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特集 建築家がつくる家
住宅探訪(6) リビングの向こうに田園が広がる家

ジェレミ・ステラ (写真)【Profile】/マニュエル・タルディッツ (文)【Profile】

[2018.06.05]

都会のオフィスで一日の仕事を終えて帰宅し、玄関を開けたらドアの向こうに田園風景が広がっている—。何もSFの世界の話ではない。町の外れという立地を生かした建築家の発想力で、現実の日常的な体験になるのだ。

切通しの家(設計:菅原大輔、2011年)、南側の玄関アプローチ

玄関を通ってリビングへ。奥に見えるのは子ども部屋

子ども部屋

リビングダイニングから眺める北側の田園

ウッドデッキのテラスから見たリビングダイニング

テラスから北東の眺め

千葉県の房総半島、大網白里市は都心への通勤圏として宅地開発が進む。親子4人が暮らす家は、その新興住宅街と昔ながらの田園地帯のちょうど境に位置する。家を建てるにあたって、都内に勤める父親が建築家に出した第一の要望は、周りの田園風景を見ながら、家族みんなで音楽を楽しめるような共有スペースがほしいということだった。

建築家が考案したのは動物の巣穴をイメージした住居。住宅街側の通りに面した外観は、幾何学的な形状の無機質な箱といった印象で、内部はまったく見えず、住人のプライバシーはしっかりと守られている。しかし中に入れば、光と風をふんだんに取り込んだ、より生命感にあふれる空間が広がり、自然がすぐそこまで迫っている。

リビングダイニングの大きな4枚のガラス戸はスライド式で、すべて引き込めるようになっている。戸をしまえば、リビングからウッドデッキのテラスまでが一続きになって、完全に開放された空間となる。目の前に広がる田園風景を眺めながら、大人たちはリラックスした時間を過ごし、子どもたちはのびのびと遊ぶ。毎日の食事の時間が、ピクニックになる。

この開閉自在の仕組みのおかげで、季節の移り変わりにも適応でき、冷暖房の使用は最低限で済む。春にはウグイスなどの鳥や小動物の鳴き声が聞こえてくる。夏はすべて開け放って風が通り抜ける。秋には、虫の声に耳を傾け、田んぼや木々が色づくのを楽しめる。冬は田んぼを焼くにおいがし、空気の清らかな空には星が瞬く。


© Jérémie Souteyrat

撮影=ジェレミ・ステラ(2013年) © Jérémie Souteyrat
文=マニュエル・タルディッツ(原文フランス語)

バナー写真=切通しの家(設計:菅原大輔、2011年)、リビングダイニングから眺める北側の田園

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  • [2018.06.05]

写真家。1979年、フランス生まれ。東京在住。2001年に大学の工学科を卒業。09年、日本を拠点に活動することを決意。ル・モンド、ウォールストリート・ジャーナル、ELLE、デア・シュピーゲルなど、欧米のメディアで活躍。14年、初写真集『tokyo no ie』をフランスで出版(ル・レザール・ノワール)。17年、その日本版『東京の家』を出版(青幻舎)。

website:www.jeremie-souteyrat.com

東京を拠点とする建築家。株式会社みかんぐみ一級建築士事務所の共同代表であり、明治大学の建築・都市デザイン国際プロフェッショナルコースの特任教授とICSカレッジオブアーツ教授を務める。数々の展覧会で作品を発表。受賞歴多数。展覧会:ARCHILAB 2006「都市に棲む:日本の若手建築家30人による都市環境から捉えた建築デザイン展」、UIA2011 東京大会(第24回世界建築会議)、「東京 2050//12の都市ヴィジョン展」等。著作:『家のきおく』、『Post-officeワークスペース改造計画』、『団地再生計画/みかんぐみのリノベーションカタログ』、『東京断想』。

website:www.mikan.co.jp

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