理に使った残りを風呂に入れていると言うのは村役場に勤める大坪崇さんだ。果皮に軽く傷をつけると香りが広まってアロマのように使えるし、2、3日は同じユズが使えるので、冬には良くゆず湯に入る。「4歳と2歳の娘たちにユズを1個ずつ渡すと、しばらくお風呂で遊びながら温まっています」と微笑む。

ユズは不老長寿の万能薬

馬路温泉の冬至のゆず湯(通常はネットに入れる) 写真=草野 清一郎

ユズの香りは主に皮に含まれる。だから皮ごと使うのがみそだ。皮にあるぶつぶつの油胞(ゆほう)にある「ユズノン」に精油成分リモネンが含まれ、それが湯に溶けて皮膚の毛細血管を刺激し、全身の血行が良くなるという。リラックス効果と美肌効果もある。他にもビタミンCは血流を促進し、身体を温め、免疫力を高める。ペクチンには整腸作用がある上、発がん性物質を排除する。疲労回復や自然治癒力を高めるクエン酸とリンゴ酸も果肉に含まれている。

ユズを使った料理に舌鼓を打ち、使い終わったユズを風呂に入れる。良い香りと美しいユズ玉、湯の流れる音、滑らかな肌触りの湯に、疲れた体が緩んでいく。凍える日に、いにしえの賢人の知恵に感謝しつつ。

(バナー写真:馬路村温泉のゆず湯。通常はユズをネットに入れる。冬至の日のサービス。協力:馬路村温泉 写真=草野 清一郎)

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