建築家がつくる家

住宅探訪(6) リビングの向こうに田園が広がる家

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都会のオフィスで一日の仕事を終えて帰宅し、玄関を開けたらドアの向こうに田園風景が広がっている—。何もSFの世界の話ではない。町の外れという立地を生かした建築家の発想力で、現実の日常的な体験になるのだ。

切通しの家(設計:菅原大輔、2011年)、南側の玄関アプローチ

玄関を通ってリビングへ。奥に見えるのは子ども部屋

子ども部屋

リビングダイニングから眺める北側の田園

ウッドデッキのテラスから見たリビングダイニング

テラスから北東の眺め

千葉県の房総半島、大網白里市は都心への通勤圏として宅地開発が進む。親子4人が暮らす家は、その新興住宅街と昔ながらの田園地帯のちょうど境に位置する。家を建てるにあたって、都内に勤める父親が建築家に出した第一の要望は、周りの田園風景を見ながら、家族みんなで音楽を楽しめるような共有スペースがほしいということだった。

建築家が考案したのは動物の巣穴をイメージした住居。住宅街側の通りに面した外観は、幾何学的な形状の無機質な箱といった印象で、内部はまったく見えず、住人のプライバシーはしっかりと守られている。しかし中に入れば、光と風をふんだんに取り込んだ、より生命感にあふれる空間が広がり、自然がすぐそこまで迫っている。

リビングダイニングの大きな4枚のガラス戸はスライド式で、すべて引き込めるようになっている。戸をしまえば、リビングからウッドデッキのテラスまでが一続きになって、完全に開放された空間となる。目の前に広がる田園風景を眺めながら、大人たちはリラックスした時間を過ごし、子どもたちはのびのびと遊ぶ。毎日の食事の時間が、ピクニックになる。

この開閉自在の仕組みのおかげで、季節の移り変わりにも適応でき、冷暖房の使用は最低限で済む。春にはウグイスなどの鳥や小動物の鳴き声が聞こえてくる。夏はすべて開け放って風が通り抜ける。秋には、虫の声に耳を傾け、田んぼや木々が色づくのを楽しめる。冬は田んぼを焼くにおいがし、空気の清らかな空には星が瞬く。

動画:切通しの家


© Jérémie Souteyrat

撮影=ジェレミ・ステラ(2013年) © Jérémie Souteyrat
文=マニュエル・タルディッツ(原文フランス語)

バナー写真=切通しの家(設計:菅原大輔、2011年)、リビングダイニングから眺める北側の田園

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