建築家がつくる家

住宅探訪(1)季節が通り抜ける家

文化 暮らし

建築家が手掛けた住宅建築シリーズの第1弾。夫婦である二人の建築家が自分たちの家を建てる。その空間には、デザインのこだわりや快適さへの配慮だけでなく、より自由に展開されたさまざまな実験の成果がある。

カタ邸(設計:加茂紀和子+マニュエル・タルディッツ、2007年)、西側の外観

道路から見た南側外観

ダイニングルームから見たキッチン

居間

玄関から1階、2階へと続く階段

本棚で仕切られた2階寝室

ダイニングルームから居間を見上げる

居間からダイニングルームを見下ろす

東京・世田谷にあるこの家は、建築家の加茂紀和子とマニュエル・タルディッツが自分たちの住居として建てたものである。コンクリートを用いて自然とどのような関係を生み出せるか、という試みになっている。敷地に対して、やや中心をずらして建物を配置したことで、周囲に複数の「坪庭」をもつ形状となった。

それぞれの庭には異なる種類の草木を植えて特徴を出している。部屋の窓を額縁に見立てて、作品のように庭を眺めることができる。庭の外に遠く広がる眺めが「借景」に使われているのは、いわば伝統的な日本庭園と同じ手法だ。風景、光、鳥や虫の声、草花の匂いなど、すべてを取り込みながら、家が周りの環境に溶け込んでいる。春から秋にかけて、家全体が大きく開け放たれ、折々に咲く花々の香りでたえず満たされる。

壁は打ちっぱなしのコンクリートで、外装も簡素。断熱材を使用していないのだが、エアコンは設置されておらず、最小限の暖房器具だけで冬を過ごす。ここでは、季節が住居を通り抜けていく。住人はパッシブな方法だけで天候に対処する。すなわち、空気の自然な循環や、木々の作り出す陰を利用し、着る服によって調節するのだ。

半階のフロアが連続するように設計されており、下の共有スペースから上のプライベートな空間までが、自然な流れでつながっている。各寝室は本棚だけで仕切られていて、両親には何の問題もないのだが、年頃になった2人の子どもにはやや受け入れがたくなってきたのかもしれない。

コンクリートでできた繭(まゆ)、とでも言えそうなこの家に住み始めて、マニュエルはすっかり出不精になってしまったという。ダイニング・テーブルの席に腰かけて、時間とともに変化する木漏れ日を楽しみながら仕事をして1日を過ごすのがお気に入りだ。

動画:カタ邸


© Jérémie Souteyrat

撮影=ジェレミ・ステラ(2013年)© Jérémie Souteyrat
文=ヴェロニク・ウルス/ファビアン・モデュイ(原文フランス語)
バナー写真=カタ邸(設計:加茂紀和子+マニュエル・タルディッツ、2007年)のキッチン

これらの写真は、「家の列島」と題した展覧会の形でヨーロッパ各地と日本(2017年4月、東京・パナソニック汐留ミュージアム)を巡回し、フランスと日本で刊行された図録に所収されている(レザール・ノワール社、鹿島出版会)。

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