武道の神髄

東京五輪の新種目となった空手

文化

2020年の東京五輪に、空手が追加種目として採用された。空手がオリンピック種目になるのは初めてのこと。空手は、世界5大陸、192の国と地域で1億人に愛好されているグローバル・スポーツだ。徒手空拳の格闘技として発達した空手は、深い精神性に支えられた武道でもある。

沖縄発祥の武道

空手は、14世紀に日本の沖縄(当時琉球王国)で誕生した武術だ。尚真王(しょうしんおう)が治めていた時代と薩摩藩の支配下にあった時代、沖縄では禁武政策により住民が武器を持つことを禁じられた(※1)。こうした状況下、沖縄土着の武術と、交易のあった中国から伝わった武術が融合して体系づけられたと言われている。その特徴は、武器を持たない「徒手空拳」(としゅくうけん)の技法だ。

もとは沖縄の言葉で「唐手」(トウディー)と呼ばれていたが、後年、日本語読みの「からて」と改められ、また、色即是空・空即是色の精神になぞらえ「空」という字を使うことが提唱され、現在の「空手」(からて)という名称になった。

空手は、師匠から弟子へと「一子相伝」(いっしそうでん)で継承されていたものの、体育的価値を見いだした指導者の中から学校教育で空手を採用する者が現れ、1900年代には沖縄の学校で形(かた)を指導していたことが分かっている。

ちなみに、基本動作や形は相手と接触する(ぶつかる)ことがなく安全。左右均等な全身運動を行い、特別な道具を必要とせず、場所を選ばないことから現在も学校体育で好評を得ている。

大学生を中心にして普及が進む

1922年、船越義珍という沖縄出身の指導者が東京で開かれた第1回体育展覧会(当時の文部省主催)で空手の形を披露した。これが空手の本土初公開とされており、以降急速な普及発展を見せる。同時期、各流派の指導者たちが次々と本土へ渡り、空手道場を開いた。本土の大学生を中心に普及が進み、24年慶應義塾大学に空手部が作られたのを皮切りに、26年東京帝国大学と次々に空手部が誕生していく。

さらに、ルールを考案して大会を実施しようという機運が高まり、57年には史上初の競技大会である「第1回全日本大学空手道選手権大会」が旧両国国技館で実施された。学生有志が中心となってルールを作り、現在の競技大会の基盤を築いた。

同時期、流派を超えた大同団結の機運が高まり、64年、全日本空手道連盟(JKF)が発足。また、70年には世界規模で空手を統括する国際競技連盟、世界空手連盟(WKF)が日本で設立され、第1回世界空手道選手権大会が日本武道館で実施された。

そして、2016年。20年東京五輪で形と組手(男女)の個人戦計8種目が追加種目として採用されることが正式決定した。

空手の四大流派

空手の流派とは?

空手にはさまざまな流派がある。流派とは、異なる技術体系を受け継ぐグループだ。流派ごとに技は少しずつ異なるものの、突き・蹴りを中心とした徒手空拳の武術であること、そして稽古を通じた精神修養を重要視する点はどの流派にも共通している。

流派を作った指導者の多くが、肉体や技術と共に心を磨く大切さを唱え、格言を残している。例えば、「空手に先手なし」という船越義珍氏の言葉。空手の技は戦いを起こすために使うものではない。身を守る、ひいては己を鍛えることによって戦わずに済むように努めなさい、という意味だ。

また、稽古の開始・終了時には皆が正座し、黙想と礼をする。練習中にも礼(お辞儀)をする場面が実に多い。指導してくれる師範、練習相手になってくれる仲間に尊敬や感謝の気持ちを表しているのだ。護身術として発祥した空手は現在、精神修養の道として確立されている。

JKFに所属する団体のうち、4つの代表的な流派をここで挙げよう。

空手の四大流派

剛柔流(ごうじゅうりゅう) 糸東流(しとうりゅう)
流祖 宮城長順 (みやぎ・ちょうじゅん) 摩文仁賢和 (まぶに・けんわ)
特徴 接近戦を想定した技と独自の呼吸法が特徴。 流祖が複数の指導者から習った数多くの形を後世に伝え、継承している。
松濤館流(しょうとうかんりゅう) 和道流(わどうりゅう)
流祖 船越義珍 (ふなこし・ぎちん) 大塚博紀 (おおつか・ひろのり)
特徴 ダイナミックで直線的な動きが特徴。船越義珍は空手を本土で初公開した人物。 空手に加え、柔術の要素も取り入れられていることが特徴。

また、JKFにはフルコンタクトルールを採用する団体も「友好団体」として加盟している。

(※1) ^ 空手の発祥年や経緯については諸説あり、資料が乏しく解明されていない。尚真王は1527年まで50年間在位。また、琉球王国は薩摩藩に1609年から支配を受けた。

形と組手で競う

空手の競技種目には大きく分けて「形(かた)」と「組手(くみて)」がある。

形とは、空手発祥以来伝わる攻防の技術を、あらかじめ決められた一通りの動きにまとめたもの。形の数はWKFが認定しているリストだけでも91個ある。形の動きは一つ一つが「突き」「蹴り」といった攻撃や防御を、相手を想定して作られている。この点が、ダンスなど他の表演種目と異なる。

組手とは、使える技を「突き」「蹴り」「打ち」に限定して行なう、相手との攻防だ。その最大の特徴は、相手にダメージを与えてはいけないこと。攻撃技はすべてコントロールされなければならず、万が一相手にケガをさせてしまったら、反則が課せられる。


競技ルール


形も組手もトーナメント方式で、選手は一方が赤、他方が青となる。形では、まず赤、次に青の選手が形を演武(発表すること)し、5名の審判の旗判定(多数決)によって勝敗を決する。その評価基準は、技の正確さ(武術の技としての意味を体現できているか)、スピードやパワー、スタンスなどである。組手では、主審1名、副審4名、監査 1名で審判団が構成され、副審が赤と青の旗を持つ。選手は、男子3分、女子2分の競技時間内に技を仕掛け合い、有効な技があれば副審が旗で表示する。2名以上の旗表示があれば、技の難易度によってポイントが与えられ、先に8ポイント差をつけるか、時間内により多くのポイントを獲得した選手が勝つ。同点の場合は、主審と副審あわせて5名の多数決で勝敗が決まる。

五大陸の王者たち

WKFが主催する大会としては、世界選手権の他にジュニア世代の世界大会、ランキング制度を設けた年間10大会ほどのプレミアリーグがある。また、空手はワールドゲームズ、スポーツアコード・コンバットゲームズ、大陸別ゲームズ、世界大学選手権(WUC)にも参加している。

さて、国際大会でメダルを獲得する国々は各地に散らばっている。さまざまな国が競技力向上に力を入れた結果、強豪国がひしめきあっている状況だ。

アジアでは日本が歴代王者を輩出してきたが、組手においては男子団体組手世界チャンピオンであるイランが最大のライバルだ。形では08年にベトナムが世界チャンピオンを輩出した。台湾、香港、サウジアラビアなども急激に力をつけてきている。

特に組手を得意としているイランの選手(右)

08年に世界チャンピオンとなったベトナムのグェン選手

欧州は最もレベルの高い大陸で、フランス、スペイン、ドイツ、イタリア、そしてトルコやアゼルバイジャンが強い。

団体形に出場するスペインの選手たち

上段蹴りを放つトルコの選手(右)

アフリカ大陸の王者はエジプトだ。14年世界大会でのメダル獲得数が2位、空手人気国の一つで、男女共に強い。アルジェリアやモロッコも選手育成に力を入れ始め、有望な国々だ。

エジプトの組手選手(右)。エジプトは近年、形でも力をつけている

パンアメリカ大陸では、ブラジルが組手の世界チャンピオンを輩出。形ではベネズエラやペルーがリードしている。米国では2000年代にハワイの選手が強かったが、今後、他の州からも選手が育ちそうだ。

ブラジルの世界チャンピオン。ブロス選手。

オセアニアは加盟国が少ないながら、オーストラリアから10年に世界チャンピオンが誕生している。ニュージーランドがそれに次ぐ強豪国だ。

美容、健康、そしてメンタルヘルスにも

2020年東京五輪での空手は、8種目、選手80名に限定して行なわれる。つまり世界のエリートが選抜されて最高の技を競い合う。

一方、空手は生涯を通して何歳になっても続けられるスポーツだ。健康のため、美容のため、精神修養のため、その他いろいろなかたちで人生を豊かにしてくれる。武道であり、スポーツであり、日本文化である空手が持つ多彩な面が、東京五輪を契機にさらに世界中に伝わっていくことを期待したい。

イラスト=井塚 剛(バナー画像) 写真提供=空手道マガジンJKFan

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