特集 心躍る文房具の世界
書き心地の良さへのこだわりを貫く「ツバメノート」の古さと新しさ

三田村 蕗子【Profile】

[2017.09.27] 他の言語で読む : ENGLISH | ESPAÑOL | العربية |

日本に唯一残る機械を使って引く罫(けい)線、糸とじ、上質な紙にこだわり続けて70年。創業以来の製法を守る一方、個性的な新商品も創り出しているツバメノート(台東区浅草橋)を取材した。

紙づくりからこだわったノート

罫引き、糸とじ、上質な紙。三つの条件を兼ね備え、とことん書き心地の良さにこだわったロングセラーのノートといえばこれを置いては他にない。1947年に誕生したツバメノートだ。

クラシックな飾り模様が入ったグレーの表紙に、金色に輝く品番が箔(はく)押しされた黒い背がよく映える。「NOTE BOOK」というレトロな文字も印象的だ。表紙を開くと、罫線が引かれた、優しいアイボリー色のページが顔を出す。

「実際に紙に触ってみてくださいよ。油性インクを使うオフセット印刷だとインクが紙に染み込まないから罫線が少し盛り上がってしまいますが、うちのは水性インクで紙に直接罫線を引いているから、指に引っかからない。万年筆や水性ペンのインクも紙の中にスーっと入っていくので滑らかに書けます。インクが上にたまらないので吸い取り紙の必要もない。これがフールス紙の良さです」

まるでかわいくてたまらないわが子のことを語るかのように、社長の渡邉精二さんの言葉は続く。

徹底的に書き心地の良さにこだわったツバメノート。A5判、B5判がある「大学ノート」の価格はページ数により異なり、160円~500円程度

フールス紙は元々英国から入ってきた高品質の筆記用紙の一種。もっと安くて良いものを目指して改良を加えた結果、ツバメノートの中性フールス紙が生まれたと語る渡邉精二さん

「終戦直後、日本には粗悪品のノートがあふれていましてね。これでは良くない、日本の文化をだめにしてしまうと、初代(渡邉初三郎)が十条製紙とタイアップして作り上げたのがこのツバメ中性紙フールスです。英国から入ってくるフールス紙が高かったので、もっと安くて良いものを作ろうと研究して実現しました。価格的には他のノートより高かったけれど、書きやすいと評判になり、すぐに人口に膾炙(かいしゃ)していったんですよ」

消費者の嗜好(しこう)の変化を受けて、本文用紙の色は誕生当時より白みが若干強くなっているものの、蛍光染料は使っていない。蛍光染料を使えば見た目は白く明るくなるが、使う人の目には優しくないと考えるからだ。

日本で唯一の罫引き機

コストの安い糊(のり)付け製本に背を向け、ミシンでの糸とじにこだわるのも使い勝手を優先しているため。糊付けしたノートは何度も開いたり閉じたりしているうちにバラバラになってしまいがちだが、表紙と本文用紙の束をセットして工業用ミシンで丹念に綴(と)じたツバメノートなら用紙がばらける心配はない。一度ツバメノートを使うとずっと愛用したくなるのは、書き心地のよさと使いやすさに徹底的にこだわる作り手の思いが形になっているからだ。

罫引きの現場を見学させてもらった。向かった先は、ツバメノートと同じく台東区にある井口罫引所。日本ではもうここだけとなった罫引き機が稼働している “レア” な工場である。

稼働年数50年以上。見るからに年季が入ったアナログな罫引き機に1枚1枚紙が送り込まれ、ローラーを通過して薄紫色の罫線が規則正しく引かれていく様子は圧巻だ。井口博司さんは淡々と紙をセットし、インクや罫線を引くペン先の状態などをこまめにチェック。罫線が引かれた紙はまとめて別の場所に移す。方眼紙の場合には、紙が乾燥後に90度角度を変えて2回目の罫線が引かれる。一連の作業を手際よくリズミカルにこなしていく井口さんの技術があればこそのツバメノート。ベテランの職人技術者とがっちりスクラムを組むことで、上質で書きやすいノートが生まれる。

稼働年数50年以上の機械を調整しながら黙々と作業する井口博司さん

次から次に送り出される紙に罫線が一斉に引かれていく

罫線を引き終えて積み上げられた紙

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  • [2017.09.27]

フリーライター。福岡生まれ。津田塾大学学芸学部卒業。流通を皮切りにビジネスの幅広いテーマを手掛け、現在、ビジネス誌や経済誌、流通専門誌で活動中。2014年11月下旬から経済成長著しいバンコクに拠点を移し、東南アジアの取材活動にも力を入れている。移住の経緯やバンコク情報は、ホームページで発信中。著書に『夢と欲望のコスメ戦争』(新潮選書、2005年)、『「ポッキー」はなぜフランス人に愛されるのか? 』(日本実業出版社, 2015年)など。

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